レーヴへ戻る
「悪い知らせがある」
礼拝堂から宿に戻り、ジェルメーヌの部屋を訪れ切り出す。
「何だ?」
……ご機嫌斜めだ。
顔が笑ってる分、余計に怖い。
「……アドナキエル。
汽車で王子を追いかけていた奴がここにいる」
「何? 揉めたのか?」
「いや。こちらには気付いて居ない」
「そうか。それで?」
「更にレーヴへと歩みを進める、とそう読む。
なので俺は追うつもりだ」
「狙いは何だ?」
「はっきりしない。
トラスか、レグラスか。それか……エリシャ」
その答えにジェルメーヌが眉間に皺を寄せる。
「エリシャ? 不名誉騎士だからか?」
「違う。エリシャは奴らが狙う星輝石って宝を持っている。
ただ、彼奴等がエリシャの居場所を掌握しているかどうかはわからない。
他で確かなのレグルスの王宮だ」
「……全て説明しろ。知っていること、全て」
俺は掻い摘んで、星輝石とそしてそれを教会が狙っていることを話す。
ジェルメーヌが腕を組み考え込む。
彼女が俺の話に異論を挟むことは無かった。
「エリシャと接触されるとミラーシャの所在も露見するな」
「まだ狙っているだろうか?」
「わからない以上避けたほうが無難だろう。
相手の行き先次第でそれも判明する。
山を下りて東進するならベルソー、レグラス、トラス。
北上するならば、オレンのエリシャ。そう考えられる。
一旦、他の可能性は排除する。
そうすると、最善策は山を下りると同時に二手に別れオレンへ先回りしつつ、騎士団の尾行……なのだが」
そこまで言ってジェルメーヌが再び考え込む。
俺も同意見だ。
「何か問題でも?」
「エリシャ達がオレンに居る保証が無い」
それは盲点だった。
「屋敷を出たのか?」
「その可能性もある」
なんて悪いタイミングだ……。
俺は思わずこめかみを押さえ、うつむく。
「行き先は?」
「ブリズニツ」
「何でわざわざ……」
ジェルメーヌが大きなため息を一つ吐く。
「まだレーヴから出ていなければ、ガラまで汽車で行ってそこから船。
だとしたら、途中で捕まえられるか?」
「騎士団を見張る方が確実そうだな」
「それが出来れば、な。
忘れたのか? 相手は汽車に走って追いつくような化物だ」
二人の間を暫く沈黙が支配する。
妙案が浮かばない。
「……まずは相手を探ろう。
どの道、山を下るのだ。
同道しよう」
「本気か?」
「相手は聖職者だ。救いを求めれば無下には出来まい」
そう、ジェルメーヌが結論付けたところで部屋の扉が外からノックされる。
「はい」
「お客さん」
外から返事をしたのはイネスだ。
ジェルメーヌが扉を開ける。
「ヒザマル、今カレ連れてきた」
「だから、何なのさ。それ」
『元カレがフロウ、今カレがルトなんじゃろ』
いや、何でお前が解説すんだよ。
同類なの?
『違う!』
大体、こんな時だけ出てくんな。
『こんな刺激でも無いと起きれないほど存在が薄くなってるのかもな』
それは、呪いが解けるってことか?
『それはない』
そうかよ。
「いや、今日はヒザマルに用は無い」
部屋に入ってきたルトがそう断る。
「残念」
「別に残念じゃないだろ……」
「私に用か?」
「ああ」
ジェルメーヌに勧められるままに椅子に腰掛けるルト。
「フルグレイと言う人物を紹介して欲しい。駄目か?」
「……え?」
ジェルメーヌが目を丸くして俺を見る。
「……なに?」
何で俺を見る?
「紹介って、嫌よ?」
そして、ルトに向き直り、若干戸惑いながら願いを跳ね返す。
「駄目か」
「いや、別に良くね? それくらい」
「だって、あいつは君らとは違うよ?」
「どういうこと?」
「……普通に、女が好きだと……そう、思う。多分」
ジェルメーヌが、ゆっくりとそう言った。
「「違う!」」
一拍の間を置いて、俺とルトが同時に否定の叫びを上げる。
その様子に嬉しそうに親指を立てるイネス。
「こいつはどうか知らしらないが! オレは、女が好きなの! 一緒にするな!」
俺を指差しながら椅子から立ち上がり叫ぶルト。
俺だってそうだよ。
「馬鹿らしい。何でフルグレイに会いたいんだ?」
俺は静かに対応する。
「ん、あ、ああ。レーヴ側にパイプが欲しい。それだけだ」
ジェルメーヌに視線を送る。
「そういう事か。まあそうだと思ったが」
本当か?
「その話、急ぐのか?」
「このままレーヴに戻るつもりなら同行したいと、そう思って居る」
ジェルメーヌが俺を見る。
「ルト、その事なんだが、俺も一度レーヴに戻ることにした」
「そうか。お前も戻るのか」
俺の言葉をルトは暫く考える。
恐らくは、残してきた軍のことだろう。
そして。
「まーあ、大丈夫か」
そう、俺と同じ結論に至る。
「しかし、どうして急に?」
「お前が連れてきた天羊騎士が問題なんだよ」
「いや、オレが招待した訳では無いが。麓で一緒になっただけで。
あのクソ真面目そうな騎士に何の問題が?」
「とりあえず、ここの聖槍は持って行くみたいだけど」
それが、直接的に誰かの問題になるかは知らん。
強引な手段とは言え、司祭が自ら差し出したのだから。
「何!? 聖槍を?」
「もう礼拝堂には無いぞ?」
「嘘だろ!?」
ルトは顔を青くして、雨の降る夜の街へと飛び出して行った。
◆
スコルピオには既にアドナキエルの姿は無かった。
しかし、雨が降り日が暮れた山へ追いかけるのは危険すぎると言う事で追跡は翌朝まで待たねばならなかった。




