ヒザマルの恋人
寒風の中、馬で進む。
先頭をヒザマル。
横にエリシャ。
後ろからジェルメーヌさん。
そう言う隊形。
多分、私に合わせてだと思うのだけれどゆっくりとした歩様で、多分に休憩を挟みながら。
「もうすぐ今日の目的地に着きますから」
「あ、はい」
「こう言う旅は初めてだろう?」
「そうですね。移動は、馬車が多かったので」
後ろのジェルメーヌさんを振り返りながら答える。
「そのうち、馬車はおろか馬も使わなくなるだろう」
ジェルメーヌさんはそう、笑いながら続ける。
どう言う事だろうか。
「後、十年もすれば人々は蒸気自動車で移動するようになる。
そうすれば、生活は一変するだろう」
少し、遠くを眺めながら楽しそうに言う。
蒸気自動車。
そんなものがあるのか。
「そんな日は、来ないね! 絶対!」
それを、ヒザマルがとても嫌そうに否定する。
「あんなもの、人の乗り物じゃない」
「わかってないな。
馬より早く、馬より手が掛からない。
それに、自動車だけじゃない。
そのうち空を飛ぶ船だって出来る筈だ」
「本当ですか!? すごいですね。
空かぁ」
それを聞いたエリシャが、天を仰ぐ。
釣られて私も。
よく晴れた秋の空は、日が傾きかけていた。
「人は地に足を付けて歩くのが一番だ」
嫌そうな声で、ヒザマルがそう言った。
地に足を付け、一歩ずつ進む。
それは、毎朝剣を振るいに行く彼にぴったりだなと、その背を見て思う。
私も、自分で行く先を定めねば成らないのだろう……。
「寝ていても勝手に世界の端から端まで連れて行ってくれる。
その方が断然素晴らしいだろうが」
ジェルメーヌさんが、後ろで勝ち誇った様に言った。
◆
日が暮れる前に、今日の目的地エビルアに到着した。
宿へ馬を置いて、ここで人と待ち合わせをしていると言う冒険者ギルドへ。
「ヒザマル!!」
中へ入るなり、嬉しそうな声。
可愛らしい女の子がヒザマルへと飛び付く。
そして、首に両腕を回し抱き締める。
「おかえり! ヒザマル!」
ヒザマルの肩に顎を乗せ満面の笑みを浮かべる女の子。
「何でここに?」
「フルグレイに頼まれたんだよ! 浮気しなかった?」
「その言い方止めろ。と言う事は、案内人は……お前か」
女の子を引き剥がしながらヒザマルは困った様な顔をする。
「こいつが案内人か?」
「マーリー・ルーナエです!
ヒザマル、紹介して」
ジェルメーヌさんのヒザマルへの問いかけに答えるマーリー。
「えーっと、ジェルメーヌさん。
絶対、逆らうな。
エリシャ、訳あって不名誉を被った神殿騎士」
そして、私を見る。
「ミラーシャ」
……それだけ?
「よろしく!」
え、待って。
私の説明は?
手を上げて挨拶するマーリー。
屈託の無い、可愛らしい笑顔。
◆
宿へと向かう私達。
先頭をジェルメーヌさんとエリシャが並んで歩く。
そしてヒザマルとマーリー。
一番後ろから私が着いて行く。
「お前さ、良い加減離れろよ」
ヒザマルの腕に絡み付くマーリー。
「やーよ!」
「お前さ、言っとくけど、全然可愛く無いからな!」
「えー。可愛いよ。ねー?」
頬を膨らませながらヒザマルを見上げ、そして振り返り私に問い掛ける。
「ええ。とっても」
「ほら!」
更に体を押し付け、満足気な顔をヒザマルに向ける。
……良い加減離れたらどうかしら。
はしたない。
「あのー、二人はどう言う関係?」
エリシャが尋ねる。
「ギルドの仲間」
「裸で抱き合った仲!」
ヒザマルの言葉に被せる様にマーリーが言う。
ふーん。
その言葉に前を行くジェルメーヌさんも振り返る。
ヒザマルは立ち止まり額に手を当て天を仰ぐ。
そして、こちらを振り返り、大きな溜息を吐く。
何か?
「君たちさ、完全に騙されてるけど、こいつ男だからね?」
いえ、騙されてなどいませんよ。
一体そんな嘘に何の意味があるのですか。
「……あれ? 何この空気。
俺が嘘ついてるみたいな」
「ヒザマルは! おバカさんだな!」
「そうですよ。ヒザマルさん。
こんなに可愛いのに男の子の訳が……えぇ!?」
エリシャの言葉の途中で唐突にヒザマルがマーリーのスカートをめくり上げる。
エリシャが顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。
指の隙間からしっかりとマーリーの下半身を見ている様だけど。
「ちょっとー!
そう言うのは夜の部屋でしてよ」
スカートを押さえながらマーリーが口を尖らせる。
私からは何が起きているのかさっぱりだ。
「ヒザマル……そう言う趣味か」
「違う!」
ヒザマルが、マーリーの腕を振りほどく。
「マーリーさん……どうして?
そんなに可愛いのに」
エリシャが、泣きそうな顔をしている。
「どうしてって、別に意味なんかないよ。
こうやって生きてきただけ」
凄く不機嫌そうに……それまでのおどけた雰囲気からガラリと変わった声で答えるマーリー。
「……マーリー!」
突然マーリーにエリシャが抱き付く。
「え、ちょ、止めてよ。
あんたピエンズ教でしょ!?」
「だから何?」
「私、半妖よ!? わかってるでしょ?」
「そんなの、何も関係無い!」
「…………え?」
エリシャの言うことは正しい。
例え悪魔であれ、救いを与え、そして、それを受け入れ悔いを改めた者は神の使いとなるのだ。
それがピエンズ教の根底にある。
いや、あった。
王宮の神学者は、それを忘れようとしている教会の実状を嘆き憤っていた。
「マーリー!
わかんないけど、主と私が、君を受け入れるから」
マーリーを思いっきり抱きしめながら、エリシャが一息に言い切る。
「えっ……」
一度、戸惑いの声を上げたマーリーは、やがて両腕でアイノを抱きしめ返す。
「エリシャ……。
……ありがと。
…………ありがとう」
マーリーの声は鼻声だった。
マーリーから解放されたヒザマルは、少し後ずさって距離を取り、その二人をとても冷めた目で見ていた。
多分、私も同じような目をしていると思う。
いつの間にかジェルメーヌさんは居なくなって居た。
◆
どれくらい抱き合って居たのだろうか。
今、二人は私達の後を少し離れてついてくる。
腕を絡め合って。
「良い……の?」
その仲睦まじい様子を横目でチラリと見てヒザマルに問う。
「いや、男に興味無いし」
「その割には随分と仲が良さそうだったけれど」
「あれ? そう言う趣味? えーっと、何て言うんだっけ?
あ、そうそう。
ひょっとしてお腐りになられてる?」
「……どう言う意味なの?」
多分、馬鹿にされたのだろうけど。
肩を竦め誤魔化すヒザマル。
……結局、あのスカートの中はどうなってるのかしら。




