1、「死んだ筈が異世界に来てしまった」
どんよりした曇り空。屋上から見上げるこの空は、俺の心そのものだった。辛い事ばかりのこの世に、未練などない。
「さようなら」
俺はそれだけ呟いて学校の屋上から身を投げた──
★★★★
んぅっ……体が重い。
俺は、死ねたのか?
「くっ、なんだここ……」
重たい体を起こすと、周りは一面生い茂った草に高く聳える木々。ここは何処だ?
「あれ? なんか握ってる」
手に何かを握りしめている事に気づいて確かめると、それはクシャクシャになった一枚の紙だった。
「なんだこれ……? あ、なんか書いてある」
紙に書いてある文には、こう書いてあった──
『ハヤサカユズルよ。どうせ死ぬならこの異世界で新しい人生を送ってから死ぬが良い。異世界で生きるために、「クリエイティブ」というスキルと、「人脈」というスキルをお前に授けた。
それを使って好きに生きてみるがいい。因みに、クリエイティブというスキルは、何かと何かを組み合わせる事で新しい物を作り出す事が出来るスキルだ。
試しに、落ちている木の枝と石ころを組み合わせて槍でも作ってみろ。クリエイティブスキルを使う時は、頭で創作物をイメージして「クリエイティブ」と、唱えれば良い。最初の創作物は特別な力を与えてやる。それが、お前を守る矛であり盾となろう。
~神より~』
「なんだよそれ……まるで下手なラノベみたいだな」
そうは言っても、『クリエイティブ』とかいうスキルは気になる。この手紙によれば、二つの物を組み合わせて何か新しい物が作れるらしい。
枝と石ころで槍ね。待てよ……最初の創作物は、特別な力が付与されるみたいな事が書いてあったな。
どうせ特別な武器を作るなら、慎重に考えた方が良さそうだ。
まあ、どうせこれは夢かなんかだろ。屋上から飛び降りて死なず、今は寝たきりの植物人間ってとこか?
それならそれで良い。あんな腐った世界で生きていくなら、夢の世界で生きている方が何倍もマシだ。
どうか、覚めない夢であってくれ。
「……さて、ただの石ころと枝じゃつまんないから、何か良さそうな物はないかな」
周辺を見渡してみたが、一面草と木だけの景色しか見えない。
「しょうがない、暫く歩いてみるか」
最初に組み合わせる物を探すため探索に出る。
歩けど歩けど周りの景色は変わらない。
しかし、暫く歩いた所で拓けた場所へ出た。そこは円形に広がった野球場ほどの場所で、小さな小川が流れている。
そして、最も目をひかれるのが、中央で眠っている謎の巨大生物だ……。大きさは、ゾウ位はありそうで、金色の体毛と銀色のたてがみが尻尾まで繋がっている。
良く良く観察してみると、大きな犬っぽい。とりあえず、此処から逃げないとヤバそうな事だけは分かった……。
『どこへ行く? 迷い人よ』
俺が後ろにゆっくり下がろうとすると、耳からでは無く、頭の中でその言葉が響いた。
その甘ったるい声は、大人の女性の声だ。
まさか……あの大きな犬から?
『貴様、異なる世界から来たな? 神の残り香がしておる』
大きな犬は体は起こさずに、目だけを見開いて俺の頭へ問いかけてくる。
「た、多分そうです。良く分かっていませんが……」
『そうか……それで、貴様はこの世界で何をする?』
「いや、何をと言われましても……と、とりあえず、人と関わらずに静かに過ごせれば良いかな?」
『ハッハッハッハッ、そうかそうか! 迷い人で世捨て人とはな! 面白い、此方へ参れ』
え、まじかよ……喰われるのか?
『なにもとって喰う訳ではない。さっさとこい』
「わ、分かりました」
どっち道逃げられそうにないので、大きな犬へとゆっくり近づいて行く。
『何をそんなに震えておる』
いや、そりゃ震えるさ……怖いもん。
『我が怖いか?』
「は、はい……」
『仕方がない。これならばどうだ──』
そう言うと、大きな犬の姿が変わっていく。大きさは俺と同じ位で、金髪に碧い瞳の綺麗な女性へと変化していた。
だが完全に人ではなく、頭には犬耳が生え、銀色のストライプが入った金色の尻尾をふわふわと漂わせている。
「我が名は“フェンリル”──これならば怖くなかろう?」
「フェンリル? オーディンを喰った狼……」
「ほう、良く知っておるな。ラグナロクを思いだす……」
ま、マジか!? ラグナロクで最高神オーディンを喰った伝説の狼フェンリル……。確か、ロキと女巨人アングルボザの間に生まれて、下にはヨルムガンドとヘルが居るんだっけ?
それにしても、この夢はとんでもない夢だ。
俺の妄想力は凄いな。てか、それより……。
「服を着てくださいっ!!」
「服? そんなものはない!!」
本当に凄い夢だ。
美女の全裸に興奮して、鼻血まで出るのか。
……あれ? 鼻血が出過ぎて意識が──