表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/64

少年の旅立ち

「そうか。旅に出るか」


 大して多くない荷物をまとめ、世話になった領主へと挨拶に。

 竜が退治されたからだろう。

 上機嫌で、お茶まで出して来た。


「お主の父には助けられた。

 これは少ないが餞別だ」

「ありがとうございます」


 そんなつもりは無かったのだが、この先何かと入り用だ。

 何も言わずに受け取る事にした。


 後で確認すると、金貨二枚と銀貨が五十枚。

 信じられない程の餞別だった。


 借りていたあばら家でそれを知った俺は屋敷の方へ深々と頭を下げた。


 領主の家から辞去する時に二階から、領主の娘に無言で見送られる。

 村で一番の美貌の持ち主。


 去り際は、さり気なく。

 そうすれば再会した時の印象が非常に良い。

 親父の教えだ。


 俺はそれに従い、軽く笑みを浮かべるのみに留める。


 余命二年半などと露見すれば涙の別れとなる……。


 ◆


 領主は竜の売却で餞別など端た金と思える程の金を手に入れる。

 娘はそれで何を買おうか、どんな贅沢をしようか思い描いていた。


 残念ながら、流れ者が一人居なく事を気にかける者は居なかった。


 ともあれ、少年は旅立った。

 勘違いへの感謝と、死への恐怖へ涙して。


 ◆


 まず、目指すは王都レグラス。

 フロウさんはそこへ戻ると、そう言っていた。


 人の足ならば二十日程。

 馬でおよそ、その半分。

 そして……目の前の蒸気機関車ならば一日……。


 旅立ちから一日半。

 この辺りの中心地であるエビルアまでやって来た。


 ここに、三年ほど前に蒸気機関車の駅が出来、王都レグラスまで線路が繋がって居る。


 どうするか……。


 安宿兼食事処で、夕飯を食いながら考える。

 手持ちは、金貨三枚と、銀貨十五枚程。


 蒸気機関車で王都まで行くのに金貨一枚と銀貨八十枚。


 かなりの出費だ。


 当たり前だが、移動した先でも金を稼がねばならない。

 その当てが無い今、大きな出費は避けるべきだ。


 ……稼ぎの当て……か。


 俺は親父の残した冒険者ギルドのカードを取り出す。

 金で縁取られたカード……。


「うわ! すごい!」


 突然、女の声がした。


 振り返ると、ソバカスが浮いた女の子が後ろから俺の手の中のカードを覗き込んでいた。


 ……可愛い。


 落ち着け。


 がっつく男は嫌われる。

 親父の教えだ。


「その若さで、ゴールドなんですか!?」


 冒険者ギルドはその働きと強さでランク分けされる。

 上からプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、そしてスチール、一番下がストーン。

 親父は、ギルドで依頼を受け日銭を稼ぐ冒険者だった。

 母親は知らない。

 そうやって、あちこち流れて暮らしていた。


「俺のじゃ無い。死んだ親父のだ」


 女が向かいに腰を下ろした。


「すごーい!」


 テーブルに身を乗り出して褒めて来る。

 さては……俺に気があるな!?


 ◆


「それほどでも無いさ」

「そうなんだ。すごーい!」


 瞼が重くなって来た。

 大して飲んだことの無い酒の瓶が転がって居る……。

 頭がガンガンする。


『起きろ』

「ん?」


 声と共に頭が冴える。


 目の前の女が居ない。


 あれ?


『お主の荷物を持って逃げたぞ』

「何!?」


 ……盗まれた!?


 クソ、油断した!


 急いで店の外へ。


 人がまばらな通り。

 右? 左?

 あの女はどこだ?


『左』


 ……左!


 その声を頼りに走り出す。

 細い路地を左へ。抜けた先を……右。


 居た!


 こちらに気付いて無いその女へ、静かに近寄り後ろから肩に手を置く。


 ピクンと跳ね上がる肩。


 振り返る女の顔に恐怖が浮かぶ。


「……ごめんなさい。つい、出来心で」

「荷物を返してくれ」


 俺の言葉に頷き、肩に掛けた薄汚れた袋を差し出す。ご丁寧に腰に刺してあった剣二本まで抜き取って居たか。


「許して下さい……。母が……病気なんです」


 泣きながらそう弁解する。


 俺は返された袋の中身を検める。

 無くなった物は無さそうだ。


「……ごめんなさい」


 袋の中から金の入った袋を取り出す。


「薬代」


 泣いている女にそれを渡す。


「……え?」


 そのまま、来た道を戻る。


 女の涙は疑うな。

 親父の教えだ。


「あ、ありがと……」


 ◆


『お主、バカだな?』


 うるさい。


 宿に戻り、水を一杯もらう。

 そして、テーブルに腰を下ろす。


 念の為にと金を二つに分けて居たが……あの女に渡したのが金貨二枚……。

 多い方だった……。


 残り金貨一枚と銀貨十五枚。

 いや、メシの支払いで銀貨三枚消える……。


 蒸気機関車は乗れなくなった……。


「君、バカでしょ?」

「うるさいな!」


 ……ん?


 また、向かいに知らぬ美少女が座っていた。


「あんな嘘に引っかかって」

「そうか。嘘か。病気の母親はいないのかー」


 知ってるわ!

 薄々気付いてるよ!

 でもさ、泣いてんだよ?

 仕方ないじゃ無いか!


『そうなのか?』


 そうだよ!


「もう、病人は救えないからな」


 同じ手は……食わぬ。


「じゃ、私を救ってよ」


 首を振り立ち上がる。

 救いを口にする女には気をつけろ。

 親父の教えだ。


 俺は飯代を払い、部屋に戻った。


 明日から、どうしよう……。

銅貨一枚……十円

銀貨一枚……千円

金貨一枚……十万円

ぐらいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