鉱山のリザードマン
寝苦しさで目が覚めた。
「あ、起きた?」
また、美少女(男)が馬乗りになって居た。
「……すいません。その気は無いんで帰って下さい」
体が動かない。
「大丈夫! 私を信じろ!」
ドヤ顔の意味がわからない!
◆
「おかしい……」
口を尖らせ、そして、全裸で俺の上に座り込むマーリー。
「何が?」
「ヒザマルで全然良いのに、なんか、反応しない」
知らん。
そして、俺はお前で全然良く無い。
「何だろ。疲れてるのかな?」
「傷が開く前に帰れ」
重い。
そして、腹の上に乗った物の感触が不愉快だ。
「くそう。
日を改めよう。
また来る」
そう言ってそそくさと服を着てマーリーは部屋から出て行った。
もう来んなよ。
てか、鍵かけたと思うんだけど……。
『まあ、魔族と竜族じゃからな。
互いの本能が拒絶するんじゃろ』
そうなの?
『おそらく』
じゃ、呪いのお陰で俺の貞操が守られて居る訳か。
『感謝せい!』
しねーよ。バーカ。
◆
朝飯を食って、冒険者ギルドへ。
あれだけ頑張ったのに報酬はゼロ。
まあ、フルグレイには聞いていたけれど。
しかも、別室で事件の聞き取り。
「お疲れ様でした!」
びしっと敬礼をしながら労を労ってくれる受付嬢。
無言で同じ仕草を返す。
ミラーリング効果と言う奴だ。
「お姉さん!」
俺のとっておきのテクニックがその効果を発揮する前に、ギルドに子供が飛び込んで来る。
「どうしました!?」
「坑道に! 蜥蜴が!」
◆
近くにある鉱山の坑道に蜥蜴人が現れ、仕事にならない。
そう言う事らしく、ギルドに馬を走らせ討伐の依頼に来た。
一日、採掘の仕事が出来ないだけで大損害だから至急何とかして欲しい。
その依頼は、その場に居た俺にそのまま預けられる事になる。
ギルド経由で馬を借り、飛び込んで来た少年と共に鉱山を目指す。
◆
ツナギの服を着た屈強な男達が俺を待って居た。
「父ちゃん! 連れて来た!」
その中の、一際大きな髭面の男が俺を値踏みする様に見て眉間に皺を寄せる。
「一人か」
「取り急ぎは俺だけですが、応援の手筈はついてます」
「そうか」
受付嬢は、人の手配が出来次第向かわせると言っていた。
そして、人手不足だから当てにはするな、とも。
蜥蜴人なら、まあ、一人で何とかなるだろうと思う。
多分。
「それで、蜥蜴人は?」
馬から降りながら問う。
「あの中だ」
坑夫が、削り取られた崖の下に開く穴の一つを指差す。
崖の上に置かれた巨大な鉄の歯車は完全に停止して居る。
本来なら、蒸気を上げながら轟音を響かせて居るのだろう。
「ひとまず様子を見て来ます」
崖に備え付けられた、鉄製の階段を駆け下りて行く。
坑道の入り口は、木で補強されていて地面にはトロッコの線路が引かれている。
なだらかに下って行くその道は、作業の途中だったのかランプの灯りが灯されたままだった。
槍を持っていた。
そう言われたので剣を抜き、中へ。
ひんやりとした空気と湿気が身を包み、土の匂いが鼻を刺す。
やや早足で中へと進んで行く。
やがて、分かれ道。
下か右か。
立ち止まり、考える。
下か。
『右じゃ』
はい。
便利ですね。
何でわかるの?
『息遣いが聞こえる』
……俺の耳で聞いてるんだよね?
それとも背後霊的な存在なの?
『存在する音を聞き分けるんじゃ』
そう言うものなのか?
ともあれ言われた通りに進む。
何度目か言われた通りに道を曲がり……。
居る。
坑道の先、右に曲がる分かれ道。
その先で待ち構えて居る気配がする。
転がって居る石ころを拾い、放り投げる。
それが通り過ぎると同時に飛び出し、こちらへと向かい来る茶褐色の生き物。
姿勢を低くし、手にした槍を突き出しながら突っ込んで来る。
その背丈は俺より少し小さいくらいか。
身を捻り、槍を剣で叩きながら当身を入れ弾き返す。
一歩下がった所を追い縋り蹴り飛ばす。
体制を崩され仰向けに転げる蜥蜴人。
牙を剥き出しにして睨みつけて来る。
『……美人じゃな』
そうだな。
……え? あれ?
『無理に殺す事も無かろう』
バカ言え。
こっちが殺される。
『まあ、待て』
「“大人しく去れば命は取らん”」
俺の口から知らぬ言葉が漏れる。
「“行く所が無い”」
リザードマンの、発する言葉が……理解できる。
稀に人の言葉を学習する奴も居るとは聞いて居るが、目の前のリザードマンが発して居るのは人の言葉では無い。
「“住処へ戻れ”」
「“住処は悪霊に襲われた”」
悪霊?
