勇者の影を追って
結局ベルソーには五日程の滞在した。
その間にいくつか仕事をしたが、ほぼ全て滞在費に消えた。
そして、俺は歩きで王都レグラスへと向かう事にした。
そこから更に西へ行くと言うフルグレイと二人で。
マーリーは暫くベルソーに留まり、また南へ戻ると言っていた。
「移動したら必ずギルドに所在報告するんだよ!」
「わかったよ」
そう、口酸っぱく言われ。
そして、最後に熱い抱擁をされ。
更に、「浮気しないでね」などと耳元で囁かれ。
俺は、お前の彼氏では無い。
◆
「所在報告したところで他人には居場所は絶対に教えないもんなんだけどね」
「へー」
「ギルド職員が指名以外で使う事は禁止されてるからね。
まあ、ゴールド以上は義務なんだけど」
ふむ。
ギルドとしては何処に強者が滞在して居るか把握しておきたい訳か。
「あと、例外は保証人か」
「あー……」
「ん?」
「俺の保証人、マーリー」
「はっはっは、それは仲の良い事で」
一瞬キョトンとした後、盛大に笑うフルグレイ。
うーん。
何か、変なのに懐かれた。
何でだろう。
◆
他の国を見て回って来たと言うフルグレイの話を聞きながら、王都レグラスへ着いたのはそれから七日後。
町の中心に王宮があるレーヴ王国の中心地。
ギルドで所在報告をして、ついでに受けた配達の荷物を届ける。
依頼をこなした事で、ギルドのランクが上がった。
ついでなので、解析の間で能力もチェック。
ヒザマル・ソラーレ レーヴ王国所属
ギルドランク:スチール
戦力ランク:ブロンズ
<身体能力> 腕力:19 理力:12 素早:17 体力:15
<所持技能> 剣:2 曲刀:4 ナイフ:2 馬術:2
<特記事項> 呪い 鱗竜語
お。
戦力ランクがスチール+から、ブロンズ−を一つ飛び越えて一気にブロンズになったぞ。
「あら、すごいですね。
余程、強い魔物でも倒しましたか?」
「そうかも」
「スチールなら、西に行けば傭兵としては国境警備の仕事がありますよ。
食事と寝床付きです」
「そうか。
ちょっと考えておきます」
国境警備か。
飯付きは魅力だけど。
◆
「いらっしゃーい。……あれ!? ヒザマル!?」
「久しぶり」
綺麗になったな。
『そう言うのは声に出して言った方が良いぞ?』
うるさい。
「五年振りくらい? 生きてたんだ。
ちょっと待って。お父さん呼んでくる」
そう言って武器屋の看板娘に成長した顔馴染みは奥へと消えて行った。
うん。
立派に成長したな。
特に胸が。
しばし、店に並ぶ剣を眺めて待つ。
「おー、ヒザマルか!」
「ご無沙汰してます」
「ヒゲキリは元気か?」
「二年前に死にました」
「……そうか。それはすまない」
王都レグラスにある、親父が懇意にしていた武器屋。
昔は良く親父について来て看板娘と遊んでいた。
「お前も冒険者か?」
「ええ。まだまだ駆け出しですけど」
「そうか。死なないように気をつけるんだな」
「ええ」
しばし、遠い目をする。
「武器はちゃんと手入れしてるか?」
「ええ。教わった通りに」
「そんじゃ、そいつで稼いでもっと良い武器を買うんだな」
相変わらず、商売っ気が薄い。
「親父さん。
フロウって人、知りませんか?
探してます」
フロウさんは、ここの職人が作った剣を持って居た。
飾りが無く無骨だけれど、武器としては確かな品。
残念ながら竜退治の時に折れてしまったが。
あの人なら、もう一度ここの剣を求めて訪れるだろう。
そう思ったのだ。
「……探してどうする?」
「仲間にでもしてもらおうかな」
探るような目つきで俺を見る。
「……西へ行く。そう言ってた。十日ほど前だ」
「西へ? 国境警備かな?」
「いや。その先へ行くつもりらしい」
その先。
隣国。
だが、西国への街道は国境で封鎖されている。
正当な理由が無ければ通れない筈。
街道を外れるのは危険が多いが、あの人ならばそれを苦にはしないだろうか。
ともあれ、手がかりは見つかった。
「追いかけて見ます」
「気をつけろよ」
「はい」
「それでな、お前に渡す物がある」
そう言って、親父さんは奥から鎖帷子を持って来た。
「これは?」
「ヒゲキリが預けて行ったもんだ。
いい加減、邪魔だから持って行け」
本当だろうか。
「わかりました」
「ついでに調整するから着てみろ」
「はい」
◆
『可愛かったな』
そうだな……。
看板娘……子連れだった。
そりゃ、巨乳にもなるよ。
月日の流れは残酷だ。
「ヒザマルと結婚する!」って言ってなかったっけ?
鎧を調整して居る時に嬉しそうに見せに来た。
あれは、将来美人になるな。うん。
その武器屋の親父、いや、お爺ちゃんに渡された鎧は軽量で丈夫。
良い品だ。
流石に甲冑で歩き旅とは行かないが、これくらいの守りは必要だろう。
あの堕天使にも脇腹を抉られたし。
ついでに、その時のリザードマン達からお礼として貰った宝石類を引き取って貰った。
遺跡の中から見つけ出した品らしい。
金貨三枚。
当面の旅の資金には余裕が出来た。
ただ、あの水晶だけは手元に残してある。
『海にでも沈めた方が良い。
それか、人の手の届かぬところ、そう、竜の巣にでも持って行くんじゃな』
夕日の沈む海に向かって全力で投げてやる!
◆
「国境越えか。難しいだろうね」
夕食を食べながらフルグレイとこの先の相談をする。
「やっぱり……」
「多分、その人も国境の町で足止めを食って居ると思う」
ならそこで会えるかな?
そこでしばし考える。
「急げば、追いつく……か」
ここから西へももちろん蒸気機関車の路線がある。
国境までは行かないが、途中の都市まで繋がり、そして、そこで南下して港町まで繋がって居る。
その途中の町サゴラまでおよそ金貨一枚。
「サゴラまで、蒸気機関に乗ろう」
折角だし。
「お、良いね。ついでに僕も家に顔を出して来よう」
「サゴラの出身?」
「いや。でも、親父とママンが住んでいる」
本人は謙遜して居るが、実はそれなりに良い所の出らしいフルグレイ。
父親はかつて王宮で宮廷魔導師をしていたとか。
いまは、隠居して好き勝手にして居るらしい。
道々、聞いた彼の身の上。
士官学校を出た後、魔法の修行と称してあちこち巡っていたらしい。
つまり、ボンボンな訳だ。
◆
「ほら。弁当だよ」
「ありがとう」
ガキの頃から知って居る宿屋の女将に弁当を作ってもらう。
折角だから、機関車の中で食べようと思った。
「言われた通りに色々詰めたけど揺れてグチャグチャにならないかい?」
「機関車の中で食べようと思ってさ」
「へー、機関車か。私もそんな贅沢をして見たいよ」
「娘夫婦に任せてのんびりしたら良いんじゃない?」
久しぶりに会った宿屋の娘も看板娘に成長し、人妻になって居た……。
「ヒザマルと結婚する」って言ってなかったっけ?
「気をつけてね。また顔出しな」
「うん。女将さんも元気で」
◆
この後、宿屋が売り出した機関車客向けの弁当は、名物となる。
忙しくて旅になんか出る暇ないよと、女将は嬉しそうにぼやく事になる。




