森の腐女子
念の為と、襲撃の翌日も夜通し見張りを立てる。
ギルドの要請もあり、明け方まで見張り交代。
特に何も無かった。
いや、正確にはあった。
俺のモテっぷりに嫉妬したリザードマン(雄)に絡まれ軽く手合わせしたり、和解したり。
モテる男は辛いな。いや……いや…………。
そして、一度宿で休み、森へ戻ると言うリザードマン達に同行する事に。
今回の事で気を良くした領主が彼らに商業権を与えたらしい。
友好の証として。
「“何が売れるかの?”」
「“うーん、あまり詳しく無いが……蜂蜜とかはどうかな?”」
その結果、道すがらこんな事を聞かれる訳で。
森で彼らの商品になるものを考える。
「“あんなのが良いのか?”」
「“甘くてそれなりの値で売れる。後はキノコとか、草とか薬になる物がある。
と言ってもその辺は詳しく無いから、あの一緒に戦ってたジジイに聞けば良いんじゃ無いかな」
ゼンさんの事だ。
俺より博識だろう。
「“そうか。食べ物か。虫は食わんのだよな?”」
「“あまり食わないね”」
「“黒い虫は美味いぞ! 夏になったらご馳走しよう”」
「“要らない”」
一体どの虫だろう……。
そんな会話をしながら森を進む。
カトブレパスとゴブリンが進行して来た後を辿りながら。
そして、別れとなる。
「“では、また会おう。竜の加護を受けし戦士よ”」
「“ああ、また”」
加護で無く呪いなのだけれど。
頭をバンバンと叩くデデマを下ろし、名残惜しそうな美人戦士達に手を振りながら俺は彼らと違う方向へと進む。
カトブレパスの来た方角へ。
何故ゴブリン共は、魔獣を引き連れ人里を目指して来たのだろうか。
今年は山が貧しい。
人里に食料を求めて来たのだろう。
領主達はそう言う結論付けた。
本当だろうか。
答えがあるとは思わないが、森に来たついでに先まで足を伸ばそうと、そう思った。
ゴブリンの集落を覗き残りが居るのかも見た方が良い。
◆
どれくらい歩いただろうか。
森が深くなり、日が沈む前に帰ろうかと思い始めた時だった。
木立の中に、突然石像が現れた。
カトブレパスの魔力に捕らえられたのだろう。
ここまで来る途中にも幾体かの石化した獣を目にした。
しかし、木漏れ日の中に立つその石像は今までのそれとは全く違って居た。
立ち向かう。
立ち塞がる。
そんな言葉が相応しい立ち姿と、凛々しい表情。
灰色一色のその姿からでも、往時は美しかったのだろうと容易に想像が付く。
その顔の横に飛び出した耳が、それがエルフの石像である事を物語って居た。
そして、その石像に向き合う様にうずくまる人が一人。
アッシュブロンドの髪の間から、石像と同じ様に耳が飛び出している。
その肌は透き通る程に白い。
「死に損ない」
しゃがんだまま、俺を見上げたエルフの少女が俺に一言そう言った。
どう言う意味だろうか。
呪いの事か?
「これは?」
取り敢えず石像の事を尋ねる。
「姉」
肉親か。
「カトブレパスに?」
「そう」
「あの魔獣はもう倒された」
「知ってる」
知ってる?
彼女の横に弓矢が置かれて居た。
エルフの矢……。
まさか、あの矢を?
「目を潰したのは君か?」
俺の問いに小さく頷く。
「そうか。ありがとう。助かった」
それで、死に損ないか。
「お姉さんはどうして?」
「私を庇った」
「……そうか」
「ムカつく」
ん?
「自分の意見は絶対曲げないショタ受け狂い」
ショ……タ……?
「異教徒」
宗教が違うのか?
「デブ。
モンペ」
……?
その後も彼女は石像に向かい延々と悪口を言い続けた。
淡々と。
……悪口だよな?
えーっと……。
もう少し奥を見てもう帰ろう。
「じゃ」
関わらない方が良さそうなエルフに軽く手を上げる。
「その先には、もう何も無い」
「ん?」
「何も無い」
「ゴブリンの集落は?」
「無い」
「無いのか」
もっと森の奥なのか。
「皆殺しにした」
「え……」
木の陰になり気が付かなかったが、彼女の横に血のべったりと付いた鉈が地に突き立てられて居た。
よく見ると彼女の顔にも返り血が付いて居る。
僅かに背筋が寒くなった。
「死に損ない。名前は?」
「ヒザマル。ヒザマル・ソラーレ」
「変な名前」
ほっとけ。
「私はイネス・ウェネリス。
ヒザマル、私を案内して欲しい」
彼女は俺の目を真っ直ぐに見据え、そう言った。
「案内?」
「こんなブタでも姉。
石から戻したい」
「戻すって、どうやって?」
「わからない。
だから、探す。
時間は幾らでもある。
でも、私はこの森から出た事が無い」
そうなのか?
