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配達人ジェルメーヌ

「爆ぜろ〈灼光〉」


 突き出された左手。


「—————(拒み、弾け)」


 右に飛びながら左手で盾を作る。

 フロウさんの放つ魔法の衝撃を完全に遮断する。

 そのまま死角へと回り込む。


 フロウさんが身を捻る。


 踏み込み、逃げるその胴を手火丸で薙ぐ。


 切っ先がわずかに届き肉を切った。

 が、そこまでだった。


 振り向いたその先で待ち構えるフロウさんの剣。

 その刃は、俺の首をスッパリと斬り裂いた。


 ◆


 やっと一太刀。

 それでも一太刀届いたと喜ぶべきか……。


『毎日毎日よう続くのう』


 強者の影と戦う。


 あれから毎日続けて来た。


 その相手は俺の知っている者だけでは無い。


 俺の中に居る竜。

 それに立ち向かって来た数多の戦士。

 その記憶。写し身。

 それと戦う。


 楽しい。

 そして悔しい。


 みんな強い。


 そして、そんな奴らを葬って来た竜の凄さを改め思い知る。

 そんなお前と最早戦えないと思うと残念だ。


『阿呆。お前なんぞ一噛みじゃ』


 そうか。

 まだまだか。


 ◆


「お前はどこに居てもやる事が変わらないのか」


 宿に戻るとジェルメーヌが呆れ顔をして居た。


「変わらない。変える必要も無い」


 少なくとも、俺自身に関しては。

 余命はあと一年半。

 あっと言う間だ。


「ミラーシャは随分と変わったぞ」

「そう」

「マーリーとエリシャはまあ、相変わらずだが」

「ジェルメーヌは?」

「……変わるもんだな。人間は」


 何気無いその問い掛けに彼女には微笑みを浮かべる。

 ……変わった……かな? 少し。


「あっちに戻らないのか?」

「これでも忙しくてね」


 ルトの手伝いと牛頭に会いに山を往復する日々。


「自分の国に少しは目を向けろ」

「ん? 何で?」

「あっちも、情勢が揺らいでいる」

「そうか。

 でも、あまり祖国って感じでも無いんだよな」


 親父に連れられあちこち動き回って居たからだろう。

 気になるのは……美人の蜥蜴達だが、まあ、強かな種族だからな。


「こっちで恋人が出来た」

「出来て無い!」


 イネスの言葉にジェルメーヌが眉を跳ね上げる。


「お前……そうなのか?」

「違うって」

「ルトとそして、ミノさん」

「ルトって……お前、男なら誰でも良いのか?

 ミノさん?」

「ミノさん。山の上の現地妻。ミノタウルス」

「良いか!? 男にその気は無いし! ミノさんは強敵ともだ!」


 ニヤニヤするイネス。

 ジト目のジェルメーヌ。


 飯ぐらい、静かに食わせてくれ!


 ◆


「単刀直入に聞く。アンタ、オーギュスト商会のネズミか?」


 ジェルメーヌと引き合わせたルトが、彼女を睨みつけながらそう言った。


 貸切の酒場。

 と言っても、昼間なので単に営業して無いだけなのだが。


 夜は訓練を終えた兵士見習いと、それ目当ての女で賑わう。


 俺も何度か誘われたが酒にいい思い出がない事と、露出の多い服にも体が反応しないのであまり近寄る事は無い。


「昔の雇い主。今は何の関係もございませんわ」


 ジェルメーヌが淑女の仮面を外さずに答える。

 ルトが俺の方を見る。


「俺は信じるけど」

「そうか。ならオレも信じよう。

 不躾な質問をしてすまなかった」


 遠巻きに眺めるイネスがニヤリとする。


 暫く彼の手伝いをするうちに仲良くなった。

 と言ってもイネスが妄想するような関係では無く。


 ルトは真剣にブリズニツのいく末を考えている。

 そして、訓練の間中、最後まで諦めずに生きる為に足搔けと説く。

 さらに、腕も立つ。

 スコルピオの人間は、幼少より山で魔獣と戦って育つ。

 そういう事らしい。

 短槍の使い手で、銃の腕もかなりのもの。

 そんな人柄は、俺に限らず人を惹きつける。

 生まれ持っての物だろう。

 俺はそう見る。

 ただ、ルト自身はそれを使い人の上に立つつもりはあまりなさそうだが。


「他人の為に先頭に立って真っ先に命を張るなんてそんな恐ろしい立場にはなりたく無い。

 自分とその仲間達を守る。

 オレだけじゃなくて、皆がそれだけ考えれば良いんだ。

 やがて、それが広がれば守るべき仲間は国の住人になるし、守るのは国なんて広大で曖昧なもので無く自分達の土地だ。

 金の為に戦う傭兵より信頼がおける。

 名誉の為に戦う騎士よりしぶとい。

 個別には弱い兵士達だが、国を攻める敵に対しては何よりも強い。

 そうやって国を守る。

 それが出来た時、オレはそこに居なくて良い」


 いつか彼が真剣な眼差しでそう語っていた。

 少しずつ。

 本当に少しずつだがそれは形になりつつある。

 俺は、そんな兵士達が実戦訓練として魔獣退治に行く際に同行する。

 彼らの護衛として。

 彼らの軍隊組織の中には入らず、支援、補助と言う立場で。


 そんな俺たちの前に現れたジェルメーヌは、ルトにスコルピオ公爵へと取り次ぎを依頼した。

 彼の実家だ。


「スコルピオの公爵へ取り次ごう。

 ただ、直ぐには発てない。

 二、三日待って欲しい」

「よしなに」

「一応、用件を聞いても良いか?」

「レーヴからの密書を渡しに。

 中身は存じません」


 ジェルメーヌは笑みを絶やさずに言った。


「ヒザマルはどうする?」

「むしろ俺達が先に案内として発とうかな。

 ルトは後から追いかけて来ればいい」


 ルトに問われそう返す。

 イネスと共にジェルメーヌを連れて先に行ってミノさんと戦って来よう。

 一ヶ月ぶりだ。


「あら。置いてけぼりか。両手に花で実に羨ましい」


 ……。


「麗しの薔薇だな」


 二人に目を向け、そう返す。

 どっちも棘だらけだ。

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