お嬢様は魔法使いの弟子
今日も居る。
道端に寝転ぶキジトラの猫。
私はしゃがみ込んでその背を撫でる。
そう言えば……あの時もこうやって猫の背を撫でていたのだっけ。
◆
「落としましたよ?」
そう、声を掛けられ顔を上げる。
男の人が私にジャガイモを差し出している。
いつの間に買い物カゴから落ちたのだろうか。
「ありがとうございます」
そう、頭を下げ差し出されたジャガイモを受け取る。
「貴女、町の外の屋敷の人?」
「ええ、そうです」
「何処のお嬢さん?
因みに僕は、ソノイーチ・モブって言うんだけど」
モブ……どうしよう。
こちらの名のある貴族のご子息かしら。
でも、この国の貴族の名は知らない。
ブリズニツもそれほどだけれど。
「私は……」
「聞かない方がいいですよ?
ご子息」
いきなりヒザマルが現れ私たちの間に割り込む。
全然気付かなかった。
何時から居たのだろう。
「何だ? お前は?」
露骨に嫌そうな顔をするその男性の耳元に口を寄せ、何かを囁くヒザマル。
そして、その男性が眉を跳ね上げ、目を丸くして私を凝視する。
見る見る顔が青くなる。
「……そ、そうで……でしたか。
お嬢様。
ごきげんよう」
そう言って足早に立ち去ってしまった。
逃げるように。
「全く……」
そういいながら振り返るヒザマル。
「ああ言う輩に声を掛けられても答えちゃ駄目だ」
「ジャガイモを拾ってくれたのよ?」
「……それ、君のジャガイモ?」
「え?」
言われ、籠の中のジャガイモを数える。
……一つに多い。
「どうしよう。
あの人間違えたんだわ」
「違うよ。
それを使って君に声をかけたんだよ」
「え?
どうして?」
「……君が人間にしては可愛いからだろう」
……人間にして……は?
「それで、どうして立ち去ったの?」
「邪な自分が恥ずかしくなったんだろ。
さ、帰ろう。
エスコートしますよ」
「ありがとう」
とは、答えたものの何か釈然としない。
その日からだ。
町の人達が、私に奇異の視線を投げかけてくる様になったのは。
そして、ヒザマルが何を言ったかわかった時は私は三日間部屋に引きこもった。
◆
人間にしては……って。
「エルフと比べられたら勝てないわよね」
昼寝をする猫に話しかける。
「いい身分だ」
突然、背後から掛けられたその声に振り返る。
ジェルメーヌさんが立って居た。
「すいません。油売って居て。すぐ屋敷に戻ります」
咎められたことを謝る私に彼女は優しく笑う。
「お嬢様の事じゃ無い。
その子の事だ。
三食昼寝付き。優雅なもんだ。実に羨ましい」
「お出掛けですか?」
彼女は、薄手のコートで大きな荷物を抱えて居た。
「ガラの港町まで。
どいつもこいつも人使いが荒くて嫌になる」
そう悪態をつきながらも、その顔はどこか嬉しそうに見えるのは気の所為だろうか。
「お気をつけて」
「ミラーシャも。
あいつは時折おかしな事を言うから真に受けない様に」
「はい」
私は今日からフルグレイさんに魔法を習う事になる。
彼の弟子として。
◆
一週間後。
フルグレイさんは私の魔法教師を投げ出した。
何を教えられても私は一つとして魔法を扱う事が出来なかったのだ。




