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腐女子の怒りと騎士の怒り

 デルシアは、旧知であるリーダー格の男を連れ立て篭もりの現場へと急ぐ。


「何でこんな馬鹿な事をしたんだ」


 道すがら、つい、そう口をついてしまう。

 デルシアが知るその男はこんな先の無い行動に出るような男では無かった。

 少なくとも彼が知って居る十年前までは。


「この辺で一番稼げる仕事は何か知ってるか?」

「冒険者か?」

「海賊だよ。それと娼婦。

 丘にまともな稼ぎ口は無い。

 生きて行こうと思ったらお前みたいにここを捨てるしか無いんだよ」


 だったら捨てれば良い。

 それだけで生きていけるならば、最早存在する事の無い国への執念など無用の長物でしかない。

 しかし、デルシアは男の言葉が幻想である事を身に持って知って居る。

 生まれを捨てた所でそれだけでは金は入らないし、捨てたと思っても思わぬ所で纏わり付いてくる。望む望まないに関わらず。


 そんな二人の上空から、乾いた音が降り注ぐ。


「あれは?」

「……成功の合図。一体、誰が……」

「クソ、急ぐぞ。

 黒幕は誰なんだ?」

「武器と情報を提供してくれた。ただ、トラスの未来を憂う者とそう言っていた」


 憂い、そして、さぞやほくそ笑んで居るんだろうと、デルシアは男を引きずり走りながら心の中で毒付く。


 目の前に、騎士団に取り囲まれた建物が見えてきた。


 ◆


 イネスは静かに線路の上に佇んでいた。

 背後には、人を避難させた駅のホームがあり、眼前には城郭の外へと繋がる暗いトンネルがポッカリと口を開けている。


 マーリーが見繕った髪留めでエルフの最たる特徴である耳を抑えてもなお、暗闇の先から醜悪なゴブリン共の声が届いてくる。


 そしてイネスは汽車の窓越しに見たその醜悪な生き物たちを思い出す。


 一瞬ではあったが、普段は見られぬ程に統率の取れた集団。

 それは、先日の襲撃事件の際にも同じことが言えた。


 ゴブリンの王、ゴブリンキングが集団の主として君臨しているなら大した脅威ではない。

 しかし、それより上位。

 醜い森の精たちを眷属として使役することも厭わない存在。

 一つだけ、イネスはその存在に心当たりがあった。

 エルフ全てが忌むべきとする存在に。


 しかし、ひとまずイネスは目の前に迫りくる醜悪な者共を息の根を止めることを優先する。


 肉親を貶めた醜悪な森の精への怒りは当面消えないであろう。


「ヴェーラ。おいで。冬の精。その手で雪と木枯らしを運べ」


 右手を差し出しながら唄うようにイネスが精霊に呼び掛ける。

 それに応える様に、淡く青く光る光球オーブが三つ彼女の腕の側に現れる。

 いたずらな笑い声と共に。


 そして、彼女の周囲を一回りして冷風を巻き起こし、トンネルの中へと飛び去って行った。


 やがてゴブリン共が騒ぎ立てる声が暗闇に反響して聞こえて来る。

 そして、その奥から微かに人が使う銃の音。


 しかし、一瞬消えた音は直ぐに消えその後は醜く反響する声だけになる。


 花売りの女が武装した兵達を連れやって来た。


「ゴブリンと、人間が居る」


 短くそう伝え、彼女は腰の鉈を抜くと共に彼らに道を譲る。


 ◆


 デルシアがリーダーの男に捕縛された様に偽装して立て篭もりの続く建物へと足を踏み入れる。


 横の男が余りにもオドオドして居ていつバレるかデルシアも気が気では無かったが、中に踏み込み立て籠もって居る連中を見て杞憂の様だと僅かに胸を撫で下ろす。


 余程、成功に気を良くして居るのだろう。

 立て籠もった建物にあったであろう酒を飲み、デルシアの身体検査すらしない。


 そして、後ろ手に縛られた演技をしながら通された部屋で床に座らされた東方方面軍の騎士団長と副団長を目の当たりにする。



 その顔は青く変色してもなお、一度は力で成り上がった男達である。

 その目の奥には怒りの炎がありありと見て取れた。

 その周囲で、ニヤケ顔で酒を呷る馬鹿共は全く気にして居なかったが。


 その光景を見て、デルシアは最早手遅れである事を悟った。


 素早く後ろ手の縄を解き、剣で男達を斬り捨てながら銃を奪う。

 そして、その銃を床に座らされた二人へと向ける。




 数刻後、その建物から生きて外に出たのはデルシアのみであった。


 ◆


 トンネルの内部に向け、銃の一斉射撃が行われた。

 二度、三度。

 しかし、その弾幕をくぐり抜け、あるいは身に受けながらも、仲間の屍を乗り越え襲いかかって来るゴブリンに守備兵の隊列は呆気なく崩壊した。


 イネスは眉間に一つ皺を寄せた後、尻餅を着いた守備兵の頭を踏み台にしてゴブリンに飛びかかる。


 その手にした鉈が、ゴブリンのこめかみに突き刺さりその息の根を止める。


 暗闇の奥からは、野盗達がジワリジワリと忍び寄って来て居た。


 ◆


 外へと出たデルシアは、取り巻く騎士団の中からこの場の責任者を呼び寄せ、上官二名の無念を伝える。

 そして、同時に伝えられた二方面よりの襲撃に対し自らの権限で臨時で指揮を執る旨を宣言する。

 すぐ様、隊を三つに編成し一つは駅方向へ。

 もう一つは、館の後始末と上官の遺体の搬送、その後に街区の警戒を指示する。

 残る一隊を自らが率いて町の正門へと向かう。


 ◆


 ゴブリンを全て葬り、その奥からは野盗達が現れると同時に騎士団が到着する。


 野盗達が手にした銃は、イネスがはじめに呼び寄せたヴェーラのお陰で全て無力化され、皆その手には粗末な刃物を持って居る。


「後は任せる」


 イネスは怒りに駆られた騎士団にそう言って、前線から下がる。


 そして、目の前で繰り広げられた戦いの凄惨さに放心しきった花売りの側へと腰を下ろした。

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