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そして巻き込まれる

 人波を抜け、広場から程近くの高級そうな宿屋に滑り込む。


 そのままひとまず侯爵が宿泊予定だった部屋へと全員身を滑り込ませる。

 何部屋あるのだろうか。

 高そうな部屋だ。


「助かった」


 侯爵が改めて男に礼を言う。


「何故、こんな日にここへ来たのです!」


 しかし、男は眉間に皺を寄せ怒りを押し殺した声で言う。


「……事情が……あるのだ」


 そして、侯爵が俺達を見る。


 頭を下げつつ、用意した嘘を。


「初めまして。侯爵閣下。

 名は言えませぬが、ご友人の命により本日限り護衛をと」


 ——貴族に友人って言っておけば大抵誰か心当たるから便利だよね。

 フルグレイの悪知恵。


「……そうなのか」

「事情はお察し下さい」


 三文芝居と見抜いたのかそうで無いのかわからないが、男が俺に一瞥くれそのまま窓際に。


 そして、外をちらりと見て戻って来る。


「侯爵。暫く騒ぎがおさまるまで窓の方には行かない方が良いでしょう。

 暫くはここでお静かにして居て下さい」


 そう、貴族と護衛に言い聞かせる様に言う。

 有無を言わせぬ迫力がある。


「我々は状況の確認をして参ります」


 そう言って外に出る様に促される。


「良いですか。決して窓から外を見てはいけません。

 カーテンもそのままに」


 そう、釘を刺し。


 ◆


 手早く宿の人間を捕まえ、侯爵の部屋から離れた上の階の部屋を手配する男。


 花売りと三人そこへと放り込まれる。


「時間が無い。手短に行くぞ。

 お前ら、何者だ?」

「冒険者」


 男の質問に俺が答える。


「何故侯爵を投げ飛ばした?」


 当事者、イネスを見る。


「アイツ、触った。跳ね除けた」

「常識が無いのは大目に見てくれ。他意は無い」

「そうか」


 友人と言う嘘とバレたか。

 まあ、フルグレイに余計な迷惑をかけることもあるまい。


「ここで何も見なかった事にして帰るか、乗りかかった船で俺を手伝うか」


 男が、指を二本立てる。


「全部聞いてから考える」


 そう言って押し黙ったままの花売りに視線を送る。

 男が小さく溜息を吐く。


「お前は、いや、お前らは何を考えてるんだ?」


 男が花売りに問う。


「姉さんの……敵討ちよ……」


 その言葉にイネスがわずかに眉を上げる。


 直後、鈍い音。

 そして、蛙を潰した様な声。


 男の拳骨が花売りの脳天を直撃した。

 ……痛そう。


「馬鹿野郎」


 頭を両手で押さえ、涙目の花売りに男が怒気を抑えた声で叱る。


「兄さんだって知ってるでしょ!?

 今日は姉さんの命日よ!」


 花売りが叫び声を上げる。


「だから敵討ちか!?

 馬鹿にも程がある!

