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野盗の襲撃

 最も怖いと言って居た野盗の襲撃は無く、八日が過ぎた。


「いや、魔法覚えた方が良いって」


 俺にそう勧めて来るのは、出発時に最後に来た男、フルグレイ・マルティス。

 火の魔法を扱う魔道士。


「流行りは銃じゃないの?」


 ジト目で言い返すマーリー。


「どっちも高い」


 魔法は取得するために魔法ギルドに行かねばならないし、スチーム銃は弾が消耗品だ。

 最も、弾すら魔力で精製する最新式があるらしいが手の届く値段では無い。

 金貨五枚ぐらいだっけ?


「そもそもお前だって銃使って無いだろ」


 マーリーもフルグレイも魔法を使って居た。


 若干羨ましい。


「私は、と・く・べ・つ!」

「良いよな! 半魔族ハーフ・デーモンは!」


 フルグレイが全力で叫ぶ。


 その直後だった。


「伏せて!」


 マーリーの叫び声と同時に、地に引きずり倒される。

 それと同時に爆音。

 僅かな熱風が頭上を通り過ぎた後、頭を上げる。


 前を行く馬車の車輪の片方が吹き飛んで居た。

 車輪に組み込まれて居た金属の歯車があちこちに飛び散って居る。

 そして、自重を支えられなくなり傾いた荷車は、荷崩れを起こし地面にその荷を散乱させる。


 周りから怒号が上がる。

 両脇、そして、後方から。

 パンと言う乾いた音が連続し、それを射出したスチーム銃が白い蒸気をたちのぼらせる。


「マーリー左、俺、右。

 ヒザマルちゃん、後ろ」


 フルグレイが冷静に指示を出す。


「せーの!」


 掛け声と同時に立ち上がり走り出す。


 荒野の中、こちらに銃を向けるのは二人。

 通って来た街道を挟み左右に分かれて立つ。


 すかさず片方へナイフを投げる。

 それが肩に刺さったのを横目に、もう一人へ。


 こちらへ向く銃口から逃れる様にジグザグに走る。


 発射された弾は大きく逸れた。


 次弾を装填する事を諦め、銃を投げ捨てる。

 剣を抜きこちらへ突っ込んで来る。


 見え見えの剣筋。

 弾いて、顔に左肘を埋める。


 ナイフを刺したもう一人が銃口を向けこちらへ狙いを付ける。

 身をかがめ、敵の影へ。


 発射された弾が、敵の頭に当たり死体となったそれが上からのしかかって来る。


 避けきれず、そのまま押し倒される。


 ヤバい。


 そう思うが、体に力が入らない。


 敵が剣を振りかぶり迫って来る。


 死体をどかす。


 目の前には今まさに振り下ろされる剣。


黒く爆ぜろ(フラルゴ・ニグラ)


 マーリーの声と共に、そいつの頭が吹き飛ばし血と脳漿を俺に浴びせかけながら倒れ込んで来る。


 慌てて跳ね除け、そして、吐いた。


 ◆


 野盗の襲撃は跳ね除けた。

 しかし、問題が山積して居た。


 最初の爆発で一人、そして戦いの中で一人、護衛が死んだ。

 雇い主であり馬車の御者をして居た男は爆破の衝撃で頭を打ったのか目を覚まさない。

 マーリーが足を撃たれて傷を負った。


 荷車は傾き、荷がこぼれ落ちた。

 酒と食料。

 そう言われて居た荷物の中身はスチーム銃だった。

 武器の密輸。

 このまま運ぶ訳には行かなくなった。

 どの道、荷車が壊れ立往生なのだが。


 話し合いの結果、フルグレイが何とか無事だった馬を飛ばしベルソーの冒険者ギルドへと報告へ行く事になった。


 死んだ仲間の荷物から水を拝借し、血だらけになった頭と顔を洗い流す。


 そして、野盗の死体を一箇所へ集め遠くへ捨てる。


 じきに岩バッタが寄って来て、骨まで食い尽くして行くだろう。


 フルグレイが戻るまで丸一日。

 俺達は荒野で救いが戻るのを待つ事になった。


「ごめんね。面倒事に巻き込んで」


 横になったマーリーが弱々しい声で言う。

 回復薬を塗り込み血は止まったが、一晩は無理できないだろう。


 日が沈んだ。


「マーリーが居なければ、ギルドに入れて無い。それに助けられた」


 岩バッタは夜はあまり動かない。

 このまま静かに夜を明かせれば良いが。


「……殺した事、無かった?」

「いや……」


 ただ……やはり戸惑いが生まれた。


「ベルソーに行ったら、ヒザマルの事沢山聞かせてね。

 ベッドの中で」

「ヤダよ」

「良いじゃん。じゃなきゃ今死んでやる」

「そんだけ元気なら大丈夫だ」


 夜風が冷える。

 マーリーに毛布をかける。

 短いスカートから覗く太ももにドキリとする。


『男だからな?』


 わかってるわ!


 クッソ!


 何だよ!

 頭の中では変な声がするし、近寄って来た美少女は男。

 初めての仕事はイキナリのトラブル!


『呪われてるんじゃね?』


 お前が言う事か!?


『それより、血の匂いと、衣摺れの音がするぞ』


 は?


