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「背教のガンビエル」

 荒野をすり鉢状に抉る空間。

 そこにはかつて街があった。

 斜面に沿って家が立ち並び、中心に大きな神殿が置かれていた。


 いつしか人が去り、長い年月を経て町は風化し遺跡と化した。


 やがて蜥蜴人リザードマンが住み着き、五十を超える数が住まう集落を作るに至る。


 遺跡に残されていた一つの宝石。

 人が星輝石と呼ぶ物が遺跡に残されていた。

 蜥蜴人リザードマンはそれを守り神として祀り、代々守り抜いてきた。


 しかし、人と交流を持ち人語を理解した彼らのうちの一体が、その宝石が高値で売れ、その事で食料を手に入れることが出来ると知った。


 夜明け前、他の蜥蜴が眠りにつく中、彼は宝石に手を伸ばした。


 異変は直ぐに起きた。


 掴んだ宝石から、闇が溢れ出る。まるで、水のように。リザードマンの腕に絡み付く。

 咄嗟にそれを捨てようとするが、最早それは叶わなかった。


 闇は、繭となり、そして、中より異形が産まれ出る。

 かつて、『背教のガンビエル』と呼ばれ、人々を恐怖に巻き込んだ堕天使の封印が解かれた瞬間である。


 異変に気付いた蜥蜴人の戦士達は、それを排除する為に襲いかかった。

 しかし、彼らの持つ木や骨で出来た、或いは、錆と刃こぼれだらけの使い古された武器ではガンビエルの体を傷付ける事は出来なかった。


 唯一、シャーマンが放った魔法のみは例外であった。


 背後から火球を炸裂させ、その命と引き換えに動きを止めることに成功する。


 朝日が昇り、すり鉢状の遺跡の中心で体を癒すガンビエルを横目に蜥蜴人達は穴から這い出し、まず子供達を逃す。


 そして、残った戦士達が上からガンビエルを睨むままの時間が過ぎる。


 穴の底には多くの卵が残されており長年暮らした住処と共にそれを捨てる、その決断を蜥蜴人の長は下さねばならなかった。


 だが、その前に逃した筈のババロが、ヒザマルを連れ戻る。


 ◆


 悪霊とやらを、集落だと言う盆地の上から眺める。


 ひとまず巨鳥で無くて良かったと思う。


 リザードマンを二回りほど大きくした濃紺の魔物。

 その全身を包む鱗は逆立ち、頭部から後ろの伸びる二本の角と背の羽は竜を思わせる。


 穴の底、朽ちた石畳の上に座り込んで居る。


『まずいの』


 そうだな。

 まあ、鳥じゃ無かった分儲けだ。

 羽は生えてるけど。


 リザードマンと戦いの所為だろう。

 皮膜が焼け落ちて居る。


『アレはお前が思う以上の物だ』


 知ってんのか?


『背教のガンビエル。

 そんな名じゃった。

 本来なら人など到底叶う相手では無い』


 何でそんなのが昼寝してんだ?


『知らん。覚醒する前に逃げた方が良いぞ』


 美人がご立腹だけど?


 ババロとリザードマンの集団が言い争いをして居る。

 戻った事も、俺を連れて来た事も気に入らないらしい。


 再びガンビエルを観察する。


 確かに強そうだが、親父の方が強そうなのは気の所為か?


「“人の戦士よ。何故ここに来た?”」


 偉そうなリザードマンが近寄って来た。

 ババロと周りの話を聞くに、族長でババロ達の祖父らしい。


「“頼まれたから”」

「“ババロにか。命を差し出す様な理由にはならん。立ち去れ”」

「“分かった”」


 俺は立ち上がり、穴の淵へと歩みを進める。


「“何故そこまでするのだ?”」


 そりゃ……雁首揃えて絶望してる連中を見捨てる訳にはいかないだろうよ。

 それが人外でも。


 このまま帰ったらあのおばさんに怒られるだろうし。


「“竜のお告げだから”」


 て事だ。

 責任持って何か弱点とか教えろ。


『剣は効かんぞ』


 え?


『あの折れた刀なら或いは』


 そう言う事は、格好つける前に言ってくれない?


