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マーリーの夜這い

 暗闇の中、目が覚めた。

 泊まった宿屋の一室。


「あ、起きた?」


 上から声が掛けられた。


 仰向けに眠って居た俺の上に馬乗りになる美少女。


 ……食堂で救いを求めていた少女。


「何?」


 何者?

 なぜここに居る?

 何をして居る?

 そんな疑問を全て込めた俺の混乱の一言。


「まあまあ。説明は後で。

 私はマーリー。よろしくね」


 少女はニヤリと笑い、そしていきなり俺のシャツをめくり上げる。


 されるがまま。

 それもそうだろう。


 体が動かない。

 これは、呪いの所為か?


 少女は、中に来たシャツをめくり上げ、おもむろに俺の胸部の突出部をその口に含む。

 左手が下半身へと伸びる。


 ……え。

 まさかの夜這い!?


 戸惑う俺の前で、彼女も上着を脱ぎ全く膨らみの見られない上半身を曝け出した。


 え?

 マジで?


 逡巡する俺を他所に、俺のズボンにマーリーの手がかかる。


 ◆


「なんで……ひぐっ……なんで?」


 完全に全裸にされた俺の上で、すすり泣く声がする。

 俺に跨り、俺に尻を向けながらどうやら俺の股間と、自分の股間とを弄っている様だ。


「えーっと、そろそろ下りてくれないか」


 いい加減、しんどい。


「なんで! なんで勃たないのさ!」


 涙を流し、憤りながら俺の顔の上に仁王立ちするマーリー。

 自然、その股間にぶら下がる一物が目に入る。


 生えてないのか剃って居るのかは知らないがつるりとした股間からのびる、下を向いたままの男性器。


「おかしい! ピクリともしない!」


 知らねーよ。


「こんな筈じゃ無いのに!」


 少し、窓の外が明るくなって来た。


「俺もこんな筈じゃ無いと思ってる」


 金縛りにあったままの体で、不快な物から視線を逸らしながら言う。

 少し前の期待感を返して欲しい。


「……こんな筈じゃ無かったのに」


 ベッドから降りる気配。

 ごそごそと服を着だした。


「また、来るから!」


 泣き顔のまま、そう言い残し窓から出て行った。


「……もう来んなよ……」


 金縛りが解けた身を起こし、開けっ放しの窓に向かい力なくそう呟く。


『男の娘じゃったな』


 何だよ、それ。

 冷静に分析しないでくれ。


 ……まさかの男の襲撃。

 しかし、どうやら俺の貞操は守られたみたいだ。


 溜息を吐きながら服を着る。


 ……尻が……痛い……。


 指でグリグリ、グリグリやりやがって……。


 あいつ、話に聞くサキュバスか?

 いや、男はインキュバスって言うんだっけ?

 男の娘だと……どっちなんだろうか。


『まあ、サキュバスで良いんじゃないか?』


 ……バカらしい。

 心底どうでも良い。


 ◆


 微かな尻の痛みを引きずりつつ……冒険者ギルドへ。


 このまま歩いて王都へ向かっても良いが、いずれは金を稼がねばいけなくなる。


「あのー」


 受付に座る女性に声をかける。

 メガネを掛けた、少し怖そうな人。


「何?」

「えーっと新規の登録を」


 チッと舌打ち一つして、紙を一枚差し出される。


「入会金で金貨一枚。それと身元保証人」

「え?」

「あん? 聞こえなかった? それとも理解出来なかった?」

「いえ……」


 聞こえたし、理解も出来た。

 金は、まあ、仕方ない。

 予想以上に高いが。

 もう一つ、身元保証人……。


「保証人って絶対必要ですか?」

「金貨十枚」

「え」

「保証人代わり」


 目が点になる。


 そんな金、ある訳無い訳で。


「あ! これ! これがあったらなんとかなります?」


 親父のギルドカードを見せる。


「貸して」


 それを受け取った受付嬢が、カードを解析機械と呼ばれる四列にボタンが沢山並んだ機械に差し込む。

 そのボタンがカタカタと自動で動き、上から紙が出てくる。


 やがて動きが止まり、印字された紙を見て眉間に皺を寄せる。


「ちょっと待ってて」


 そう言って受付から奥へと消えて行く受付嬢。


 俺は壁に貼られた依頼の紙を見る。


 親父もこうして仕事を選んでいたな、なんて思いながら。


 猫探し、銀貨十枚。

 人探し、銀貨四十枚。

 道具探し、銀貨十枚。


 ……なかなかに渋い。

 入会金の元を取るのにどれだけかかるだろうか。


「あんた。支部長が呼んでる。

 付いてきて」


 戻って来た受付嬢からそう声を掛けられる。

 なんだろうか。

 支部長とやらが保証人になってくれて、保証金も肩代わりしてくれるのか?


 受付嬢に付いて二階の部屋へ。

 そこには丸坊主のおっさんが居た。


「エビルア支部長だ」


 事務机に座ったまま自己紹介される。


「ヒザマル・ソラーレです」


 小さく頷いた後、受付嬢に退室を促し二人きりになる。


「……ヒゲキリの息子か」


 ヒゲキリ・ソラーレ。

 俺の親父。ゴールドカードの持ち主。


「はい」

「でかくなったな」


 俺を知っているのか?


「ヒゲキリはどうした?」

「二年前に死にました」

「……そうか」

「あの……」

「お前はヒゲキリとは関係無い。

 そういう事にしておけ」

「は?」


 支部長は引き出しから紙を出し、机の上に置く。


「親父さんへの請求書だ。

 金貨二百枚になる」

「は?」

「まあ、親父さんが悪い訳では無い。

 だからギルドも無理には取り立てない。

 行方知らず。

 その方がお互いに都合が良いだろう」


 ……何したの? 親父!


「知らなかったか」

「ええ」

「まあ、難癖に近いような物だ。

 親父さんは頼れる奴だが、不器用だった」


 そう言って僅かに笑う支部長。


「これは、見なかった事にする。

 他所でも出さない方が良いだろう」


 ゴールドカードを返される。


「その上で、まあ、保証金と保証人が用意できるならギルドとしては歓迎する」


 ◆


 保証人……。


 ギルドの一階で受付嬢から白い目で見られながら椅子に座り頭を抱える。


 八方塞りだ。


 いっそ、機関車に乗って行けるところまで行くか?

 中間くらいまではいける筈だ。


 その後は?

 食費すらままならない。


 武士は食わねど高楊枝。

 親父の教え。

 武士がなんなのか知らないけど。


 少しくらいなら食わなくても……。

 いや、その先の展望が無い。


 二年半の寿命の前に餓死する。


「どしたの?」


 上から落ちて来た声に顔を上げる。

 美少女(男の娘)がそこに居た。

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