生かされる
衝撃と共に、土煙が沸き起こる。
その中に立つ一人の人物。
「フロウさん!?」
「やあ、ヒザマル君か。変な所で会うね」
「何故ここへ?」
フロウさんは剣を抜きながら、その場から一歩飛び退る。
「再起せよ<陽光>」
柔らかく温かな光が全身を包み、そして、一気に体が楽になる。
痛みも感じない。
「さ、逃げるんだ」
俺に背を向け、フロウさんは言った。
地面にめり込んでいたハマリエルがその翼を全て広げ浮かび上がる。
その顔は怒りで醜く歪む。
「動けます。俺も」
「君を守りながら戦う余裕は無いんだよ」
フロウさんは静かに言った。
『正論じゃな。
彼奴らもお主を待っておる』
は?
『お主が行くまで船が出んぞ。今は退く時だ』
……クソ。
「フロウさん! いずれ、また!」
「ああ!」
振り返り、全力で掛ける。
背後で、巨大な爆発音がした。
◆
「爆ぜろ<灼光>」
フロウが魔法を放つ。
光が熱となりハマリエルへと収束し、そして、周期の空気を震わせながら爆発する。
その熱の中心で、ハマリエルはその背の六枚の翼で身を包み押し寄せる力の奔流から身を守る。
熱が引く、その直後、眼前に迫るフロウが目に見えぬ程の速度で剣を振るう。
その一撃は、ハマリエルの翼を纏めて切り裂き腕に深い傷を負わせる。
慌てて上空へと逃れるハマリエル。
それと入れ替わる様に空からフロウの背後へと一匹の白狐が降り立つ。
走り去ったヒザマルの背を一瞥し、フロウの背に問い掛ける。
「知り合いでもおりましたか?」
「ええ。今度紹介しますよ」
「ならば、さっさと終わらせると致しましょう」
白狐が妖しく笑う。
釣られる様に車椅子に座っていた復讐のズリエルも笑みを浮かべる。
◆
「ヒザマルさん!」
「ヒザマル! 早くしろ!」
埠頭の先で、ミラーシャの叫び声、そしてジェルメーヌが怒鳴り声がする。
ジェルメーヌが、海の上に立っている。
ミラーシャが、海の上に樽を浮かべその中に入っている。
そう思った。
いや、暗くてわからないのだろうと思いながら走り寄る。
海の上にだと思っていたジェルメーヌの足元にはぬめりと光る床が海の中に浮かんで居て、ミラーシャはそこから突き出た丸い突起物から体を半分出して居た。
「早く乗れ! 出航するぞ!」
ミラーシャが、手招きひとつした後、その突起物の中へと消えて行く。
「……え?」
「え、じゃ無い! 早く来い!」
「……何、それ?」
「潜水艦だ!」
「せん…すい……かん?」
「ふざけてるのか?」
ふざけてるのはどっちだと言いたい。
何だ?
その、水の中に潜ります的な名前は。
そんな訳の分からぬものに!
命を預けられぬ!
預けたく無い!
そんな物、乗りたく無い!
「早くしろ!」
「はい!」
銃を向けないで下さい……。
急かされ、恐る恐るそれに飛び乗る。
「入れ!」
入れって……。
ぽつんと突き出た、丸い……入り口?
中を除き込む。
壁に梯子がついて居て、下へと続いている。
中に、空間がある。
でも、そこは海の中……。
「早くしろ!」
ジェルメーヌが怒鳴る。
意を決し、その淵へ腰をかけ梯子を…………。
「無理!」
やだ!
「ここに残る!」
「五月蝿い!」
背中を思いっきり蹴飛ばされた。
その勢いで穴の中へ落下する。
「大丈夫ですか!?」
ミラーシャが驚いた顔をこちらを見る。
「静かに入れ! バカもん!」
誰かに怒られる。
ガコンと、重い金属の扉が閉まる様な音がしてジェルメーヌの声が続く。
「全員乗った!」
「よし! 出航じゃ!」
細かな振動が身を包み、そして、それは動き出した。
……ここから、出してくれ。
◆
どうやら俺は海の中を進んで居るらしい。
丸く、トンネルの様な空間。
立って歩く事は出来るが、ジャンプをしたら頭をぶつけるだろう。
壁にはパイプの様な物が所狭しと取り付けられて居る。
「どうだ! 世界初の蒸気潜水艦の乗り心地は!」
「最高!」
フルグレイだけが元気に答える。
艦長の他に乗員は三人。
俺達五人と合わせ、計九人。
艦内は幾つか部屋に分かれて居るらしい。
今は様々な計器類が並ぶ制御室に居で艦長がこの潜水艦の凄さを語って居る。
それを床に座り聞き流す面々の顔は一様に暗い。
壁に寄りかかる。
……この壁の向こうが……海。
……明日には解放されるらしい。
それまで……我慢……だ。
◆
ヒザマルが初めての乗り物に恐怖する中、ミラーシャは、ヨルチが死んだ事、そして弟を失った事に打ちひしがれる。
その向かいで、エリシャは二人分の不名誉を雪げなかった自らの力の無さを悔やむ。
自らに課した、サファイアの奪還、そして、デュラハンと成ったノイセンと言う名の神殿騎士の無念。
その為に、立ちはだかる天羊騎士副団長アエリアと言う壁はあまりに高く感じられた。
艦長の説明を嬉々として聞いて居たフルグレイであるが、ジェルメーヌから一通の手紙を渡され愕然とする。
それは、フルグレイが所望した武器購入の顧客名簿。
自らの予想を、はるかに上回るその名簿の内容は国の行く末に暗雲が立ち込めて居る事を悟った。
こうして、それぞれの思いを乗せた潜水艦は海中を隣国の港町目指し進んで行く。