 言われた俺はその折れた刀、親父より譲り受けた名刀、手火丸に手を掛ける。

 曰く、ヒヒイロカネの芯鉄を持つ逸品。

 熱を伝え、淡く光り、何よりも硬い。


 と、言うわりには三分の二辺りから折れていておおよそ刃が地面から腰の辺りまで。

 それでも一般的な剣よりは長いが。

 ヒヒイロカネが何なのかも良く分からない。

 光ってるところとか見た事無い。


 そんな感じだけど、何か凄い物らしい。


 微動だにしないガンビエルを見ながら崩れ掛けの階段を下る


 神殿の跡地か何かだろうか。


 半ば風化した石畳の上で、ガンビエルとやらと向かい合う。

 距離はおよそ三メートル。


 とはいえ相手は地べたに座り込み眠って居るのだが。


 日が傾いて来て、穴の底へと差し込む光が陰る。


 ガンビエルの体をすっぽりと影が覆った瞬間、その瞼が開き両眼が俺を射抜く。

 直後、両腕両脚で地を蹴りこちらに飛びかかってくる。


 腰を落とし居合抜きで迎え込む。

 目論見通りとは行かず、振り抜くこと無く途中で弾き返された。


 僅かに振るのが遅れたか。

 そして、思った以上に硬い。


 後ろに飛び、間合いを取る。

 追いすがり、伸びた爪で切り裂かんと腕を振るって来る。


 体を捻り、刀でいなす。

 返す刀で敵の鱗を切る。


 僅かに浅い傷を付けた。


 焦れるな。

 親父の方が強い。


 手を間違えなければ勝てる敵だ。


 先に手を変えたのは敵の方。


 ガムシャラな飛び込みを止め、後ろに下がりこちらの様子を伺う様に動きを止める。


 そして、両手を下げこちらを見据える。


 魔法!?


 ガンビエルの顔がグニャリと歪む。


 水!


 理解した時は既に遅く、そのまま俺に迫り来る水の直撃を受ける。


 踏ん張りきれない衝撃に襲われ後方に弾き飛ばされる。


 息が止まり、視界を失う。

 地を転がりながら、動きを止めない事だけを考える。


 起き上がり、刀ですぐ間近に迫る爪を受け止める。

 もう片方の爪が横手から迫る。

 躱し切れず、その爪が俺の体をえぐる。


 致命傷では無い。

 一旦、大きく下がる。


 徐々に押され始めて来た。


 ……傷口が熱い。

 これは、ただの切り傷では無いのか?


『毒じゃ』


 黙れ。

 気が散る。


『長くは持たんぞ』


 頭から声を追いやり、剣先を下に向ける。


 ――地の構え。

 そのまますり足で間合いを詰める。


 再び敵が魔法の構えを見せる。


 一気に前に。

 刀の間合いに入る、その前に水が押し寄せる。

 再度、衝撃。


 自らを土と化し、それを受け止め更に右足を一歩前に。

 静かに刀をすくい上げる。


 ――麒麟の太刀。


 一息に頭上まで。

 手火丸が、光を放ちながらガンビエルを下から切り裂く。


 ……浅い。

 いや、力が届いていない。


 更にもう一歩、左足を。

 剣先を引きながら、追撃の力を込める。

 そして、胴を一息に薙ぐ。


 ――白虎の太刀。

 金剋木の力を込めた一撃。


 それは、ガンビエルの胴を皮一枚残し分断した。


 目を見開き、大きく口を開け、そして、黒い光を放ちながら小さく収縮して行く。


 あっという間にそれは、六角柱状の透き通った宝石へと姿を変え、乾いた音を立て地に落ちる。


 俺はその場で片膝を付く。


『ふむ。見事じゃな。

 そのまま動くな』


 爪で裂かれた所が熱を帯びて居るのが分かる。


 だが、次第にそれが引いて行く様な気配がした。


 何をした?


『毒を消した。最も傷は塞がって無いがの』


 そんな事出来るのか。


『まあの。それより、放っておくとまた蘇るぞ』


 地に落ちた宝石が、夕日を反射しながら僅かに黒い靄の様なものを発している。


 放っておくなと言われても、どうすりゃいいんだ?

 砕けば良いのか?


『砕ける様な物では無い。

 儂が封印しよう。

 拾い上げよ』


 言われた通り、五センチ程の宝石を拾い上げ指でつまむ。

 これは、水晶か。


『暫く静かにしておれ』


 そう言われた直後、頭の中に聞き取れない言葉が響き渡りさらに、俺の口が聞き取れない言葉を紡ぐ。


「―――――」


 水晶が一瞬白く光る。

 湯気の様に揺らめいて居た黒い靄は消え去り、なんら変哲のない水晶が手の中に。


 今のは?


『竜の魔法じゃ』


 へー。

 俺だけでも使えるのか?


『力の流れを理解し感じ取れば出来るだろうが、まあ、人には無理じゃろ』


 他にもあるのか?

 さっきの奴が使った見たいな攻撃出来るやつとか。


『あるぞ。教えてやっても良いが、使えんと思うぞ』


 諦めたらそこで試合終了なんだよ。

 親父が言っていた。


 さて、帰ろう。


 脇腹を抑えながら立ち上がる。

 取り敢えず、回復薬を塗ろう。


 振り返るとリザードマン達が歓声を上げながらこっちへと向かって来ていた。

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