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「不義のバキエル」

「橋が落ちた!」


 礼拝堂から飛び出した俺にフルグレイが叫ぶ。


 川岸へと走り出したフルグレイに続き、そちらへ。


 川を覗き込んだフルグレイが咄嗟に後ろに仰け反る。

 直後に乾いた音が続く。

 スチーム銃!?


「やべ、野盗かな。ヒザマルちゃん、反対に二隻行った。

 エリシャ、門閉めろ!」


 上流を覗き見ながらフルグレイが指示を飛ばす。


 俺は踵を返し反対へ。

 エリシャと呼ばれた騎士が門を外から閉めるの横目に。


「中へ入れ!」


 そう怒鳴り、橋の崩壊した川岸へ。


 背後から大きな水音がした。

 フルグレイの魔法だろう。


 ◆


 この時、上流より迫っていたのは五隻に別れた野盗、十九人。


 左の岸でフルグレイが放った魔法により、うち一隻が大破し沈没する。

 魔法の直撃により二人即死したが、残る二名は咄嗟に川へ飛び込み死を免れ中州へと向かう。

 残る一隻へと狙いを付けるフルグレイだが、飛び来るスチーム銃の攻撃に一度引く決断をする。


 そして、一隻が着岸し乗員が岸へ乗り込もうとした所へ再度魔法を放つ。


 それは、地形を大きくえぐり四人を吹き飛ばした。


 これで左の脅威は水中の二名となる。

 二名は、護岸へ取り付き水と物陰に隠れながらフルグレイの様子を伺う。

 そこへ、反対より上陸し回り込んだ一名が合流する。


 左の岸は膠着状態となった。


 ◆


 岸から顔を出す。

 船が二隻着岸しようとして居る。


 俺にすぐさま銃口が向く。


 川岸の上は人が一人通れるかどうかの通路。

 そしてすぐに礼拝堂の壁がある。


 礼拝堂の建物の角へ身を隠す。

 敵が迫るタイミングは、音と影でわかる。

 刀を抜き、上段に構える。


 躊躇すればこっちが殺される。

 俺だけでなく、修道院の人も。


 近づく物音に精神を研ぎ澄ます。


 最初の一人が俺の前を通り過ぎた、そのタイミングで一息に刀を振り下ろす。

 頭を跳ね、そいつの胴体を川へ蹴落としながら身を踊らせる。


 事態の飲み込めて居ない二人目の喉元へ左手でナイフを押し込む。

 そのまま蹴り飛ばし後ろのやつにぶつける。


 二人目まとめて川へ落ちた。


 銃を向ける四人目。

 引き金を引かれるより前に、銃を左手で掴み刀を喉元へ埋める。

 スチーム銃の乾いた音をそいつの死体の陰でやり過ごしながら銃を奪い取り、下がりながら発砲する。

 後ろの奴の頭を捉えたが、殺したかどうか定かで無い。

 確認するより前に、礼拝堂の影へ退避する。


 静かに次を待つ。


 音が、遠くなる。


 おかしい。


 剣を抜き、壁から差し出す。


 銃弾が来ない。


 慎重に顔を出し、岸辺を覗く。


 そこには転がる死体が二つのみ。


 不味い!


 反対側までぐるりと陸続き。

 迂回されたか!


 振り返ると、エリシャが今まさに剣を抜き放ち、礼拝堂の中へと飛び掛らんとして居た。


 裏口から回ったか!?


 踵を返しそちらに。


 パンッと乾いた音。


 目の前で甲冑姿が弾き飛ばされる。


 礼拝堂の入り口に身を隠しながら仰向けに倒れた騎士の様子を伺う。

 血は流れて居ない。

 胸は上下して居る。


 生きてるな。

 甲冑を通す程の勢いは無い。

 安物の銃だ。

 奪い取った銃の弾を確認する。


 残り、一発。


 大して撃ってない筈だ。

 安物の武器。

 少ない銃弾。

 貧乏盗賊団が狙うにしては、金目の物が少なく、神殿騎士団が居るはずのこの場所はリスクが大きすぎないか?


