お嬢様と僕っ娘と男の娘の旅立ち
「そんな事だろうと思ってこれを持ってきた」
ガラの港町まで出かけていたジェルメーヌさんが戻ってきた。
沢山荷物を抱えて。
そんな彼女へ、食堂でお茶を出す。
そして、私が結局魔法を使えなかった話をすると、小さな金属製の器具をテーブルの上に置いた。
「……銃?」
手のひらに収まりそうな程に小さいそれは、他の銃と違い中心に蓮根のような物がついている。
「ああ。最新の試作品だそうだ。
弾は魔導装置で自動錬金。六発まで連続射出が可能。
殺傷能力も近距離ならば相応にある」
そう言われ、私は手にしたその小さな銃が途端に恐ろしくなる。
そっと、テーブルの上に戻す。
「と言っても金属の鎧を打ち抜ける程の威力は無いし、一度撃ちきってしまうと、弾の再装填に半日かかる」
そこまで説明して、ジェルメーヌさんはじっと私を見据える。
「無理にとは言わないが、持っていた方が良いと思う。
この先、何があるかわからない。
人を殺す為ではなく、自分を守る為に」
「……はい」
弱々しく答えた私にジェルメーヌさんは静かに頷き、続ける。
「言った様に、連射できそこすれ、六発まで。
だから、これで敵を倒そうと思うな。
まず二発。
出来れば顔が良い。
相手を撃って、そして逃げろ」
「はい」
「走りながら撃っても当たらない。
決して、無駄撃ちをするな。
残りの弾数は常に気に掛けろ」
「はい」
「弾は撃ち切るな。常に一発残せ」
「どうしてですか?」
私の問いにジェルメーヌさんは、立ち上がりテーブルを回り込んで私の横へ。
「最後は……それで、自分を守りなさい」
そう言ってテーブルに置かれた銃を取り、私のこめかみに銃口を押し当てる。
「……はい」
その意味を噛み締めながら……私は答える。
「そんな事にならないのが一番良いのだ。
だから、ここから出るならば良く常に周りを気にしなさい」
そう言って、ジェルメーヌさんは私を引き寄せて抱きしめる。
背中に回された彼女の手は、とても冷たかった。
「ジェルメーヌさんも、そんな風に心掛けているの?」
再び向かいへ腰を下ろした彼女は、私の問いに静かに首を振る。
「私は、例えどんな辱めを受けようとも生きる。
……そう言うつもりだ。今更、何をされようが気にする様な生き方はして来ていないから」
そう、言った後、わずかに視線を落とす。
「そう思っていたのだけれど……」
そこまで言って彼女はその視線を窓の外へと向ける。
その先は、続かなかった。
◆
向こうに置きっぱなしになって居た荷物をまとめて運んで来たと、ジェルメーヌさんから渡されたものは隠遁して居た屋敷にあった物だけではなかった。
王宮へ置きっぱなしになって居た物。
それは、ほとんど母の遺品。
必要かと問われれば今更どれも要らない様な気がするそれらを、仕分け、本当に必要ない物だけ残す事にする。
そんな中から羊皮紙の巻物が一つ出て来た。
とても古く、見た事の無いそれは、母の物かすら判別がつかない。
◆
我が子らへ
世界は慈悲に満ちている
顔を上げ、目を凝らし探せ
それでも、光が見えぬ時にこの力を求めよ
我らの力
ここに記す
――ウ・サルトゥニー
デ――・――トゥニー
笹の―に感謝を
世界に感謝を
……
……
……
◆
ところどころ、霞んでしまって読めなかったけれど、そんな書き出しで始まって、そしてその後につらつらと魔法のような物が書かれて居る。
読み上げて見ても、魔法が使えない私には当然の如く何も起きず。
どうして母は、こんな物を持って居たのだろう。
もっと、母と話をしておけば良かった。
王宮では全く気にして居なかった彼女の遺品を眺めながら今更ながらにそう思う。
◆
夏の盛りが過ぎ、秋の気配が漂いだした頃。
私とマーリーとエリシャの三人はブリズニツ目指し、旅立つことにした。
銃の扱いはジェルメーヌさんに教えてもらった。
ゼンさんに鍛えられ、わずかに体力も付いた。
すっかり背筋も伸びたとダイアナさんは言ってくれた。
だから、少し自分の足で歩こう。
そう決めた。
「ここも安全とは言い難い。もしかしたらそうなるかもしれない」
そうフルグレイさんが、とても険しい顔で言ったことも後押しした。
レーヴで……小さな反乱が起きたのだ。
東のトラス地方と言うところから産声を上げた、その反乱は、治まりが見えないらしい。
「だったら、ブリズニツのヒザマルの所へ行こう!」
マーリーがそう提案した。
ブリズニツの各地を転々としているらしいヒザマルの元へ。
ギルドの保証人と言う立場を利用して、マーリーはヒザマルの動きを逐一チェックしていた。
丁度ジェルメーヌさんもブリズニツに居る。
ヒザマルにも会うかもしれないと言っていた。
だから、私達は、お弁当を持って、まるでピクニックに行くかの様に旅に出た。
蒸気機関車にのって、南端の港町、ガラへ。
そこから船でセイールへ。
つまり、私がここへ来た道を、逆にたどる旅へと。




