春の事件
「おめでとうー!」
「おお。遂に……」
「やっと一人前だね」
俺は渡された紙をしげしげと眺める。
遂にギルドのランクがブロンズになった。
ついでに戦力も後一歩でシルバー。
ヒザマル・ソラーレ レーヴ王国所属
ギルドランク:ブロンズ
戦力ランク:ブロンズ+
<身体能力> 腕力:24 理力:20 素早:21 体力:28
<所持技能> 剣:3 曲刀:5 ナイフ:3 馬術:4 竜魔法:2
<特記事項> 呪い 鱗竜語
オレンの街のギルドを拠点にして活動すること三ヶ月強。
そこそこの金も溜まった。
ランクも上がり区切りも良い。
そろそろ旅立ちの準備を始めようか。
西へ。
あの日、助けられたフロウさんに会いに。
彼と同じ道を辿りながら。
「あ、ヒザマルさん、鱗竜語が使えるんですね」
「ええ。リザードマンを口説くくらい訳ないですよ!」
「え、そう言う趣味なんですか?」
お団子頭の冒険者ギルドの受付嬢が俺の渾身のジョークに露骨に嫌な顔をする。
『面白くないからな』
うっせ。
「やっぱそうだよね。
こんな美少女に手を出さないのは、そう言う理由か」
「お前、美少女違う」
ジト目のマーリー。
彼女は既にシルバーだ。
今や彼女は、このギルドで指折りの実力者と言っても良い。
最も、単に人が居ないという事も有るのだが。
最近西国の国境の他に、国の東部方面の治安がよろしくないらしく、そちらにも多数出稼ぎに出ている。
「実はですね、今朝から森の端にリザードマンの集団がいる様なんです。
でも、襲ってくる訳でも無さそうなのでどうしたものかと」
「成る程。
とりあえず様子を見てくれば良いかな」
「行ってくれますか?」
「ええ。ブロンズの初仕事としては訳ないですよ」
「あ、今の独り言です。
なので報酬は出ませんけど?」
……まただ。
この団子頭、こうやって男を手玉に取る。
何度只働きさせられたか。
しかし、まあ、許せるのだ……。
女の笑顔が最高の報酬。
親父の言葉。
『親子揃って残念じゃな』
◆
「なんか、ヒザマルあの子に甘いよね。
あの子もちょっと調子に乗り過ぎだ」
「まあ、散歩だと思えば」
「でも、珍しいですね。
リザードマンが、集団で移動するなんて」
マーリー、エリシャの三人でリザードマンが目撃されたという森の端へ向かう。
オレンの街の東に広がる、森。通称、黒の大森林。
その中は、リザードマン、ゴブリンなどと言った亜人種が集落をつくり、更に様々な魔獣の住処をなっている。
人はその森の端を借りて、それでも余り有る恵みを享受している。
長らくそう言う調和を取りながら過ごしてきたらしい。
「何かに住処を追われたんじゃ無いか?
話してもう一回移動して貰えば良い」
そう言いながら、ババロとブブラの美人姉妹を思い出す。
最もあそこから大きく離れて居るので別の集団だろうけど。
美人が居るといいな。
◆
木立の中へ一歩踏み入れるだけで、あちこちから息を潜めた気配が伝わって来る。
マーリーとエリシャをその場に控えさせ、奥へと進む。
いきなり矢が飛んできたりしない所を見ると、やはり侵攻が目的では無いのか。
「“誰か、話がしたい”」
彼らの言葉で、森の中へそう語りかける。
何かが動く気配の後、暫くして二人のリザードマンが姿を表す。
手に槍を持ち穂先をこちらに向けた大きな影に隠れ、守られる様に年老いたリザードマン。
「“そっとしておいてくれ。
そうすれば争う気は無い”」
「“ここに居ると、人が怯える。
移動して貰えないか?”」
「“我らとてそうしたいが、行き先が無いのだ”」
「“住処は?”」
「“ゴブリン共に追われた”」
「“ゴブリン?”」
リザードマンとゴブリンなら、リザードマンの方が強い筈だが。
まあ、数とかあるから単純な話では無いが。
「“アイツラは死の魔物を連れて来た”」
槍を構えた男が、悔しそうに言った。
◆
「どうも、ゴブリンの集団が魔獣を引き連れて来たらしい。
ちょっと気になるから、様子を見て来る。
二人は戻って知らせてくれ」
「私もヒザマルと行くよ」
「ん、良いけど」
「何か、見張って無いと浮気しそうじゃん」
「いやいやいや。流石に……」
そう言って振り返る。
肉体美溢れる美人……の蜥蜴が三人。
いや、マジどうなってんだろ。俺。
何が悲しくて蜥蜴見て胸を高鳴らせないといけない訳?
「流石にって顔じゃ無いんだけど」
「じゃ私が戻ります。
一応、用心する様に伝えた方が良いですね」
「ああ、お願い」
「二人も無理しないで」
そう言ってエリシャはマーリーの頭を手を乗せる。
「大丈夫。ありがと」
俺もやってほしいな。あれ。
◆
「“あれだ”」
森の中を身を隠しながら二時間程進む。
そして、槍を持つリザードマンの戦士が、木の陰に身を隠しながら森の奥を指し示す。
そこには、緑色の肌を持つ亜人、ゴブリンの姿が有った。
粗末な鎧や、布を身にまとい獣の骨で作った槍や剣を持っている。
獣の骨と言っても、魔獣のものであればそれなりの脅威となる。
そして、その数。
見えるだけで、三十を優に越える。
下品な笑い声が風に乗って耳に届く。
「“多いな”」
「“もっと居た”」
そうか。
リザードマンは五十に満たない集団だったな。
そして、その奥に小さな小山が動いている。
「あれは……」
下げた頭の上に巨大な角が見える。
その顔は、麻袋の様な物で覆っているが。
縄を首に括り付け、ゴブリンに引きずられるようにゆっくり進んでいる。
「“石に変える魔物だ”」
「“石?”」
聞いた事がある。
その瞳で射抜かれるとたちまち石になってしまう魔物。
カトブレパス。
「カトブレパス、か」
「げ。ちょっと不味いんじゃない?」
「一旦戻ろう」
三人で、無闇に突っ込む敵では無さそうだ。
しかし……ゴブリン共の進行方向の先はリザードマン達が逃げた森の端であり、その先にオレンの街がある。
何とかしないとな。




