デュラハン退治
一晩ぐっすり寝てもまだ、体が揺れて居る気がする。
少し走り、そして、素振りをして幾分か落ち着いたけども。
そして、タオルで汗を拭いながらずっと感じていた視線の主へ問いかける。
「何か?」
人の鍛錬を観察する様にじっくりと眺めて居たおっさん。
無精髭で、剣をぶら下げている。
物取りでは無いだろうけど。
「真剣に剣を振っているもんだから、つい見惚れた。
悪気は無い。
そう、睨むな」
そんな珍しい事か?
「習慣なんで」
「しかし、剣なんかこの先、役に立たないぞ?」
「でしょうね」
どうとでも言え。
どうせ先の無い命だ。
そうでなくても、長生き出来る様な生き方は出来ないだろうし、するつもりも無い。
別に人を殺したい訳では無いから銃を持つ必要性も感じない。
それだけだ。
「少し、手合わせしてくれないか」
その男がそう言って立ち上がる。
「抜き身で良ければ」
向き合うならば、真剣に。
殺すつもりで。
そうしてこそ、殺す事も生かす事も出来る様になる。
「ああ。良いぞ」
刀ではなく剣を手に取り、そして、その男と向かい合う。
かなりの強者だろう。
◆
十本やって十本負ける。
まだまだだな。
「お前、怖いわ」
「え?」
負けた相手に恐れられる。
なんで?
「普通は踏み込まない一歩を、躊躇いも無く踏み込んで来る。
こっちが剣を引かなければ死んでたぞ」
「ああ、そうですね。
それでも届かないもんすね」
「手合わせ程度で死ぬ気で踏み込んでどうするよ」
「でも、それ以外に手は無かったんで。
その途中で果てるなら、その程度と言う事で」
「……命は大事にしろよ」
「大事な物なんて、無いんですよ」
「そう言うのは大抵無くしてから気付くんだ。
気をつけろ」
そう言って、男は去って行った。
◆
そう言えば所在報告。
と言う事で冒険者ギルドを覗きに行く。
二、三日はここに滞在するだろうとフルグレイは言っていた。
適当な仕事があれば請けても良いかもしれない。
イニジオと違い、ギルドには大勢の人が居た。
仕事に溢れているのだろうか。
これは、無理そうだなと思いながら壁の依頼を冷やかす。
報酬の良い護衛の仕事があるが、条件がシルバー以上で更に時間もかかるので無理だな。
「これは……?」
デュラハン退治。
「兄ちゃん、見ない顔だな。
どっから流れて来た?」
いきなり熟練っぽい男に絡まれる。
「東から」
「そうかい。まあ、新入りはあまりでしゃばって働かない方が良いぞ。
報酬を使う前に奪われちまうからな」
そうやって堂々と犯罪者宣言して良いのだろうか。
「まあ、仕事で一緒になったら仲良くしようや」
「はあ」
別にそんなつもりはないけど。
「ちなみにそれな、今まで何人も返り討ちに遭ってる。
報酬も大した事ないしな。
デュラハンって言ったらシルバー級の冒険者と聖職者でやっと浄化出来るって代物だからな」
依頼の報酬は銀貨一枚。
まあ、失敗しても文句は無いだろうし良い暇つぶしか。
解説役を務めてくれた熟練の冒険者に礼を言って受付へ向かう。
◆
オルレアン郊外の森。
……午後だと言うのに霧に包まれて居る。
「不気味ですね」
頼んで無いのにエリシャが付いて来た。
アンデットを浄化するのは、教会の義務らしい。
では、なんで放って置かれてるんだろう。
森の外まで逃げれば追って来ないらしいから実害は無いのかな。
「帰っても良いぞ」
「帰りません」
頑固な女騎士と、霧の森へと進んで行く。
それは直ぐに現れた。
街道を塞ぐように立つ、甲冑姿の騎馬。
黒い馬の双眸は、怪しく赤く光る。
手には長い槍。
聞いて居た通りに、首から先が無い。
刀を抜く。
「……どうして……?」
エリシャが、そう呟く。
構わず馬の腹を蹴り、デュラハンへ向かう。
相手が槍を構えながら、突っ込んで来る。
初撃を弾き、横をすり抜ける時に刀を一閃。首を狙う。
……手応え無し。
そりゃそうだ!