『エルフじゃからな。
その気になれば百年二百年と探せるじゃろ』
そんなに?
石像は?
『寿命が来なければ大丈夫なはずじゃ。
或いは破壊されなければ』
そう言うもんなのか。
お前、助ける方法知らないの?
『知らん。薬か魔法か。話には聞いた気がするが忘れた。縁の無い話じゃからな』
肝心な所で役に立たないな。
『呪いだからな!?』
俺はイネスを見て考える。
「方法は知らないし、俺はこの後旅に出る。
それについて来るって言うのは、別に構わないが」
「優しくして」
立ち上がりながら、棒読み無表情で言うイネス。
「何だその言い方は」
「こう言えば大体上手く行くと習った。
ただ、人間には興味無い。変な気は起こすな」
鉈を抜きながら、そう冷たく言う。
へいへい。
どうせ呪いの所為で何も出せませんよ。
イネスが石像に向け、右手をかざす。
そして、小さく何かを囁く。
すると石像の足下から緑の蔓が伸び、石像に巻きつき、あっと言う間に石像を飲み込み立派な一本の木へと成長する。
「……今のは?」
「ドリアード」
『木の精霊じゃ。
エルフの十八番じゃな」
解説ご苦労。
「ほえー……」
俺が立派に成長した木を見上げているうちに彼女は身の丈より大きな弓を背負って居た。
「アホ顔。行くよ」
そう言って俺の返事を待たずに勝手に歩き出した。
その様子に、俺はこの先の旅路に一抹の不安を抱く。
『いや、もう遅いじゃろ』
◆
「おかえ……えぇ!?」
女連れで!
宿に戻った俺にマーリーが目を丸くする!
初めてだ!
と言うかイネスは宿すらよくわかって無いっぽい。
取り敢えずマーリーの部屋へ。
「うっそ!? 催眠魔法まで使えたの アンタ!」
「待て!」
「五月蝿い」
「でな、ちょっとギルドに行かなきゃならないから、宿の使い方とか教えて欲しいんだ。
森から出た事ない箱入り娘らしいから」
「いや、何でそんな子拾って来てるのさ!」
「やかましい」
「命の恩人なんだよ。
で、彼女のお姉さんがカトブレパスの餌食になった。それを何とかする為に人の世に出て来たと言う訳」
「本当に?」
「お前、半魔か」
「なんか口悪いね。この子」
同感だ。
「そう言う訳だから一通り色々教えてやってくれ」
「素直に聞く気ある?」
マーリーの問い掛けに素直に頷くイネス。
面倒を押し付け悪いが、一旦任せてギルドへリザードマンを送った報告へ行く。
イネスをあそこに連れて行ったらおそらく大騒ぎになるからな……。
◆
ギルドから今回の件で領主から特別に恩賞を頂く。予想外の収入。
気を良くしながら、そのままミラーシャの屋敷へ。
フルグレイと少し話をする時間が取れた。
暫くここに居ると言うので旅立ちの事を伝え、ゼンさんにリザードマンの売り物の事を一言相談し、後を託す。
ジェルメーヌがメイド服姿で家事をして居た。
思わず二度見したら、最高の笑顔を返される。
さすがは淑女。
ご飯と風呂はどうするかと聞かれ、宿でと答えた後、そういやイネスの風呂どうしようか、あ、マーリーが居るから女同士で問題ない、いや違う、マーリーは男の娘だ! と思い出し、慌てて宿へと引き返す。
◆
「ヒザマル! 大変!」
帰るなり、イネスが興奮気味に話し掛けて来た。
僅かに頬を紅潮させ、笑みを浮かべて居る。
感情が表に出て居るのを初めて見た。
「何が?」
「男の娘! 男の娘だよ! 実在した! ヤバス!!」
マーリーがすこし照れ臭そうに、困った顔をして居る。
……えーっと、このエルフは……なんか変な事に興味を持ってる?
まあいい。
興奮するイネスは放っておこう。
「マーリー。明日、イネスの買い物を見てやってほしいんだがお願いできるか?」
聞けば、旅の準備など、全くせずに森から飛び出して来たらしい。
「良いけど……お金は?」
「金……」
俺の視線に首を振るイネス。
「うーん。ひとまず私が建て替えるけど、なんとか金策しよう」
「出来るのか?」
「私に考えがある!」
そう言ってウインクするマーリー。
うん。
不安。




