旅立つ二人、見送る三人
「明日、ブリズニツに向かうことにした」
お茶を飲みながら、ヒザマルがそう私に告げた。
そう。
ついに……。
忘れては居なかったけれど、ひょっとしたら止めたのかもしれない。
そう思っていた。
でも、そうでは無かった。
「少し、腕も上がった。
領主のお陰で当面の旅費も目処が付いた」
それにしても急な話。
「ついでに、ヨルチの墓前に君の無事を報告してくるもりだけど、何か伝えたいことはある?」
その問いに、私は首を横に振る。
伝えたいことは、ある。
お礼を言いたい。
そして、謝りたい。
彼の犠牲で、私の今がある。
でも、それは、ヒザマルに託す物では無い。
自分で行くべきだ。
「何時……戻るの?」
その、私の問い掛けに返事は無く……。
戻る。
それが、違うのか。
ここはヒザマルの戻る所では無い。
ヒザマルは戻るために行くのでは無い。
遅まきながらそれに気付いて、でも、もう言葉は取り消せない。
「気を付けてね。
マーリーも行くの?」
私は、笑顔を作り直しヒザマルを見た。
「いや」
彼は、少し戸惑うように否定した。
「一人?」
「……いや。他の冒険者と一緒」
「他の。私の知らない人?」
ヒザマルが小さく頷く。
そう。
どんな人だろうか。
私も、一緒に。
そう言って手を伸ばしたら、彼は掴んでくれるだろうか。
「明日、何時に発つの?」
「朝には」
「じゃ、せめてお弁当を作るわ。
二人分?」
「あ、ああ。ありがとう。
簡単なもので良いから」
「ええ。宿に届けに行くわ」
せめて、それくらいは……。
◆
ミラーシャの屋敷を出て宿へ向かう。
イネスはマーリーに任せ、旅に必要な物を用意して貰っている。
見た目だけは目を惹く二人組だ。
騒ぎに成らないか少し心配だが。
ーー何時……戻るの?
そう、問われ何も返せなかった。
フロウさんが見つかるまで戻るつもりは無いし、それに、見つかったとして呪いを解くことが叶わなければ……もう戻れないかもしれない。
……戻れる……だろうか。
屋敷を振り返りながら自分に問いかける。
◆
旅の遠具を揃え戻ってきたマーリーとイネスを宿で出迎える。
「ありがとう。お金はどうしたの? 結局」
「マーリーは錬金術師だった」
服を新調したイネスが、興奮気味に言う。
マーリーがよほど気に入ったみたいだな。
「錬金術?」
「えへへ」
笑いながら俺から目を逸すマーリー。
「こんなにもらった!」
そういいながらテーブルの上にお金を広げるイネス。
金貨……三枚と銀貨が少し!
「おい、何したんだよ!」
その金額に驚き、小声でマーリーに問い詰める。
真っ当な稼ぎな訳が無い!
「イネスの服を下取ってもらったんだよ」
「服? なんでたかが服であんな高額になるんだよ!」
「ヒザマル。世の中、不思議な人が一杯居るんだよ」
いや。分からん。
「ちゃんと説明しろ」
「良い? 美人のエルフがさっきまで来ていた服。はい。金貨一枚」
「ええ!?」
「美人のエルフがさっきまで身に付けていた下着。はい。金貨三枚」
「ええぇぇ!!?」
「とは言え、思った以上に良い値がついてびっくりした」
働くのが馬鹿らしくなってきた。
「で、あと馬も手配しておいたよ」
「おお、ありがとう。馬は乗ったことあるのか?」
イネスに問う。
首を横に振るイネス。
「馬は無い。ユニコーンはある」
……流石はエルフ。色々斜め上だ。
◆
エリシャと宿へお弁当を届けに行く。
それなりに気を使って作ったけれど。
ヒザマルだけじゃないらしいから普通の物を。
「寂しくなりますね」
「……そうね」
変化はいつも突然だ。
私は、それに翻弄され戸惑うばかり。
宿の前には既にヒザマル達が居て、私達に気付き手を振る。
「おはよう。はい、お弁当です」
「ありがとう」
そして、気付く。
ヒザマルの同行者が女性だということに。
綺麗な髪の、静かな表情で馬に跨っている女性。
彼は、ここに戻るつもりも必要も……無かった、のか。
「あー、イネス。訳あって途中まで一緒に行くことになった」
僅かに顎を引いて頭を下げるその女性。
途中、か。
荷物を馬に乗せ、自分もそれにまたがるヒザマルを眺める。
「じゃーね。浮気しちゃ駄目だよ! ちゃんとギルドで所在報告してね」
「ああ」
「僕もいずれ追いかけます」
「ああ」
二人の言葉の後、私を見るヒザマル。
「……体に気をつけて」
「ミラーシャも」
結局、そんなことしか言えなかった。
そして、動き出す背を見送る。
二頭の馬が、二人の姿が少しずつ小さくなっていく。
「落ち着いたら、追いかけようね」
「ええ」
小さくなった二人に手を振りながらマーリーが言った言葉に、エリシャが同意する。
「ミラーシャもね」
「え?」
マーリーが当然の様にそう言いながら私の肩を叩く。
「あれ? 行きたくない?」
私の反応に怪訝そうな表情を浮かべる。
少し考え、そして、答える。
「行きたい。
私も、行きたい」
本当にそんな事が出来るかわからないし、出来たとしても何時になるかわからない。
でも、私に一つ……目的が出来た。
そう。
自分で。
自分の足で。




