表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/64

変わる未来

 カーテンを開けると、朝日の中ヒザマルさんが戻って来るのが見えた。


 昨日、あれだけ憔悴した顔で部屋に入って行ったのに今朝も剣を振りに行ったのだろうか。

 ……一体彼は何を思い何の為に剣を振るうのだろう。


 そうして彼を考え、私には何もないことを自覚する。


 この先、どうなるかもわからず、何をする希望も無い。


 ◆


「あれ、今朝も行ってたんですか?」

「大地の上で体を動かす。

 空気が美味い。

 最高だ」


 お風呂で汗を流してきたのか、ヒザマルさんがタオルを頭に乗せながら言う。


「僕も……負けて要られません!」


 エリシャさんが、急いで皿に乗った朝食を片付け始める。


「あの、この後はどうする予定なのですか?」


 私の問いかけに、後ろから返事が返って来た。


「それは、私の部屋で話す。

 食ったら来い」


 少し、顔を腫らしたジェルメーヌさんが小さな声でそう言って、水の瓶を片手に去って行った。


 ◆


「酒くせ」


 ジェルメーヌさんの部屋を開けるなり、ヒザマルさんが言う。


「……全員入れ」


 ベッドと机が置かれただけの簡素な宿の一室。

 ベッドの上に足を投げ出したままジェルメーヌさんが言う。


 ミラーシャさんが入ってすぐ窓を開ける。


「この後の予定だったな」

「ああ」

「明日、ここを発ってサゴラへ向かう。

 ミラーシャ様はもちろんだが、お前ら二人も護衛として付き合うように」


 そう、ヒザマルさんとエリシャさんに言う。


「……どうやって行くつもりだ?」

「馬だ。機関車の方が早いと言いたいのだろうが、万が一の時に逃げ場が無いのは困る」

「いや、異論は無い」

「途中、エビルアでもう一人護衛と合流する」

「大丈夫なんですか?」


 エリシャさんが、チラリと私を見る。


「ひとまず、正体は伏せる。

 そこでだ、ミラーシャ様。

 失礼だとは思いますが、道々敬語を使うのを止めます」

「あ、はい。構いません」


 もう、私など様と呼ばれる立場では無いのだ。


「わかれば良い。

 お前らもだからな」

「え?」

「あ、はい」

「もちろんミラーシャも」

「あ、そうなのですね。

 わかりました」

「固い」

「え」

「と言うわけでお前ら三人は、今日一日ミラーシャの旅の準備をするように。

 お友達として町で買い物して来い。

 わかったな?」

「金は?」

「そこにある奴を持って行って良い。

 馬も人数分手配しろ」

「了解。ジェルメーヌは?」

「寝る。問題起こすなよ。

 部屋から出る前に窓を閉めて行け」


 そう行ってジェルメーヌさんは、ベッドに横になる。


 互いの顔を見合わせた後、私達は静かに部屋を後にした。


 ◆


 旅の準備と言われても私一人では何も出来ず。

 ヒザマルさんとエリシャさんの後をついて行く。


「まずは、服ですかね」

「そうだな」


 エリシャさんの口調は変わらない。

 神殿騎士だから、可笑しくは無いけれど。


 ヒザマルさんは、全く私に話しかけず。


 エリシャさんに見立てられ、地味だけど動きやすい服を買う。

 つまらなそうなヒザマルさん。


「武器もあった方が良い……かな。

 ミー……ミラーシャ………さん……は何か使える?」

「すいません。何も……」

「そっか。うーん……まあ良いか。下手に怪我でもされると困るし」

「すいません」

「あ、いや、そう言う意味じゃ……」

「護身用に銃とか、あった方が良く無いですか?」

「銃はジェルメーヌに聞いた方がいいだろうな」


 何故かエリシャさんとは淀みなく会話が進む。


「そう言えばジェルメーヌさんってどこからから銃出してるんですか?」

「え、さあ? 本人に聞けば?」


 エリシャさんの疑問に、耳を赤くしながらヒザマルさんが答える。


 そう言えばどこからから出しているのだろう。


「他は、日用品か」

「すいません」


 何から何までお世話になりっぱなしだ。


「何が?」

「え?」

「その、すいませんって」

「その、私の事なのに、ヒザマルさんとエリシャさんに全部整えていただいていますので」

「いや、それは……気にしなくても良い、のと、あまり謝らない方が良い。

 あと、さんづけもしない方が良いよね」

「あ……そうですね。

 すいません」


