戦いの後
「ヒザマルちゃん! お疲れ!」
「ああ、来たのか」
「活きのいいのを王都から連れて来た。
残党討伐は任せておけ」
森から町へ戻った俺をフルグレイとジェルメーヌが出迎える。
二人共、この町に居なかったので会うのは久しぶりだ。
そして、十人程の冒険者。
皆、それなりの腕に見える。
偶然聞きつけ駆け付けてくれたのか。
それともギルドの応援か。
「心置き無く休めそうだ」
心からそう思った。
戦場へ向かう頼もしい仲間の背を見送る。
夜中に引っ掻き回されなくて良かった、とも思う。
爆音と、高笑いが背後から風に乗って流れてきた。
◆
夜通し動いてもなお、元気なマーリーに引きずられミラーシャの屋敷へ。
「なんかさ、蜥蜴に肩を抱かれてる時の方が嬉しそうじゃ無い?」
「疲れてんだよ」
緊張の糸が切れ、痛みと疲労が全身を襲う。
そして……。
「ヒザマルはもうひと頑張りあるからね!」
「はい……」
屋敷へ着くと待ち構えて居た様にミラーシャとエリシャが飛び出して来る。
「ヒザマル! 怪我!」
「とりあえず、ホールに座らせて下さい。
魔法を掛けます」
言われた通り、ホールの床に腰を下ろす。
「私はその間にお風呂もらおうかな。
ヒザマルも後でおいで」
「行かねーよ」
「マーリーは大丈夫なの?」
俺の足を見て居たエリシャが顔を上げマーリーに問いかける。
「ん、へーき!」
嬉しそうな、少し照れた様な笑顔を残しマーリーは去って行った。
「はい。顔を拭いて」
ミラーシャが濡れたタオルを渡してくれる。
「ありがとう」
エリシャの魔法が傷口を包み、痛みが消え去る。
「今日はもう、ゆっくり休んで大丈夫だそうです。
余程の事が無ければ」
「そうか。
なら、そう成らない様に祈りながら寝よう」
「宿に戻るんですか?」
「いや、ここに泊めてもらおうかな。
街中はバタバタしてるし」
「じゃ、ご飯の用意しておくわ。
その間にお風呂入ってて」
「マーリーが出てからな」
「そんな事気にする間柄じゃ無いでしょ。
早く入って休んで」
「……はい」
ミラーシャに急かされ渋々風呂へ。
◆
「ヒザマルはなんかの混血だと思ってたんだけど、竜?」
湯船に浸かり二人惚けているとマーリーがそんな事を言う。
「いや、そんな話は聞いてないけど」
「そうでないとこんなに反応しないなんて可笑しいんだよ」
立ち上がり、垂れ下がった下半身を見せつけながら言う。
「いや、お前エリシャが好きなんだろ。
男に、と言うか俺にちょっかい出すの止めろ」
不快なものから目を逸らしながら答える。
「それとこれとは話は別」
まあ、竜の精神が乗り移ってるからおそらくそれだろう……。
母親がリザードマンだとは聞いた事は無い。
と言うか、母親の事はちゃんと聞いた事が無い。
生きて居るのか死んで居るのかさえも知らない。
例え生きて居たとしても、顔もわからないのだから会ってもわからんだろう。
「意外とエルフと混血だったりして」
「ヒザマル。それ、全然面白く無い」
さいですか。
◆
「じゃね。おやすみ!」
パンを一つ手にし、ネグリジェ姿のマーリーはエリシャの部屋へと消えて行った。
エリシャの!
部屋に!
消えて行った!
あれで手を出してないとか本当かよ!?
