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死を待つ王女

 また、叫び声で目が覚めた。

 そして、ガラスの割れる音。


 私は布団を被り、音を遮断する。

 それが終わるのをただ待つ。


 私は自分の命が終わるのをただ待つ。


 いつの間にか叫び声は止まっていた。


 ベッドから這い出し、朝日が差し込むカーテンの隙間から外を眺める。


 鍛錬だろうか。

 一人、剣を振る少年が見えた。


 いつか、あの剣で歴史に名を刻む事を夢見て彼は剣を振っているのだろうか。

 今が、明日そしてその先の未来へ続く事を疑わずに。


 羨ましい。


 ◆


 ミラーシャ・フトゥールム。

 かつて、ミラーシャ・オゥ・ブリズニツと言う名でブリズニツ王国の王女であった少女。


 しかし、一年程前に起きた革命でその座を追われ、それ以降、オーギュストと言う商人の元、首都から離れたオルレアンの屋敷に歳の変わらない異母弟と共に匿われていた。


 彼女の母は、王妃の侍女であったが王に見初められ関係を持つに至る。

 彼女が王の子を妊娠したことに、王妃は烈火の如く激怒したがやがて、自らも妊娠し、男子を産むに至り彼女を赦し親子を王宮に住まわせた。


 遠巻きに蔑む為に。


 王は彼女を愛する事は無かった。それどころか、全く興味を持つ事すら無かった。

 彼女にとって王は父では無く時折母の元へと現れる男でしか無かった。


 その母親も彼女が十歳になる前に死んだ。

 表向きは病死とされているが、暗殺や自殺など様々な噂が流れた。


 王妃は、彼女を引き取り自らの娘として育てる事を高らかに宣言した。


 王妃は、彼女へ優しく接した。

 蔑む様な冷たい目つきで。


 そうやって、王宮で暮らす内に彼女は誰からも必要とされていない自分を認識した。

 やがて何も望みはしなくなる。自らの死以外は。


 ◆


「また、小麦が値上がりしました。

 収穫が終わったばかりだと言うのに。

 これではこの冬を越せず餓死する者も出るかも知れませんね」


 そう言って、家庭教師の女は盛大に溜息を吐く。


「どうしてこんな事になってしまったのでしょう。

 ミラーシャさん、お分かりになりますか?」

「はい」


 直ぐに返事をして、その理由を答える。


「申し訳ありません。

 全ては、卑しい豚である私の父が至らぬ統治を行ったからです。

 惨めに殺された豚に代わり心からお詫びいたします」


 その私の答えに、満足した様に頷く家庭教師。


「よろしい。

 では、本日の勉強を始めましょう」


 家庭教師が本を開く。

 始めて会った日に、平手で顔を打たれ私はこの人を逆らう事を禁じられた。

 もっとも、そんなつもりは微塵も無かったのだけれど。


 王宮から離れ一年。


 新たな住まいとなった屋敷から外に出ることは無いが、目の前の家庭教師は外の様子を事細かに教えてくれる。

 国内が荒廃してかつての栄華は何処にも無いと嘆き、その原因となった王と王妃が斬首され、国民が歓喜したと嬉しそうに語る。


 私はその度に、相手が満足する反応を示さねばならなかった。


 王妃、つまり母親が処刑されてから、弟は夜な夜な叫び声を上げる様になった。

 王宮にいた時もそれほど会わなかったけれど、ここに来てから、同じ屋根の下にいるのに不思議と全く顔を合わせなくなった。


 次は二人同時に処刑されるだろうと家庭教師は嬉しそうに語る。

 だから、弟に会う時は私が死ぬ時なんだと思う。


 そして、それはその日の夜。

 前触れも無く突然やって来た。

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