「“……助けに行く。案内せい”」
は?
待て!
何で勝手に!
『眷属の危機じゃ。それに美人が困っとる』
……まあ、美人だけども。
……ん。
いや、待って。
蜥蜴だよ。
あれ?
うん。どう見ても蜥蜴だ。
言っちゃ悪いが、気持ち悪い。
あれ?
でも美人か?
どうなってんだ?
『呪いの所為では無いか?』
うぇぇぇぇ!?
これは!
キツイ!
「“無理だ。殺される”」
だってよ?
「“見くびるな。隠れて居る者を連れてここから出るぞ”」
「“なぜわかった!?”」
「“仲間を助けたいのなら早くしろ”」
「“……信じて良いのか?”」
「“殺すつもりならもう殺して居る”」
「“わかった。ブブラ、来い”」
そう言って振り返るリザードマン。
呼ばれて出て来たのは、子供ほどの大きさのリザードマン。
……妹か。
一目で雌雄まで分かるようになってしまった……。
「“どうしたの? お姉ちゃん”」
「“皆の元に戻る”」
一瞬の間。
そして、コクリと頷く小さなリザードマン。
……まあ、あれだ。
動物であれ、子供は可愛い。
そう言う事にしておこう。
「“急ぐぞ”」
俺はそう言って坑道を出口へ向かい駆け出した。
俺も蜥蜴の言葉を喋れるようになったみたいだ。
世の中には、人知の及ばぬ事は山程ある。
そう言う時は、大人しく受け入れろ。
親父の言葉だ。
ただ、美人蜥蜴に欲情しそうだなんて、それだけは、受け入れるわけにはいかない!
◆
「坑道からは追い出した。
なので通して下さい」
大勢に取り囲まれ、背後でリザードマン二匹が怯えている。
「うむ……」
「待ちな!」
納得しかけた髭面の後ろからデカイ声。
そして、男どもをかき分け坑夫に負けず劣らずの迫力の女性が現れる。
「そっちの小さいのは置いてきな!」
俺を睨み、そして、俺の背後に隠れる妹の方を目で示す恰幅の良い中年女性。
「何故です?」
その女性は再度、俺を睨みつけてからしゃがみ込み視線を下げる。
そして大らかに両手を広げながら笑顔を浮かべ答えた。
「怪我をしてるじゃないか。さあ、おいで。大した薬は無いけどほっておくよりマシだろう?」
見ると、確かに小さい方は足から血を流している。
「“怪我を治すから置いて行けと言ってる”」
俺の言葉に、意外にも姉が素直に従う。
「“……わかった。ブブラここで待てるか?”」
「“嫌”」
「“すぐに迎えに来る”」
「“あの人は怖いか?”」
笑顔を浮かべ、おばさんの事を尋ねる。
妹は首を振る。
「“じゃ、足を見てもらってくれ。その後で迎えに来るから”」
「“絶対だよ?”」
俺と姉が同時に頷く。
そして、手を引きおばさんの元へ連れて行く。
おばさんは優しく妹を迎え入れ、担ぎ上げながら立ち上がる。
そして、呆気にとられる周囲の男達を一喝する。
「何ぼけっとしてんだい! とっとと仕事に戻んな!」
たったそれだけで蜘蛛の子を散らすように走り出す坑夫達が。
「蜴の一匹や二匹でおろおろして、ホントみっともない!」
その様子を見て呆れたようにおばさんが言った。
そして、俺の方を向く。
「心細いだろうから、アンタ達もとっとと戻ってくるんだよ」
「はい」
おばさんは最強だ。逆らうな。
親父の言葉だ。
◆
速歩で駆ける馬を先導するリザードマンの姉、名前はババロ。
普通に凄い身体能力なんだが、そのリザードマンが恐れるような物に果たして勝てるんだろうか。
馬上でそんな疑問が湧く。
『大方、巨鳥かなにかが現れたんじゃろう。
何、ひとひねりじゃ』
巨鳥って……。
どうするんだよ?
『上から押さえつければ良い』
……どうやって?
『どうって、上からじゃ。そのままじゃないか』
……人間は飛べないって知ってるか?
『知っておるぞ。バカにするな』
じゃ、俺も飛べないのは知ってるか?
『飛べんじゃろうな』
じゃ、どうやって上から抑えるんだ?
『……あ!!』
……あって何だよ!?
『……な、なんとかなるじゃろ!』
マジかよ。
こいつ、本当のバカか?
「“あそこだ”」
馬上で頭を抱える俺に、ババロが声を掛ける。
彼女の視線の先に、蜥蜴人の集団が居た。




