ピス大聖堂
馬に揺られながら、川沿いを進む。
目的地は国境付近の町。
フルグレイも、国境付近の様子を見に行きたいと言うので同行することになった。
途中、ピス大聖堂と言う所に立ち寄り彼の知り合いに会うと言う。
そのまま司祭の許可が出ればそこで一泊。
そんな行程だ。
行先であるピス大聖堂についてフルグレイが解説をしてくれる。
「聖奇跡を起こしたと言われる、聖ウォーザが建立した聖堂。
川の中州に建つ由緒ある所だよ。
修道院もあって、五十人程が暮らしている」
「へー。知り合いは聖職の方ですか」
「ちょっと違う。彼らを守護する神殿騎士団たる天羊騎士団。その一人、らしい。
神殿騎士団になってから会うのは初めてなんだ」
「騎士か」
「そう。ついでに言うと、この国には二つ騎士団が存在する。
王家直属の王宮騎士団。通称金獅子団。
国の守りの要である、レーヴ騎士団。通称白獅子団。
この前、武器の密輸を企ててたのは白獅子団の方だね」
ふむ。
まあ、それくらいは知っている。
得意げに語るので口は挟まないが。
「白獅子団、金獅子団がこの国、そして王を守る存在であり、その勢力は国内に留まるのに対して天羊騎士団はピエンズ教の帰属するからその勢力は大陸全土に及んでいると言っても良い。
まあ、彼らは侵略行為をしないとされているからその事に危機感を覚える人なんて居ないだろうけど」
むしろ、積極的に人々の為に動いていると聞く。
この国の騎士団なんかよりずっと。
「あと、そうだな。
白獅子団、金獅子団が貴族の出じゃないとなれないのに対して、天羊騎士団は誰にでも門戸が開かれている。
ピエンズ教の信者ならば。
他所の国では、それこそ犯罪者だって信者なら受け入れるって所もある。
だから、ヒザマルちゃんも騎士になりたいならここだね」
「いや、別にそんなつもりは無いけど」
素っ気なく答えた俺の返答にフルグレイがニヤリと笑う。
「だよね。騎士なんて最早時代遅れ。
やっぱ魔道士。
つーことで魔道士ギルド入っちゃおうか」
「入らないって」
「今なら入会金、立て替えちゃうよ?」
「何でそこまで」
「いや、弟子取らないと最上位魔法を学ぶ権利がもらえないのよね。
最近、ホント入会者少なくて」
悪びれもなく言うフルグレイ。
「折角だから魔法についても聞いちゃう?」
「いや、それはまた今度にする」
「ちぇー。何でそんなにドライなんだよ」
女にもてるため。
親父の教えを守っているのだ。
その割にモテて無い気がするんだ。
『ババロにはモテてたじゃろ?』
いや、それはちょっと……。
◆
「あー、あれがピス大聖堂だよ」
川の下流に目的地が見えてきた。
それは川の中州にあり、両岸とを二本の石造りの橋が繋ぐ、そんな構造になっている。
周囲はぐるりと石垣に囲まれている。
そびえ立つ鐘塔の向こうに野焼きであろう、煙がたなびくのが見える。
のどかだな。
馬の背で、秋風を受けながらそんな風に思っていた。
その煙は、野焼きなどでは無く、そして、背後より危機が迫っているとは露知らず。
「あれ? 人が少ないかな?」
橋を渡り、中州の門をくぐったフルグレイが呟く。
通りを挟み、上流側に礼拝堂、下流側に居住区が置かれている。
居住区は人の頭より高い塀で囲まれ、木造りの門戸が開け放たれている。
その門の前に一人、甲冑を身にまとった人物が立っているだけ。
その人物が我々に気付き、走り寄ってくる。
「すいません。今、非常時でして……」
「やあ、エリシャじゃないか」
近寄ってきた、金髪を伸ばした少年へフルグレイが呑気な声で応答する。
「……フルグレイ兄さん!? どうしたんですか?」
「君がここにいると聞いて祝いに来たんだよ。それより何かあったの?」
馬から降り、手綱を引きながら尋ねる。
「下流の集落がオークに襲われていると、騎士団と神官様達が護衛に向かったんです」
「オークが? じゃ、あの煙は」
「ええ、おそらく」
野焼きでなく、魔物の襲来だったか。
「行ったほうが良いか?」
そう言った俺にフルグレイが、ニヤケ顔で答える。
「怪我して、彼らの手間を増やすだけじゃないか?」
そう言われ考える。
オークが人里を襲うことは数年に一度ある。
親父も一度、退治した事があると言っていた。
武装した魔物で好戦的。
その脅威はリザードマンより上だろう。
ただ、人の縄張りに紛れ込んでくるものは群れから追い出され孤立した存在だ。
神殿騎士が数人いれば対処には困らないだろう。
「そうだな」
フルグレイの言葉に同意を返し、俺も馬から降りる。
彼が、知り合いの騎士へ就任祝いだと言う剣を渡すのを尻目に、扉の開け放たれた礼拝堂へ。
夕日の差し込む祭壇の奥のステンドガラスがとても美しかった。
その前に聖ウォーザと呼ばれる聖人の像があった。
石造りのその像の中には、青いサファイヤの首飾りが掛けられている。
それは……輝きを失って……黒くくすんで見えた。
「ようこそ、いらっしゃいました」
静かな声を掛けられた。
穏やかな顔をした老女。格好から司祭だろう。
「美しいですね」
軽く頭を下げ、素直に感想を述べる。
「神の遣いをその身に降ろし、奇跡を行使した聖ウォーザです。
あの胸元のサファイヤは、その使いを降ろす為に用いられた、そう言われています」
何処かで聞いたような話だ。
『間違いない。星輝石じゃ』
へー。
じゃ、水晶もここに預ければ安全かな?
聖者の胸元にある青い石を見ながらそんな風に考える。
そこへ、突如、轟音と振動が襲う。
続けて、二度。
よろめいて床に座り込んだ司祭が無事な事を確認し、俺は外へと走り出した。




