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ヒザマルの……妻?

「創生の光。終焉の力。

 孤独と絶望を知らんとする者へ再び歩く力を与え給え。

 再起せよ〈陽光〉」


 地に伏せたエリシャへ癒しを施す。


「う……」

「エリシャ。大丈夫?」


 拙い魔法。

 それは、かけた自分がよく分かる。

 それでも、少しエリシャは楽になっただろうか。


「……ミラーシャさん……無事ですか?」

「ええ。みんな、無事。ありがとう」


 そう言いながら彼女を抱きおこす。


 マーリーはイネスさんが起こして居る。


「歩ける? 戻りましょう」

「ええ……」


 ◆


 二人を馬に乗せ、丘の上に。


「ヒザマル……」


 彼が消えた方向を眺める。

 しかし、暗闇だけが広がって居る。


「心配?」


 イネスさんに問われ、私は素直に頷く。


「ここで待つ?」

「え?」

「私は、二人を連れ戻る」


 ここで……?


「……はい。二人をお願いします」


 私は……彼女の提案に従うことにした。


「うん」


 妖精の光に浮かび上がった彼女の笑顔は、とても幻想的だった。


 ◆


 どれくらいたっただろうか。

 丘の上に腰掛け、何時戻るともしれないヒザマルを待つ。


「オネイチャンはヒザマルのツマ?」

「え?」


 イネスさんを居た小さいリザードマンが寄って来て私に問いかける。

 その横に大人のリザードマン。


「ツマ……妻? え、違うわよ」


 どうしたのかしら。

 突然。


「コイビト?」

「それも違うわ」

「よかった」

「よかったの?」

「よかったノ!」

「どうして?」

「ヒザマルの卵はババロとブブラが産むの!」

「そう」


 ……え?


 卵って……一体どう言う事かしら?




 ブブラと言う小さいリザードマンの話を聞くと、姉らしいババロと言う目の前のリザードマンがヒザマルの卵を産みたいらしい。

 ブブラは、まだよくわかってなくただ真似してるみたいだけど。


 ……ヒザマルって、何なのかしら。


 ……どうして私はそんな人を待って居るのだろうか。


 町に戻ろうかしら。


 ◆


 お腹すいた。

 そう言えば、町の食堂に行く約束をしていたんだっけ。

 もう、帰ろうかしら。


 私を悩ませる二人の男。


 リザードマンの恋人が居たヒザマル。

 そして、異母弟フロー。


 まあ、ヒザマルは良いわ。別に。

 それよりも、フロー。

 再び王に。

 それはどう言う事なのだろう。

 あの化物は天羊騎士団の鎧を纏っていた。


 まさか、ピエンズ教を後ろ盾に?

 ……有り得ない話では……無い。

 ブリズニツ、そしてここレーヴ、更にピエンズ教のお膝元であるクリエスなどの王は、既に形骸化しているとは言えピエンズ教教皇より任命されると言うしきたりだ。


 つまり、教皇が認めれば、フローは、フレデリックはブリズニツに王なのだ。

 例え、国民が何を言おうとも。


 しかし、そんな事を国民が、議会が納得し受け入れる筈はない。

 ピエンズ教でもそんな事は承知している筈。


 一体、弟はどこで何をしているのだろうか。


 ◆


 空馬が戻ってきた。

 慌ててそれを捕まえる。

 荷物が括り付けたままのその空馬は多分ヒザマルが乗っていた物。


 どうして馬だけ?


「迎えにイクっテ」


 ブブラが私に言う。

 ババロが、舌をチロチロと出しながら何かを探るような仕草をしていた。

 たしか、ああやって匂いを感じ取っているとゼンさんが教えてくれたけれど。


 ババロが手招きをしながらゆっくりと走り出す。

 私は、戻ってきた空馬にまたがり、ブブラを乗せそれに続く。




 暫く走り、突然、ババロが弾かれたように四足で、全力で駆け出す。


「イタっテ」

「わかった」


 私は馬の腹を蹴り、彼女の消えた方角へと続く。

 闇の中から微かな物音が聞こえる。


 まだ、戦っているのだろうか。


 ◆


「ひえっ……」

「オオぉ!」


 闇の中に虫の群れ……。

 あれは、岩バッタ。

 人すら襲うことがあるというその魔物に襲われているのは、多分ヒザマル。

 それをババロが助けに入っている。


「あ、待って!」


 ブブラが私の静止も聞かず馬から飛び降りそちらへと駆け出す。

 全力で。


「ヒザマルっ!」


 声を上げ、彼を呼ぶ。

 虫の群れの中に突っ込んでいくとおそらく馬が持たない。食いつかれてしまう。

 それでなくても、あんなところに行くのは嫌だ。絶対!