首、無いじゃん!
「主よ、力を<気弾>」
こちらへ向き直ったデュラハンの背後からエリシャの魔法を受け、僅かに体勢を崩す。
再度突っ込む。
だが、刀を当てる先が見当たらない。
潰す事を覚悟で剣で打ち据えるか。
再び距離を取りながら刀を鞘に納め、剣を抜く。
俺とエリシャがデュラハンの周囲を回りながら隙を伺う。
「主よ、恵みを<強化>」
エリシャの魔法で体に力がみなぎって来る。
再びデュラハンへと突っ込んで行く。
槍を掻い潜り、すれ違い様に首を狙う。
今度は、馬の。
肉を切り裂く手応え。
しかし、馬は倒れる事なくその四つ脚で地に立つ。
剣が切り裂いた、その傷口から黒い煙が出て居る。
「<気弾>」
狙いを同じく馬に定めたエリシャの魔法が襲う。
間髪置かず剣を振って行く。
迎え撃つように、横薙ぎに払われた槍。
剣の刃で受けたが僅かに押し込まれ、脇腹にその一撃をもらう。
勢いは殺した筈のその一撃で、息が止まり、馬ごと弾き飛ばされる。
「主よ、慈悲を<治癒>」
間髪置かず、エリシャから魔法が飛んで来る。
デュラハンの注意がそちらに向いた瞬間に一気に間合いを詰める。
離れては駄目だ。
体が当たるほど近くに。
剣が鎧に当たり甲高い金属音を響かせる。
それは、見慣れた神殿騎士の鎧だった。
不名誉印までエリシャと同じ。
◆
刀を頭上に掲げる。
火の型。
デュラハンも、俺も馬から降りた。
間合いを見極めながら力を練る。
――火よ、在れ。
踏み込み、一気に刀を振り下ろす。
太刀筋に、赤い炎。
――朱雀の太刀。
槍を掻い潜り放ったその一撃が、甲冑の上からデュラハンを袈裟斬りにする。
片膝を着くデュラハン。
止めを。
その前に、馬から降りエリシャが駆け寄って来る。
そして、俺とデュラハンの間に割って入る。
下がれ。
そう、俺に目配せしデュラハンに向き直る。
「主よ、安らぎを<浄化>」
手をかざしながら、エリシャが静かに魔法をかける。
白い光が、デュラハンを包み込む。
しかし、それに抵抗する様に立ち上がろうとするデュラハン。
「あなたの不名誉、私が雪ぎます」
エリシャが、そう静かに言った。
そして、デュラハンはその両目でエリシャを見る。
そんな気がした。
エリシャがゆっくりと頷く。
デュラハンは、そのまま光の中へと消えて行った。
その場に一つの小さな盾を残し。
それは、表面に山羊の様な彫り物が有り目の部分には緑の宝石が嵌められていた。
盾の表面に宝石があるなんて、装飾品以外にはありえないのだが、お世辞にも大した金にはなりそうも無い。
結局、エリシャがまた面倒事を一つ背負い込んだだけの様だ。
◆
「神に仕える神殿騎士が、その教えに背きこの世に残るなど、きっと余程の事があった筈です」
「ふーん」
「僕の前に現れたのは、神の思召し。
あの騎士への救いと僕への試練なのです」
そうかな?
しかし、これで銀貨一枚だから浮かばれない。
俺も剣一本駄目になったし。
ギルドに報告に行って少し驚かれた。
いや、自分でもよく勝てたと思う。
エリシャの魔法での援護が無ければ絶対に無理だっただろう。
しかし、何か礼をしようにも銀貨一枚だからな……。




