手を掴む
鉱山の町で、ブブラと再会する。
更にかわいくなった幼蜥蜴、いや、もう少女だなぁ。
『いや、アウトじゃからな!?』
わかってるよ!
て言うか!
種族が違う時点で!
アウトなんだよ!
くそう!
しかし、そのブブラから聞かされた神殿騎士襲撃の話に、再会の余韻に浸る間も無く馬を走らせる事になる。
日が沈もうとして居た。
◆
上ってくる人影を見とめ、馬から降りる。
そして、刀を抜く。
遺跡の淵へ歩み寄る。
薄っすらとした月明かりの下、地に転ぶ二人。
マーリーとエリシャ。
そして上がってくるアドナキエル。
その横には……ミラーシャ。
『心を鎮めよ』
わかってるよ。
『分かってないから言ったのじゃ』
すまん。
……大きく息を吐く。
そうだ。
怒りは剣を鈍らせる。
アドナキエルとミラーシャが、俺を見上げ立ち止まる。
一瞥し、再び歩き出そうとするアドナキエル。
それは、道端の石ころを見つけたかの様で。
その横で、明らかに怯えの表情を浮かべるミラーシャ。
……もう一度、ゆっくりと息を吐く。
「ミラーシャ。二人は無事か?」
「はい」
ゆっくりと頷く彼女。
その横で、アドナキエルが再び歩き出す。
「行きますよ。王女。犠牲を増やしたくはないでしょう?」
そう、ミラーシャに声を掛け。
その声に自分のやることを思い出したかの様に急いで歩き出しアドナキエルを追いかけるミラーシャ。
そして、二人が斜面を登り終え俺に並ぶ。
「ミラーシャ。戻ろう」
刀を鞘に仕舞い、右手を彼女へ向けは差し出す。
彼女は、自ら望んで付いて行く訳では無い。
そう、願う。
しかし、彼女は俺を見て小さく頭を横に振る。
「天羊騎士。狙いはこれだろう?」
隠し持ったクリスタルを取り出し左手で掲げる。
そこで初めてアドナキエルが俺に興味を示す。
「聖ミスカのクリスタル」
「何故それを?」
「ここで拾った。彼女を解放しろ」
「王女は自らの意思で行動して居るのですが。
そうですよね? 王女」
「え、ええ」
ミラーシャが怯た声で答える。
「ミラーシャ。こっちへ」
再び右手を差し出す。
より、長く。
「でも……」
「大丈夫」
そう声を掛け、小さく一度頷く。
「もう、泣かなくて良い」
顔に涙の跡がありありと残るミラーシャにかけたその言葉に、彼女は破顔する。
そして、一歩こちらへと踏み出す。
更に一歩。
差し出した手に、彼女の手が重なる。
その手を握り締め、一気にミラーシャを引き寄せる。
「……ヒザマル」
そのまま胸に飛び込んで来た彼女を軽く抱き締め、そして俺の後ろへと隠す。
「まあ良い。クリスタルをこちらへ」
アドナキエルがつまらなそうに口にする。
「交換って話が成立した覚えは無いんだけど」
「力づくで奪おうか?」
そう言いながら視線を丘の下の二人へ送るアドナキエル。
「強欲だ。実に聖職者らしい」
俺は右手にクリスタルを持ち替える。
「ほらよ!」
「待っ!!」
アドナキエルが慌てて静止の声を上げるが俺は構わず右腕を振りかぶり、そして、南東の空へとクリスタルを放り投げる。
全力で。
風の魔法を纏わせて。
あっと言う間に暗闇の中へと小さな宝石は消えていった。
「貴様ァ!!」
激昂するアドナキエル。
「急いで追わないと誰かが拾っちゃうぜ?」
「この愚行、見逃すのは今回だけと思え!」
そう吐き捨て背を向け走り出すアドナキエルを睨みつける。
「目、力が漏れてる」
闇の中から、諌める様なイネスの声。
妖精の力を解き放ち姿を表す馬と彼女。
そして、彼女の腕の間に収まったブブラ。
「イッショだ!」
そのブブラが自分の目と俺の目を指差し嬉しそうに言う。人の言葉で。
「ア、戻っタ」
そっと、自分の目を抑える。
あんな風になってるのか……。
怒りとか、感情に反応してんのかな……。
まあ良い。