 早速、無視した形になり苦笑するヒザマルさん。

 もう、口癖なのだろう。


「練習しましょう!」


 エリシャさんが楽しそうな顔でそう提案する。





「練習って?」


 喫茶店に入り、お茶を飲みながら改めてその話題。


「指を指された人が、指を指した人の名前を言います。そして、他の人を指さします。

 簡単ですよね?」


 そう言ってエリシャさんはヒザマルさんを指差す。


「エリシャ」


 答え、今度はエリシャさんを指差す。


「ヒザマルさん」


 私を指差すエリシャさん。


「エリシャさん」

「ブー。さんは、取ります」

「あ、すいません」

「いや、お前もさんづけしてなかったか? 俺に」

「僕は神殿騎士で、ヒザマルさんに敬意を持ってるので良いんです」


 その答えに私とヒザマルさんが首をかしげる。


「さ、もう一回」


 エリシャさんが私を指差す。


「エリシャ」


 私はエリシャを。


「ミラーシャさん。

 と、まあこんな感じです。

 これをリズムに乗せてやって行きますよ。

 名前の後にパンパンと二回手を叩いて下さい。では!」


 パンパン

「エリシャ」

 パンパン

「ミラーシャさん」

 パンパン

「エリシャ」

 パンパン

「ヒザマルさん」

 パンパン

「エリシャ」

 パンパン

「ミラーシャさん」

 パンパン

「エリシャ」

 パンパン

「ミラーシャさん」

 パンパン

「エリシャ」

 パンパン

「ストーップ!」


 ヒザマルさんが再度エリシャを指差した所で手を振り止める。


「何で二人して僕ばかり指差すんですか!?」


 私から、ヒザマルさんを呼ぶのが恥ずかしいのだ。

 なんとなく。

 俯きながら、チラリと横目でヒザマルさんを盗み見る。


「馬鹿らしい。さっさと買い物済ませよう」


 彼はそう、吐き捨て立ち上がった。




 旅に必要な道具をあちこちまわり買い揃える。

 と言っても、私は二人についていくだけ。


 町は漁から戻ってきた漁師や船乗り達の姿で溢れ、どこかから歌も聞こえてくる。


「あら?」


 道端の日溜りで昼寝をする白い猫が一匹。

 気持ちよさそうに、足を伸ばして寝転んでいる。


 そっと、しゃがみ込んでお腹を撫でてみる。

 嫌がらずに、目を細める。


 ……かわいい。



 ◆


 気付くと、二人が居なかった。

 置いて行かれた。

 猫を撫でている間に。


 ……どうしよう。


 探さないと。


 辺りを見回しながら小走りで二人を探す。

 でも、見つからない。

 どこかの店に入ったのだろうか?


 どうしよう。

 宿に戻ったほうが良いのかな。

 でも、二人は私の買い物をしてくれている。


「どうしたぁ?」


 通りの上で困りきった私に親切な人が話しかけて来た。

 船乗りの人だろうか。


「知り合いと……はぐれてしまいまして」

「そうかぁ。そりゃー困ったな。

 あー、向こうで探しているやつが居たぞ。

 連れて行ってやろう」

「本当ですか? ありがとうございます」


 良かった。

 へへへと笑いながら歩き出した親切な人へと付いて行く。


「ミラーシャ!!」


 背後から掛けられた声に振り返る。

 通りの先から、ヒザマルさんが人をかき分けながら走って来る。


 どうして、後ろから来るのだろう?


「何してんだ!」

「え、っと、この方がお二人の所へと案内……」


 言い終わる前にヒザマルさんが、怖い顔で親切な人を睨みつける。

 え?

 戸惑う私を余所に、舌打ちをしてその親切な人は走り去った。


「知らない奴に着いて言ったらダメだ」

「すいま……」


 謝るより早く、ヒザマルさんが私の手首を掴み歩き出した。


 怒って居る。

 無言で前を歩くヒザマルさんの背を見てそう感じた。

 と、立ち止まり、振り返る。


「ごめん」


 そう言いながら、手を離し大きく息を吐く。


「無事で良かった」


 そうか。

 この人は、私を心配して探してくれたのか。

 そんな、単純な事に今更ながらに気付く。


「ありがとう……ヒザマル……」


 さん。

 と心の中で付け加える。


「後は馬を見て戻ろう」


 少し、照れたように笑い、そして再び歩き出した。

 私は前を歩く彼の袖をそっと掴む。

 また逸れないように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