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不名誉騎士の旅立ち

 結局木造の簡易な橋を架けるのに、周辺の村からも人が集まり丸一日かかった。

 修道院にもう一日お世話になる事に。


 そして、司祭の葬儀がしめやかに行われた後、ピス大聖堂を後にする。


「フルグレイさん、ヒザマルさん。

 エリシャの事、くれぐれもよろしくお願いします。

 危ないなと思ったら縄でふん縛って構いませんので!」


 そう、騎士隊長に真顔で言われ二人苦笑する。


 さも、心外だと言う顔を当のエリシャはしていたが。


 そして、俺達はその日の内にその言葉の意味を思い知らされる。


 俺とフルグレイは借りた馬がある。


 対してエリシャは徒歩なのだ。

 甲冑で。

 俺が走るから馬に乗れと言っても頑として聞かず。

 結局、道中で宿を借りる羽目に。




「甲冑捨てたら?」


 晩飯後に若干の怒りを込め言い放つ。


「いえ、これは僕の誓いなので!」


 誇らしげに不名誉印を誇張する。

 こいつ、大丈夫かね。


「うん。若いって、良いね!」


 フルグレイは既に何かを諦めた様だ。


 クソ。

 部屋に戻って瞑想しよう。


 ◆


『熱心じゃな』


 竜の魔法。

 使える様になったと言っても大した威力では無い。


 この先もこの程度なら、頼るのは危険だ。

 だが、感覚として使いこなせていないと言う感覚の方が強い。


 咄嗟に、確実に力を入れ練る事。

 それは、剣先に五行の力を乗せるに似ている。


『そうやって扱って見たらどうじゃ?』


 どう言う事だ?


『刀に魔法の力を乗せ振り抜くのじゃ』


 なるほど。

 どうやる?


『知らん。

 竜はそんな事せんもの』


 クソが。


『ただまあお前を見ていて出来そうだと思っただけじゃ』


 そう言うもんかね。


 ◆


 翌日から、朝の素振りが倍になった。


 通常の素振りを百セット。

 そして、瞑想をして、刀を魔力を乗せる事を意識しながらもう百セット。


 何時からだろう。

 その様子をエリシャが眺めていた。


「毎日やってるんですか?」


 終わったところを見計らい声をかけて来る。


「ああ。出来る日は」


 最早、親父に叩き込まれた習慣だ。


「成る程」


 何が成る程なのだろうか。


 ◆


「帰りました」


 フルグレイの家へと招かれる。

 他に用も無いし、エリシャも久しぶりに顔を見せると言う事で。


「あらあらあらあら。

 まあまあまあまあまあ」


 中から着飾ったご婦人が現れる。

 母君だろう。


「ママン!」


 ご婦人とフルグレイが熱い抱擁を交わす。


 ……何これ?


 ◆


「おじ様、おば様、ご無沙汰しております」


 応接室に通され、エリシャがフルグレイのご両親へとご挨拶。


「ああ。司祭の件は残念だったな」

「はい。賊は許しません。

 ですが、法に則った裁きを必ずや」


 満足そうに頷く父君。


 そして、俺の方を見る。


「ヒザマル・ソラーレです」

「冒険者ギルドで世話になったんだ」


 しかし、俺の自己紹介に父君の眉間に皺が寄る。


「ソラーレ……。ヒザマルちゃんはヒゲキリちゃんとご縁があるのかしら?」


 お茶を出した後、お盆を抱え、顎に人差し指を当て首を傾げる母君。


「ヒゲキリは、俺の父です」

「何と!」


 父君が立ち上がり顔を真っ赤にし、俺を睨む。


 何だ?


「あやつは今何をしておる!?」

「えっと、二年前に死にました」

「む……」


 そこで少し溜飲を下げ座る父君。


「あの……何か父がしましたか?」

「したとも!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ父君。


 ……親父、何したんだよ?


「いやねえ。大した事ないのに」


 対しておっとりとした母君。


「そんな事あるか!」

「あの、宜しければお聞かせいただけませんか?」

「ああ! よく聞け!

 あれは儂の発明した魔法大砲を、王の御前で披露した時の事じゃ!」

「魔法大砲?」

「そう! 魔法の力で子供の頭程の鉄球を発射する画期的な発明じゃ!

 儂が!