「怪我は?」
背中に隠れたミラーシャに問いかける。
「私は……大丈夫。でも……」
彼女は視線を丘の下へ向ける。
「イネス、二人とミラーシャを頼む。それと『ロケス』の力を借りたい」
「追うの?」
「当然だ」
◆
妖精ロケス。
捜し物を手伝ってくれる、もしくは物を隠してしまう悪戯な妖精。
それは、荒野の中から小さな宝石すら見つけてしまう。
その妖精に案内されるままに、放り投げたクリスタルを拾い上げる。
「ありがとう。ロケス」
そう声をかけると小さなその妖精は、ニコリと笑いスッと消える。
「ほら。急がないから誰かに拾われてしまった」
怒りの表情を向けるアドナキエルへそう、声を掛ける。
「どこまでも……愚弄を!」
馬のような下半身を支える前足を悔しそうに大地に打ち付ける。
微かに地面が揺れる。
クリスタルを仕舞い、そして、手火丸に手を掛ける。
アドナキエルの手にした馬上槍が炎を纏う。
……火か。
刀を正眼に構える。
火に克つのは水。
水の型。
ランスを突き出し、こちらに迫りくるアドナキエルを迎え撃つ。
馬上槍の突端を振り下ろす刀で叩き落とし、返す刀を腹から背に通す。
人であれば致命傷となるその一撃も、アドナキエルを止めるには至らず。
切り口より黒い霧を撒き散らしながら、再びこちらへと迫るアドナキエル。
しかし、馬上槍を包む炎を先程よりも儚く弱い。
……油断するな。
慢心しかけた自分を窘め、刀を構える。
◆
――玄武の太刀・纏う黒竜。
熱を発する馬上槍を水の魔法を纏わせた左手で抑え込み、同じく水の魔法を乗せた刀でアドナキエルを袈裟斬りにする。
刀は肩口から反対の脇腹へと抜け、アドナキエルの左半身が滑り落ちる。
馬の下半身が力なく崩れ落ち、勝敗が決する。
掴んだ馬上槍を離し、下がりながら両断されたアドナキエルを見下ろす。
その体がパッと青い炎を上げ燃え上がる。
自分の目線より高く立ち上る炎に咄嗟に後ろに飛び退くが、さほど熱は感じられず。
そして、その炎は怨嗟の叫び声にも似た音を発し一点に収束する。
小さく光が弾け、宙で青い宝石と化した後、荒野へと落下する。
……ガンビエルの時と同じだな。
それを拾い上げようと近寄る。
しかし、それより早く小さな蛇がどこからか現れ宝石を一飲にしてしまう。
「な!?」
ゆっくりと鎌首をもたげる蛇。
その視線が俺を射抜く。
首に、ひやりとする感覚。
いつの間にか、地の上から蛇が消え失せていた。
何かが、首にぐるりと巻き付き軽く締め上げる。
「ジルコンは回収する」
男とも女とも付かない声が、俺の耳元でそう囁く。
咄嗟に首の何かを引き剥がそうとするが、俺の手は空を掴むのみだった。
『サビクめ!』
珍しく、残留思念が忌々しそうに感情のこもった声を発した。
俺は、その場から暫く動けなかった。
死は、思うよりずっと近くに在るのかもしれない。
◆
荒野に座り、そして、それすら耐えきれず寝転んで仰向けに空を眺める。
動かねば魔物が寄って来る。
わかっては居るが、炎の槍を食らった体はあちこち痛み動きたく無い。
そして……ここ何処だろう……。
妖精に誘われ結構遠くへ来た気がする。
そして、乗って来た馬は……何処に行っちゃったんだろう……。
取り敢えず、来た方角……。
自分を鼓舞して、星を頼りにそちらへと歩み出す。
アドナキエルが残して行った、スコルピオの槍とエリシャの盾を手に。
地味に……重い。
はぁ。
馬、弁償だなぁ……。
……ていうか、荷物も……あの馬に括り付けたままだ……。
金も……水も無い……。
その事実が俺の足取りを更に重くする。
頼りの綱はおとぼけエルフ。
……無理だな。
……絶対寝てる。
『残念な知らせじゃ』
聞きたく無い。
『魔物が血の匂いに釣られて来たぞ』
知ってるよ!
クソが!!




