襲撃の後
目が覚め、見知らぬ部屋で寝ている訳を思い出す。
そうか。
倒れたのだ。
上半身裸なのは、マーリーの襲撃ではなく鎧を脱がされたからか。
ベッドから起き上がり、壁にかけてあった上着を羽織る。
『起きたか』
ああ。
『生きてて良かったの』
何が起きた?
『おそらくもう一人おった。油断するからじゃ』
完全に油断した。
勝って兜の緒を締めよ。
だな。
窓から外を覗く。
おそらく、礼拝堂が見える。ここは、おそらく修道院。
という事は、ひとまず無事か。
壁に置いてあった刀と剣を手に外へ。
ナイフが無い。
あ、賊ごと川の中か。
引き上げるのは無理かな。
外は少し靄がかかっていた。
差し込むのは朝日だろう。
何日も寝ていた、なんて事は無いよな?
門を開け、修道院から通りへ出る。
そのまま川岸へ。
橋は半ば程で崩れたままだ。
そのまま礼拝堂の周りを歩いて行く。
丁度裏手に木戸がある。
ここから中へ入ったか。
そして、左側に岸を回って戻ろうかと思ったが、途中で岸が崩れていて通れないので諦める。
派手に壊したな。
賊の中に魔法の使い手でも居たのだろうか。
仕方なく、来た道を引き返し、裏口から中へ。
礼拝堂にはいくつかもの棺桶が並んでいる。
うち一つ。
明らかに他と区別された物がある。
老司祭が安置されていた。
目を閉じ、冥福を祈る。
そして、外に出て反対の橋も落ちたままであることを確認する。
孤立したままか。
俺は通りで刀を手に素振りを始める。
◆
騎士見習いの子供が起きてきて、門を開け、刀を振る不審者、つまり俺を見つけ大騒ぎになると言う微笑ましい一幕を挟みつつ、フルグレイと朝食を頂く。
修道院の人々は一同に介し食べる規則だという。
客人は別。
そして、なぜかエリシャも同席している。
食べながら、俺が意識を失ってからの事を聞く。
「そうか。司祭が」
「惜しい人を亡くしたよ」
最後まで教えを説き逝ったのだ。
本望だったと思いたい。
「それで、その後オーク退治から神殿騎士団の面々が戻ったんだけど、当然渡れっこない。
野盗が残していった船でなんとか、数人こっちに渡ってもらってさ、生き残りから事情を聞き出したわけ。
そうしたら、オークの襲撃はここから騎士団を遠ざけるための陽動だったと、そう言う話でさ。
オークの方も群れで襲ってきたらしく、神殿騎士団に犠牲者こそ出てないものの大苦戦だったらしい」
オークの群れ。
それは、おそらく昨日襲ってきた野盗よりも厄介だろう。
「流石神殿騎士団だ」
「他にも助っ人が居たらしい。
君の探している人だと思う」
「フロウさん!?」
「そう名乗っていたそうだ。恐ろしく強かったと隊長が言っていた」
「じゃ、そこに行けば」
「残念だけど、山を超えて西へ行くと旅立ったらしい」
山越え……。
国境は越えられるが、オークなどの魔物に遭遇する確率が高くなる。
常人であればまず、そんな事は考えない。
まあ、竜に単身で襲いかかろうなどと考える時点で常人で無いのだが。
「途中で、オークの不穏な動きを見て引き返してきたらしい。
勇者みたいな人だね」
しかし、それではとてもでは無いが追えない。
流石に俺一人、フロウさんを追って山越えなど命を捨てに行くに等しい。無駄死にだ。
「その人を追うんですか?」
エリシャに問われ、首を横に振る。
ここで足止めを食っている以上、同じ道を追いかけても追いつけない。
「じゃ、ヒザマルちゃんも一度一緒にサゴラまで戻ろうか。
国境は完全に封鎖されただろうし」
「え? そうなの?」
「教会の司祭は賊に襲撃され殺された。
暫くこの一帯はピリピリすると思う」
「それと、国境に何の関係が?」
「賊が言ったんだよ。
俺達は雇われただけだ。
前金はブリズニツの金貨で支払われたって」
国境で接する隣国の金貨で……。
嘘か本当かわからないがその証言どおりならば、確かに国境は厳重に警備せざるを得ない。
「ま、もう手遅れだと思うけどね」
「何故ですか!?」
エリシャがフルグレイに掴みかかりそうな程の勢いで問い詰める。
「こんな面倒な手口を用意するような奴が、逃げ道を用意してませんでした。なんて考えられないだろ?」
エリシャを諭すようにフルグレイが言う。
それはそうだ。
「こんな面倒な事をしてまで、何がしたかったんだ?」
「正奇跡。聖ウォーザのサファイヤだろうね。狙いは」
「星輝石……」
俺が、一つ持っているこの石……。
「何故そこまでして?」
「強力な力を秘めた石だ。それこそ、国一つ破壊できるくらい」
「そんな事、させません!」
エリシャが、唇を噛みながら言う。
「いや、例えだよ。先走るなって」
「わかってます!」
わかってるのかな?
不安になるようなエリシャの態度。
かなりの美少年。
並んで歩きたくないタイプだ。
それより、俺のこの先。
「サラゴへ戻るしか無いか……」
「うん。そうしよう。で、エリシャも一緒に行くことになったから」
「え?」
「エリシャ・ヨウィスです。改めてよろしくお願いします」
ぴょこんと頭を下げるエリシャ。
「え? 何で?」
「まあ、道々説明するよ。
その為には、まず橋を直さないと。
ヒザマルちゃんも一晩ゆっくりと寝たんだから、しっかり手伝わないとね」
「あ、ああ」
男三人旅……か。
まあ、馬で一日だけど。
「そう言えば、ヒザマルちゃんさぁ、変な魔法使ってたね?
何? あれ」
「……代々家に伝わる秘術」
「ふーん」
そう言う事にしておこう。
「何か、謎が多いね」
一つ二つ謎がある方がモテる。
親父の言葉だ。
いや、親については俺も謎なんだけどな。
母親の顔は知らないし。
そもそも、モテない親父の子であるのかさえ伺わしい。
そして、その事実を知る者はもう誰も居ない。