 作り出したんじゃ!」

「はあ」

「それを、事もあろうか、飛んで行ったその鉄の塊をあやつはどうしたと思う?」

「どうしたんでしょう?」

「剣で、真っ二つにしおったんじゃ!」


 どうしてそんな状況になったんだろうか。


「それでどうなったと思う?」

「どうなったんですか?」

「王に役立たずの発明と言われ失笑されたわ!

 あれがあれば!

 戦争の歴史は変わっておったものを!」

「私は嫌ですよ。人殺しの道具の生みの親なんて」

「む……」


 母君の言葉にわずかに溜飲を下げる父君。


「そ、それだけでは無いぞ!」


 まだあるのか。


「儂が発明した、魔導甲冑の時もそうじゃ!」

「魔導甲冑?」

「魔法の力でより強固にした甲冑じゃ!

 あれが実用化しておれば、騎士団の死人はゼロになっておった筈じゃ!」

「それも親父が?」

「そうじゃ! あろう事か、王へのお披露目の時に!

 真っ二つにしおったんじゃ!!」


 親父よ……。

 少しは手加減しろよ。


「それだって、ヒゲキリちゃんが事前に手心を加えましょうかって聞いて来たじゃない。

 それを貴方が、そんな物は要らん。馬鹿にするな。全力で叩き斬れ。っておっしゃったんですよ」


 ……親父。

 疑ってすまんかった。

 僅かに常識を持ち合わせていた事に息子は感動している。


「兎に角! そうやって無駄にされた発明品の開発費をじゃな! 冒険者ギルドを通して請求したんじゃ!

 それを、まんまと踏み倒して死におって!」

「私がギルドに言ったんです。本人に伝えないで下さいと」

「何じゃと!? 何を勝手にそんな事を!」

「貴方、自分がどれだけ馬鹿な事を仰っているかわかりませんか?

 わからないのならこの家から出て行きますが?」

「ぐ……」


 静かに怒る女に逆らうな。

 親父の言葉だ。

 ……成る程。


「因みに、その請求はいかほどですか?」

「金貨二百枚じゃ。息子のお主が肩代わりするか?」

「親父、馬鹿なこと言うなよ?」


 おお、フルグレイも味方だ。

 てか、あの請求は全部この訳のわからない言いがかりだったのか。


「取り下げて貰うわけに行きませんか?」


 聞けば親父は悪くなさそうだし。


「嫌じゃ!」


 ……余程悔しかったんだろうな。


「親父」

「貴方」

「ぐぬぬ」


 明らかに旗色の悪い父君。

 黙ってお茶を啜り出す。


「ヒザマルちゃんは、何をして居るの?」

「親父と同じ冒険者稼業を。

 それと今は人を探して、西国を目指してます」

「西……か」


 俺の言葉に父君が反応する。


「親父、国境の通行証とか出せない?」

「領主に頼めばすぐじゃから、出せん事もないが……そもそも西は危険でないか?」

「こっちで言われている程荒れては居ないよ。ぱっと見はこの国と何ら変わらない。

 少し外れれば魔物が居て野盗が居る。

 まあ、少しは野盗が目につくけども。

 まあ、ヒザマルちゃんならその辺は大丈夫だと思うよ」

「ふむ。それなりに腕に覚えがあるか」

「まだまだ未熟者です」


 両腕を組んで考え込む父君。


「物は相談じゃ。一つ、頼まれごとをしてくれんか?」

「何でしょう?」

「西国、ブリズニツへ行って、人をこちらに連れて来て貰いたい」

「護衛、ですか」

「その様なものじゃ。あちらで指示を出す者はおる。それに従い、この国まで連れて来て欲しい。

 代わりと言っては何だがギルドの請求は取り下げる。

 戻ったら改めて通行証も出そう」

「……どんな人物ですか?」

「今は言えぬ」


 うーん。

 まあ、請けないと動きようがないからな。


「わかりました」

「おお、頼まれてくれるか」


 こんなさして面識の無い小僧に頼むくらいだから大した話じゃ無いだろ。


「ヒザマルさん、僕もお伴します!」


 とエリシャ。


「え、何で?」

「西は僕の目的地でもあります」


 それ、答えになってない。


「じゃ、僕も行こう。

 多少は案内出来るだろうし」

「あら、フーちゃんも行くの?

 気をつけてね」

「大丈夫だよ。ママン」


 旅費ぐらいは貰えるよな?

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