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マシーナリー・ノア  作者: ガラクタ
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プロローグ

初投稿です!

至らぬ点が多いかと思いますが、何卒よろしくお願いします!


 朦朧とする意識の中、ひどく焦燥に彩られた声が聞こえてきた。


「逃げて、あなただけでも逃げるの!」


 それは他ならぬ俺自身に向けられた言葉。


 世界の終焉とも言える事態の最中、同じ境遇に置かれている筈の目の前の少女が俺に向けて言った言葉だった。

 煌めく銀色の髪が特徴的な、やや儚げな印象の女性のその言葉に、何とか意識を持ち直した俺は問い掛ける。


「俺だけって……お前はどうするんだ?」


「私は、いいの」


 すると、彼女はおもむろに何かを取り出す。

 一見すると土星のような、光の輪が常に囲い続ける水晶のような物体を。


「……それは?」


「これは、試作品の世界軸移転装置『転境界(ワールド・シフター)』。未完成品だから効果は一度きり、どこに飛ぶかも指定できないけど、このままここにいるよりはマシよ。これを使って、キミだけでも逃げて」


「ふざけるな! 俺達は同じ部隊の仲間だろ! なのに俺だけ逃げるなんてあり得るか!?」


 彼女──キアラ・クロッツは、部署は異なるが俺と同じく『反抗勢力(レジスタンス)』の一員だ。

 反抗勢力……何に対して反抗しているのか、なんてことは今まで問われたことが無い。


 探すまでもなく、その対象は俺の視界に現れる。



『──ィ───ギ───ィ──!!!!!』


 錆びた鉄を擦りつけたかのような咆哮。

 人型のような、化け物のような、何とも形容しがたい歪な形状の機械が天を仰ぎ、何メートルもある長い腕で目の前の建造物を乱暴に薙ぎ払う。


 『機工哨兵マシーナリー・センチネル』『M-551型』など呼び名は数多く存在するが、俺達は単純に“センチネル”と呼称する事が多い。所謂“雑兵”だ。

 奴らが何かに従って動いているのは分かっているが、それが何なのか、何故こうして度々人類に牙を剥くのか、そこまでは分かっていない。


 これは今から二〇年前に、人類は一〇〇〇人以上の犠牲者を出してようやく一体を仕留め、そこから解析によって得た情報だ。

 その価値を知っているからこそ、人々は長年“知らないまま”になっている敵の全貌について、俺達反抗勢力を責め立てたりしない。


 たったこれだけの情報であっても、人々が何十年もかけ、何千何億もの犠牲を払ってまで得た情報だ。遺族にとっては形見同然とも言える戦果を貶めようとする者は少ない。


 かく言う俺もそのひとり。

 その時に父親を亡くしていた。丁度、母親が俺を妊ったかどうかの頃だっただろう。

 もっとも、聞かされたのは三年前、母親が病に倒れ、他界する時だったのだが。


「俺の父親も奴らに殺された。そんな奴らから……俺だけおめおめ逃げられるか! 刺し違えてでも一矢報いてやる」


「バカ言わないで! 分かってる筈よ、奴ら侵攻の度にどんどん強くなってる。二〇年前に倒せたはずのセンチネルに、今は手も足も出ない。おかしいと思わない? 私達じゃ、あいつらに勝てないのよ。一矢報いるなんて、人類絶滅覚悟でやり合っても無理なの!」


 ちなみに俺もキアラも年齢は一九。当然、その時のことを知る由は無いが、歴史的出来事だったそれは今も代々語り継がれている。知らない方が非常識と見なされると思って間違いは無い。


 彼女も色々事情は抱えているようだ。いや、反抗勢力に入ろうとする者は皆、誰しも抱えている“想い”がある。

 どれだけ悲惨な最期を迎えるとしても、“自分たちの手で勝ちを掴み取りたい”と、この世で最も危険な場所へと飛び込むような、そんな連中。


 それが俺達、『反抗勢力』なのだから。


「覚悟なら出来てる。この場にこうして来た時点で、俺は殺される覚悟で、ここに立ってるんだ!! そこを退いてくれ。撤退の意味が無いなら……俺は」


「退かない。私だって覚悟は出来てる。でも……キミを失う覚悟は……この期に及んで揺らいじゃったの」


「それは、どうい────」



 爆音のようなセンチネルの咆哮。それが俺の問い掛けをかき消した。何かを探すように、それとも気の向くまま、周囲の建造物を薙ぎ倒していく。

 凶暴さで言ったら、恐らく今日のこいつがもっとも酷い。時間が経つ毎に、まるで迫り来る期限に追われているかのように、動きが乱雑に、大きくなっていく。


 時間が、ない?


 ────

 ────


 ────pi



「……ま、まさか」


 不気味に反響する電子音。

 こんなことは考えたくはない。考えたくはないのだが、もし仮に目の前のセンチネルが“何かしらの時限装置に対して”反応を示し、その結果の暴走状態だとするならば。


「……自爆」


「確証はないけど、その可能性はあると思う」


 キアラの方は、少し前にその可能性に気付いていたようだ。特に焦ることもなく、俺の予想に対して自身の見解を述べる。

 

「わかる? これが本当かどうかは問題じゃないの。でも、この場に留まってたらどの道助からない。これは絶対。分かったらキミはこれを使って」


「……」


 出来ない。

 こんなことを言ったところで繰り返されるのは不毛な譲り合い。だからといって自分がこの装置で危機から逃げ果せるのも考えられない。そんなことをするなら皆と一緒に死ぬことを選ぶ。選びたい。


「ノアくんは優しいから。絶対に逃げないって事は知ってる。だからさ、ゴメンね」


「……? キアラ……────ッ!!」


 突然、彼女の細い右腕が俺の胸に突き刺さる。

 勿論、攻撃力としてはそこまでではないが、完全に意表を突かれた俺は、肺から空気を叩き出されるような声を漏らした。


「キ……アラ」


「ゴメンね。でもやっぱり、私はキミに生きて欲しい。例え、二度と巡り会えない異世界の果てだとしても」


 俺の胸に押し当てられたのは、世界軸移転装置『転境界』。死の運命から逃れるために世界の境界を渡る装置。





 ────創り出された人類の希望。


 響き渡る動作音がこれから先の未来を狂わせていく。良くも悪くも、それによって大きく運命を動かされるのは俺自身となる事を、この時の俺は分かっているつもりで何も分かっていなかった。


「バイバイ……ノア……く……ん」


 彼女の声すらも、一瞬で遠く離れていく。

 周囲の景色が光の粒子となり、渦巻き、混ざり、分裂を繰り返していく。




 そんな気が狂いそうな光景がしばらく繰り返された後、俺の意識は壊れた機械のように途切れた。

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