 いや、それは誰か取っ捕まえて、騎士団なりが吐かせれば良い。

 ……生き残りが居れば、だが。


 俺は安物の銃に装弾する。

 逃げてなければ司祭がまだ中だ。


「おい、俺が飛び出したら逃げろ」


 そう、小声で騎士に声を掛け、そして銃の引き金に手を掛ける。


「うおぉぉぉぉ!」


 敢えて叫び声を上げながら礼拝堂の中へ。


 まず目に付いた男。

 聖者の像によじ登った男に銃口向け引き金を引く。

 そして、銃を投げ捨て刀を抜きながら走り込む。

 弾は当たった。

 もう一人、こちらに銃口を向ける。

 身を屈め、礼拝堂の椅子で姿を隠す。


 ……嫌な気配がした。


 銃で撃った、その男が血に濡れた手で石像からサファイアを引きちぎり、祭壇の上へと落下する。


 そして、その男の体が仰向けで脱力した手足を投げ出した姿のまま、宙に浮かぶ。

 その上に……青く光る宝石……。


 まるで宝石が引き上げる様に上へと。


 体から、細く赤い糸がその宝石と男を繋ぐ……いや、あれは……血を吸い取っているのか?


 そして、光が弾ける。


 目を開ける前に、頭蓋を揺さ振らんばかりの咆哮。


 目眩を感じる様な、全身が揺さぶられる振動の中、目を開けると……人影が二つ見えた。


 真っ白な……水死体の様な男。

 大きく裂けた口。

 不揃いな牙。

 下半身は蛸のような足が何本も生えている。

 その一本が……野盗の一人の首に巻き付き、その巨体を持ち上げていた。


 弛緩しきったその手足からは、既に事切れているのが明白で。


 そして、それをこちらに向け投げ付けて来る。


 後ろに飛び退く。


 おい!

 何だあれ!


『不義のバキエルじゃ無いかの』


 よく知ってんな!

 この前のと?


『同類じゃな』


 勝てるか?


『無理じゃね?』


 俺も、そう思う。


 ……陣中で死ぬこそ武士の本望。


 よし!


『だから、武士って何じゃよ』


 うっせ。


 覚悟を決め、立ち上がる。

 脱力。


 迫り来る触手。

 刀をすくい上げ合わせる。


 鈍い感触。

 斬れていない……。


 おい!

 名刀!?


 いや、腕が未熟なのだな。


 そのまま、左腕に巻きつかれる。


 引く力に抗いながら、刀を振り下ろす。


 辛うじて切り落とすが、勢いで後ろよろける。


 距離を詰めよう。


 一気に床を蹴り、更に並ぶ長椅子の背を蹴り跳躍。

 バキエルの上へ。


 落下の勢いを借りつつ振り下ろす!

 しかし、それはあっさりと空を切る。


「―――――(火よ、在れ)」


 左手を突き出し炎の魔法。

 小さな火球がバキエルに当たり、消える。


『効いてないの』


 構わず、間合いを詰め胴を狙い刀を振る。


 僅かに剣先が掠る。


 火は、呆気なく散った。

 打ち負けた。


 土の魔法は無いのか?


『あるぞ』


 教えろ。


 知らない言葉が頭に響く。

 意味は、だが、理解した。


 刀を振り、牽制しながら力を練る。

 ゆっくりと、確実に。


「―――――(地よ。在れ)」


 声と共に、バキエルの頭上へどさりと砂が落ちる。


 え、そんな感じ?


『こんな感じじゃ』


 予想外の魔法に、内心面食らいながらも体は止めずにバキエルの懐へ。


 面食らったのは向こうも同じか。

 一瞬動きを止めた砂まみれのそいつへ、力を込め下段から刀をすくい上げる。


 ――麒麟の太刀。


 刀はバキエルの脇から胸に掛け、深い傷を刻む。


 叫び声を上げ、飛び退くバキエル。


「んなっ!」


 そのまま壁へと張り付く。

 そこから天井へ。

 逆さになり、こちらをひと睨み。


 そのまま礼拝堂の入り口へ逃げの構え。


 長椅子を飛び越え追い掛ける。


 だが、奴の方が早い!

 バキエルが礼拝堂の入り口へ取り付き外へ逃げようとした、その瞬間だった。


紅蓮の火球(エルプティオ・ルベル)


 フルグレイの声、直後に爆音。

 吹き飛ばされたバキエルが前から迫る。


 それを迎える様に刀を振り下ろし、返す刀を振り上げる。


 ――秘剣・燕返し。


 それが、止めとなった。

 両断されたバキエルは、黒く光る玉へと収束し、そして、青いサファイアが残る。


 コツンと乾いた音を立て、床に落ちる。


 勝ったな。


 外でドヤ顔しているフルグレイと目を丸くしているエリシャ。


 落ちたサファイアを拾い上げる。


「―――――(抑え、包み込め)」


 一度残留思念がやって見せたのを真似する。


『ふむ。よく出来たな』


 だろ?


 小さな宝石を観察する。


 何の変哲もなさそうな宝石なのに。


『次が来……』


 その警告を理解する前に、全身を衝撃が貫いた。

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