 それで、どれだけの人間が苦境に立たされると思ってるんだ!」


 声量こそ抑えて居るが、怒りを滲ませた兄貴の声。

 てか、似てない兄妹だな。


「それに、あいつは別人だ!」


 ……あちゃ。

 敵討ちの相手を間違えちゃったが。

 このドジっ子ちゃん。


 ……で、済む話じゃ無いよな……。


「……はめられたのよ……」


 だろうな。

 これは、この花売りの単純な敵討ちでは無い。

 言っては悪いが、俺の手にある銃はこんな小娘がテロに使うには不釣り合いな程に高価な物だ。

 こいつは、駒に過ぎない。


「この後の計画は?」

「……スラムの教会跡に集まる手筈。

 もう、みんな死刑ね……」

「そうなるかどうかはこれからお前ら次第だ」

「無理よ。今頃騎士団長共を人質に取ってる筈」


 男が歯軋りが聞こえそうな程に奥歯を噛み締めるのがよくわかった。


 ◆


 今回の計画は主に二つ。

 次期領主となる男の暗殺。

 及び、その後の障壁となり得る騎士団東方方面軍幹部の誘拐、監禁。


 花売りは、断片的にそう情報を語った。


 そして、その後トラス地方の独立を宣言する、と。


 その為の武器も情報も、全て『協力者』から得て居るらしい事。

 その、協力者の正体を花売りは知らないらしい事。


 それらをアジトへと向かう道すがら女から聞き出す。

 それと同時に、高級レストランで立て篭もり事件が起きていてどうらや騎士団の幹部が捕らえられて居るらしい事を人々が口にして居るのを耳にする。



「同志よ。次なる作戦に移ろう!」


 寂れ、管理者の居なくなった教会の祭壇の前で頬のこけた男が高らかに宣言した。


「トラスの真の……」


 言い終わる前に、男、騎士団南方方面軍団長代理デルシアの鉄拳が炸裂する。


 闇の精霊によって姿を隠して居た俺達が突然現れどよめく教会内。

 およそ十人ほどか。


 盛大に吹き飛んだリーダー格の驚愕の表情。


「……デルシア……!?」

「お前はもう少し賢いと思ってたよ」

「……黙れ。レーブの犬が!」

「俺は自分で考え選んだんだ。

 それが、お前はどうだ?

 餌をぶら下げられ簡単に食い付いた豚では無いか!」

「なんだと!」

「踊らされてるのがわからないのか!」


 地に転んだままのリーダーが花売りを見る。


「……情報は嘘だった」


 リーダーが更に目を見開く。


「これ以上、情勢を悪化させる前に止めるぞ」


 そう言って、放心したリーダーを立たせるデルシア。

 そして、無抵抗のままのリーダーを引きずって行く。


 このまま騎士団幹部の捕らえられて居ると言う建物へ乗り込むと言う。

 方法は彼に任せる。


 二人が教会から出たのを見送り、そして、出入り口に立つ。


「さて、暴動の続きをやろうと言うやつがいれば相手になるが」


 刀に手をかけながら一同を見渡す。


「……ふざけんなよ」


 誰かから、そんなつぶやきが漏れる。


「俺達は、死刑か……?」


 最早立つ元気も無いらしい。


「なあ、貴族を殺し、騎士団を無力化して、その後の計画は?」

「……独立だよ」


 誰かが答える。


「その為に暴動の実行犯が生きて居ると邪魔だよな?」


 俺の問いかけに、しかし、一同は気付いて居ない。


「そして、分かりやすい怒りが必要だ。

 例えば、仕上げにこの町を野盗に襲わせて火を放つなんてどうだ?」

「……あんた、何言ってんの?」


 花売りの言葉は全員の疑問だろう。


「何って、この地方を滅茶苦茶にするにはどうするかって話。

 やるならそれくらい徹底的にやるだろ?」


 俺の問いかけに返事は無く。


「所が、勇気ある義勇軍は、この企みを打ち砕きました。

 ……どう?

 あんたらだよ」


 ゆっくりと、一同を見渡す。


「その手の銃は飾りか?」

「ふざけんな! 余所者に言われる筋合いは無い!」

「そうだ!」

「俺らの町だ」


 取り越し苦労だったら全力で謝ろう。


「この町への出入り口は城塞の門だけか?」

「そうだ!」

「門は開けっ放しだ」

「なら狙うならそこだな」

「行くぞ」


 立ち上がる連中。

 それに冷や水を向ける声が一つ。


「待て」


 イネスだ。


「何だ?」

「機関車のトンネルを忘れて居る」


 ……そうだ!


 この町の蒸気機関車の発着場は掘り込まれた地下にある。

 その先は町の下を走り、城塞の外までずっとトンネルだ。

 俺は、半死で夢現だったけど、そんな記憶が朧気にある。


「線路沿いにゴブリン共が身を潜めていたぞ」

「……お前、それもっと早く言えよ!

 二手に分かれる。

 城塞とトンネル。

 あークソ。この人数で駅に押し入ったら不味いか!?」

「ひとまず私が行こう」

「花売り。お前も行け。守備兵達に声をかけろ。

 他は外だ」


 そう言って真っ先に俺が外に飛び出す。

 タイミング良く、空に空砲が上がる。


「……今のは何だ?」


 振り返り後から続く義勇軍に問う。


「襲撃成功の合図だ!」

「……襲撃開始の合図だな。急ぐぞ! 誰か先導しろ!」


 ここで何者かの思いのままになってみろ。

 この国が情勢は傾いて、それを防ごうとしたフルグレイの努力は水泡に帰すし、ミラーシャはその光景に過去を重ね、心を砕く。


 俺の手の届く所でやすやすとそんな真似を許す訳には行かないんだよ!

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