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フルグレイの憂い

「革命だなんだって言ったって、頭が変わるだけでさ、大多数の暮らしは変わらないんだよ。結局」


 ワイングラスを傾けながら、フルグレイはそう言い放つ。


「まだ一年だ。そう言い切るには早いだろう」


 士官学校として知られるサラーハ貴族学院。

 その同期であった、モラクがそう言うがフルグレイは笑いを浮かべながら首を振る。

 その達観した様子に、やはり見てきた者の言葉は違うなと思いながらモラクはワインを流し込む。


 隣国、ブリズニツ王国で革命が起こり一年。

 ブリズニツ共和国と名を変え、新たに興された議会は、しかし、相変わらず旧来の権力者である貴族達によって運営されている。

 半年前に王が、そして、二ヶ月前に王妃が衆人環視の中処刑されたのは、収まりの見られない平民の怒りと不満を躱すためだと囁かれている。


 そんな情勢から野盗などのならず者が増える事は必然であり、それらが流れ込まないように周辺国は国境の警護を厚くした。

 その事は、結果として共和国の議会を刺激する事となっている。


 本来の領主である父親、そして、兄が国境の警備へと借り出され留守を預かる身となったモラクにとって、フルグレイとの再会は久しぶりに訪れた肩の荷を下ろせる一時だった。

 夕刻、半ば強引に役務を終わらせ友を屋敷に招き入れる。


 厄介事を引き連れてきた友を。


 今、留守を預かる屋敷には百丁を超えるスチーム銃がある。

 それも、ゴロツキの類が持っているような市販の粗悪品でなく、殺傷能力の十分に備わった新式の改良型。


 それが、届け出もなく街に持ち込まれようとしていた。

 ここが目的地であったのか、中継地に過ぎなかったのかは定かでないが領地の、ひいては国の平穏を預かる身としては心穏やかではない事態である。


「もう一年。

 僕は、そう思うけど。

 この一年間への期待は、大きな絶望に変わりつつある。

 また、血を流さないと収まらないんじゃないかな」


 遠い目をしながらフルグレイは言う。

 モラクにとっては関係のない隣国の事であるが、平民が何をするか。それは気にかけねば成らぬである。


 その流れに巻き込まれ、この国も民主化へと歩みを進める。

 もう既に誰かがそれの機会を虎視眈々と狙っている。

 手元の銃百丁は、そう思わせるに十分な代物であった。


 仮にそうだとしたら、その時期は自分が思って居たよりも早いかもしれない。

 その時、自分はどう動くべきか。

 それは、想定しておかねばならない。


 最もモラクはその様な混乱を望み、ひいてはそれを利用しのし上がれると思うほどの野心家ではないと、そう自分を評しているが。


「戦争は嫌だな」


 モラクはポツリと呟く。

 人も金も大いに失うことになる。

 それは、領地を預かる者としては軽んじることの出来ぬことである。


「そうならないために、慎重に動いた方が良い」


 フルグレイが忠告したのは、百丁の銃のことである。

 本来ならば、賊に背後関係を吐かせ、その証言と共に騎士団に引き渡してしまえばよい。


 だが、今回はその騎士団の者も絡んでいる。

 背後に騎士団、そして大きな有力者が居ることは明白である。


「ひとまず、デルシアへ密使を送った」

「ん? あの男に?」

「ああ。最近南方方面に副支部長になったそうだ。ここにも挨拶に来たぞ」


 デルシア・メイデランド。

 サラーハ貴族学院で二人の同期であった男である。


「……副支部長か。出世頭だな」


 予想外の人物の名が出たところでフルグレイは空になったワイングラスを置く。


「まだ良いだろう?」


 モラクが次のワインの瓶を開けようとする。


「バカ言え。昨日一晩中馬を走らせたんだよ」


 そう言いながら立ち上がる。


「仕方無い。暫く居るのか?」

「いや、長居するつもりは無いよ」

「そうか。発つ前に声かけろ。絶対だからな」

「ああ。わかった」

「そう言えば、一晩剣を振るってたって言う小僧は何者だ?」

「さあ。詳しくは知らないけど有名な冒険者の弟子らしい。

 人を探すって言っていたから、雇うのは難しいと思うよ」

「それは残念だ」


 あっさりと考えを見透かされたモラクは肩をすくめ、ワインを開けた。


 ◆


 フルグレイとモラクが旧交を温める、その日の朝、つまりはヒザマル達がベルソーへ到着した日の夜明けまで話は遡る。

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