 私の呼び声に応え、彼が手を上げこちらへと走り寄る。

 虫を!

 引き連れて!


「いやぁ! 来ないでぇ!!」


 馬を返し、手綱を扱く。


 無理っ!


 ◆


「創生の光。終焉の力。

 孤独と絶望を知らんとする者へ再び歩く力を与え給え。

 再起せよ〈陽光〉」


 馬の上からヒザマルの額へ手をかざしボロボロになった彼に癒やしを施す。


「はぁ……はぁ…………今の……は?」

「覚えたの。まだ、全然だけど」

「はぁ……はぁ……でも……今……の……フロウさんの……」


 この半年、と言うか今日の私の成長に息を整えながら目を丸くするヒザマル。


 彼が必死に振り払った岩バッタたちは、ババロとブブラの二人が相手をしている。

 ……相手と言うか……捕食……。

 とても……楽しそうに。


「食欲が……無くなるわ」


 その様子を遠巻きに眺めながらそう感想を漏らす。


「美人が台無しだな」


 水を飲みながらヒザマルがそんな風に言う。

 ……美人……?


 美人って言った? 今。


 蜥蜴を見て、美人!?


 どうなってるの? この人。


「ん?」


 私の視線に気付き首を傾げるヒザマル。


「よ、良かったわね。美人姉妹が助けに来てくれて」

「ああ。このまま朝まで荒野を彷徨うのかと思ってた」


 美人は否定しないのね……。


 ◆


 いっぱい食べて満足したのだろう。

 ブブラが馬の上で眠ってしまう。

 それを集落まで送り届ける。


「終焉なる光。

 始原の闇の中、行く先の絶望を照らせ。

 現れよ〈曙光〉」


 闇を照らす小さな灯りの玉。

 とても弱々しいその灯りを頼りに私は馬を替える。


 その灯りが、闇夜の中でとババロがヒザマルを固く包容するの仄かに照らす。


 はしたない。



 そして、町へ。


「腹減った……」


 呑気にヒザマルが呟く。


「よくあれを見た後で食欲が湧くわね……」


 ブブラの口からはみ出したバッタの足を思い出し、気分が悪くなる。


「ほぼ飲まず食わず。寝ないで馬を飛ばしてきたからな……」

「そうなの?」


 馬に揺られながら頷くヒザマル。

 そう言えば、数日前まで山の上のスコルピオに居たのだから嘘では無いか。


「……どうして、ここに?」


 そう言えば、それを聞いていなかった。


「どうしてって……君を助けに」

「……え?」

「間に合って良かった。ギリギリだったけど」

「…………ありがとう」


 私は、少し馬の足を早め顔が見られないようにしてヒザマルに礼を言う。

 少し、嬉しくて、そして、照れくさくて。


「そしたら逃げるとか、非道いよね」

「……仕方ないじゃない」


 笑いながらヒザマルが言う。

 だって、虫と一緒に向かって来るのよ?

 逃げない方がおかしい!


「ミラーシャ達こそ、なんであんなところに」

「それは、ブリズニツへ行く途中で……遺跡が見たいからって」

「ブリズニツか。戻るの?」


 軽口の後に、そう改めて問われ、考える。

 元々、ブリズニツは……ヒザマルを追って。

 そう言う話だった。


 とすると、この旅は中途半端だけれどここで目的を終えてしまった事になる。


 私は、振り返り首を横に振る。


 私の作り出した小さな灯りに照らされた彼は、半年前より随分と精悍な顔になって居た。


 ◆


 夜が更けて、それでも鉱山の町は眠っていなかった。

 真っ赤な顔で陽気な歌い声を上げる鉱夫達に混じり、まだ開いていた食事処に飛び込む。


「いらっしゃーい」


 店の女の子の元気な声。

 そして。


「……あれ!? ヒザマル?」

「コレッタ!? え、何でこんな所に?」


 ……知り合いが多いのね。女の子に。


 ◆


 三ヶ月ほど前からここで働いているという女の子の話をヒザマルが目尻を下げながら聞くのを眺めながらの食事。

 でも、味は良かった。


 そして、宿へ。


 こうして、私の短い旅はひとまず終わりを迎える。


 はあ。

 早くお風呂に入って寝よう。


——二部完


再開はしばらく先になります。

良いお年を。

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