「姉妹みたいね」
消えて行ったマーリーを見ながらミラーシャが呟く様に言った。
「ゼンさんとダイアナさんは?」
「二人共、日が昇る前からゴブリン討伐に出てますよ」
「へー。二人共か」
「ダイアナさんが張り切ってグレイブ片手に飛んで行きました」
「え?」
「あんな楽しそうなダイアナさん初めて見たわ」
「へ、へー……」
後方支援じゃ無いのか。
「私も、戦える様になった方が良いのかしら」
君には料理と言う武器があるよ。
山の様に積まれたマッシュポテトの様な何かを機械的に口に運びながら思う。
いや、でも塩味がするだけ今日はまだマシかな。
「美味しい?」
「ああ」
「お代わりあるからね。違う味付けにも挑戦して見たの」
その、余計なチャレンジ精神、要らないんだよ。
そう思いながら笑顔を返す。
最後に待って居た難敵との戦いは長くなりそうだ。
『味見してるんかね?』
優しい俺にそんな事は聞けない。
目の下に隈を作りながら、これを作って居てくれた訳だから。
俺にはこれを食べ切る義務があるのだ。
あるのだ……。
◆
客間で休むと言ってヒザマルが去り、そして食事の後片付け。
僅かに皿に残ったオリジナルマッシュポテトを指で掬って口に運ぶ。
……美味しく無い。全然。
でも、ヒザマルはこれを美味しい美味しいと笑顔で食べる。
彼の味の好みがわからない。
ひょっとして味覚が馬鹿なのかしら。
と言うか、どうしてこんな変な味付けになったんだろう。
そう。ヒザマルが、口にした一口目で必ず小さく首を傾げて、でも、美味しいと言いながら食べるから、何が足りないんだろうと、あれこれ試して居るうちにこんな風になってしまった。
うーん。
わかんないなぁ。
どうしてこんな微妙な物が食べれるのかしら。
◆
昼過ぎか。
目が覚め、外を確認。
日の上り具合を見てそう判断する。
ベッドから身を起こし、持ち物をまとめ部屋を出る。
二階の客間から降りていくとゼンさんが居た。
「お疲れ様です」
「おや、起こしてしまいましたかな」
「いえ、十分休みました。あちらは?」
「残党もほぼ蹴散らし、今は死骸を捨てに行く算段をしてます。
老人の出番は無さそうなので失礼させてもらいました」
「そうですか。
無理言ってお呼びたてして申し訳ありませんでした」
「いえいえ。
こうして偶には体を動かさないと長生き出来ないですね」
「ははは。長生きして下さい」
リザードマンを指揮してたからな。
片言だけど、彼らの言葉で。
俺が心配せずとも長生きするだろ。
「また後で顔を出します」
「簡単な昼食でしたらご用意出来ますが?」
「いえ、大丈夫です」
胸焼けしてますので。
◆
ギルドに顔を出し、そして最初の戦場へ。
カトブレパスの死骸がそのままになって居た。
毒を発して居るので、処理に苦慮して居ると言う。
俺はその死骸へ近づき、顔に突き刺さった一本の矢を抜く。
これを放ったのは一体誰なのだろう。
手に取ると、思いの外重量がある。
何の木だろうか。
ゴブリンの誤射……では無さそうだ。
◆
リザードマンの集団が一時避難して居る広場へと足を向ける。
……何やってんだ?
あの人。
まず、目に入ったのはリザードマンの子供と遊ぶ領主の姿。
まあ良いか。
ほっておこう。
こちらに気付いた美人戦士達に手を振りながら族長の元へ。
「“おお、戦士。無事か”」
「“ああ。皆のお陰で助かった。
犠牲は済まなかった”」
昨夜からの戦いで四人のリザードマンが命を落としたと聞いた。
「“部族が守られたのだ。その死に意味も在ろう”」
「“こちらの町も守られた。それで、もう、直ぐに戻るのか?”」
「“今日はここで休ませてもらい、明日の昼には森へ戻るつもりだ”」
「“そうか。俺も送らせてもらいたいが”」
「“構わんが、護衛なら不要だぞ?”」
「“一つ、気になる事があるんだ”」
そう言って俺はさっき抜いた矢を族長に見せる。
「“これは、エルフの矢か”」
「“エルフ? こいつがカトブレパスを仕留めた”」
「“あの古い部族が外のいざこざに何の興味があったのだ?”」
「“分からないが、会えるなら会って見たい。一言礼を言いたいのだが”」
「“どうかの。儂とて幼い頃に一度見たきりだ。森の奥深く。深淵に住んでおる。
人の足では辿り着かぬと思うが”」
「“駄目ならば直ぐに引き返すさ”」
「“むふ、まあ良い。道すがら案内しよう”」
族長は、目を細め楽しそうに遊ぶ領主と子供達を眺める。
◆
「大活躍だったそうだな」
「ええ、まあ」
「そう言う時は謙遜せい」
リザードマンの幼子を肩車した領主に言われてもな。
「何をなさってるんです?」
「なかなかどうして。可愛いもんだな。
孫の様じゃ」
そうですか。
まあ、可愛いけども。
将来はかなりの美蜥蜴になるだろう。
「所でお主、騎士にならんか?」
「なりません」
「その気があるならば王宮護衛騎士団に推薦するぞ?」
「ありません」
「そうか。騎士団と言えば一昔前は花形だったんじゃがな」
「それより生きるのに必死なんですよ。地位なんて考えられない程に」
のほほんと騎士をして居たら、直ぐに寿命だ。
「俺が偉そうに言うことでは無いですが、町の守りは大丈夫ですか?」
「当面は守りを強化せねばならんの。
予定外の出費で頭が痛い」
それは、蜥蜴がバンバン叩いて居るからでは無いだろうか。
護衛の人達が顔面蒼白だ。