『荷車の向こうだ』


 俺は耳をすます。

 血の匂いはわからない。

 だが、言われて見れば微かに音がする。




「考えたく無いが、裏切り者がいるかもしれない」


 そう、フルグレイは出発する前に俺に耳打ちした。


「エビルアを出るときは荷の確認をして居る。

 途中の村ですり替えられた。

 だが、誰かが見張りについて居た筈。

 仲間が居なければ出来ない芸当だよね」




 御者の仲間は誰なのか。

 聞き出そうにもその御者は意識を失ったまま。


 そして……次に怪しいのは見張りの担当を決める事が出来たカッツェだ。


 つまり反対側の二人は味方である確信が無い。


 まあ、横に居るマーリーやフルグレイも怪しいは怪しいが。


 俺は静かに立ち上がり耳を澄ます。


 気配を殺し、静かに近寄る足音を感じ取る。


 刀に手をかける。

 迷うな。


 静かに足を運ぶ。

 そして、荷車を回り込んで来た何者かが視界に入ったその瞬間、刀を一閃。


 首が裂け、血を吹き出しながら倒れたのは御者の男。

 その手に血のついたナイフ。


「カッツェさん!」


 慌てて彼の元へ。

 しかし、そこにあったのはパックリと首を切られたカッツェの死体だった。


『魔物が血の匂いに寄って来てるぞ』


 わかってる!


「マーリー!」


 異変に気付き、立ち上がり荷車へ寄りかかるマーリー。


「どうしたの?」

「二人死んだ。荷台に乗って布をかぶって居てくれ」


 物音と血の匂いで岩バッタが集まって来た。

 その気配が、手に取る様に分かる。

 やけに夜目が効く。


「私も」

「俺一人の方が楽だ。早く」

「……ごめん」


 荷台に寄せ付けなけば良い。


 ただ、それだけだ。


 ◆




 空が白んで来た。


 周りには岩バッタの残骸が山の様だ。

 死骸がより多くの岩バッタを呼び寄せる。


 しかし、それもそろそろ尽きたか。


 小休止。

 荷車へ寄りかかる。


「すごい」


 荷台から顔を出したマーリーが一晩中、刀を振り続けた俺を素直に褒める。

 これくらい、親父のしごきに比べれば……いや、しんどいな。


「少し、休みなよ。交代するよ」


 マーリーが後ろから首に腕を回す。

 柔らかい髪が頬をくすぐる。


「おい」


 さりげなく服の中に手を入れて乳首を摘むな。


「……欲情して来ちゃった」

「アホか!」


 ◆


 昼前に、騎馬隊が来た。

 ……先頭にプレートメイルに身を包んだ騎士が一人。


 護衛と代わりの荷車とを引き連れ。


「何か?」


 荷の前で刀を手に行く手を遮る。


「その荷を取りに来たのだ」

「ギルドの仲間が報告へ行った筈ですけど」

「その報告を聞いて来たのだ。

 そこをどけ」

「あいつの怪我は大丈夫ですか?」


 一歩横に避けながら問いかける。


「大したことは無い。今治療を受けて居る」


 右手を上げ、マーリーへ合図を送る。


絡みつく黒薔薇(ローゼス・カペレ)

「なに!?」


 マーリーの魔法により大地から黒い蔓が伸び、あっという間に馬を、そして、その上の騎士へと伸びる。


 フルグレイは怪我なんてしてないし、伝言もある。



「もし、僕が戻るより先に誰かが荷を取りに来たら無理せず渡せ」


 無理するなと言われた時ほど無理をしろ。

 親父の言葉だ。



 突然の出来事に驚いた馬が盛大に跳ね、騎士が落馬する。


 そのまま動かなくなる騎士。

 気絶したか。


 魔法で拘束された馬の顔を撫で落ち着かせる。

 手綱をしっかりと押さえながらマーリーへ手を上げ拘束を解いてもらう。


「この騎士の仇を討って、反乱の手助けをする奴はいるか?」


 呆気に取られる護衛達に問いかける。


「は、反乱って何のことだ!」

「知らないならその方が良い。直に正規の調査隊も来るぞ」


 と言うか来て欲しい。

 半分願望。


 結局、騎士を縄で縛って居る間、彼らは大人しくして居た。


 そして、暫してフルグレイが数人の兵士と共に戻る。


 縛り付けられた騎士を見て苦い顔をして居たが、縄を解こうとしないのはそれなりの理由があるんだろう。


 フルグレイと兵士達に御者を殺しカッツェが殺された事を伝える。

 そして、積荷を載せ替え終わった荷台に乗せてもらい、そのまま暫く寝かせてもらう事にした。


 馬を変えながら街道を急いだ所為で寝心地は最悪だったが。

 それでも、夜半過ぎにはベルソーへと到着した。


 マーリーの馴染みの宿を教えてもらい、そこでゆっくりと朝まで休んだ。


 ◆


 この事件を切っ掛けに、レーヴ王国内での不穏な企みの幾つかが芋づる式に明るみとなり、国内の混乱を目的とした反乱の芽はひとまず摘まれる事となる。

 しかし、それはレーヴ王国の行く先が決して平穏では無い事を示して居た。




 余談ではあるが、ヒザマルから薬代を受け取った娘は、その残りをヒザマルへと返すべく宿屋を訪れる。ヒザマルは旅立ち既に引き払われた後であったが。

 薬のおかげもあり母親は快方へと向かって居ると言う。

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