いってきます
そうこうしてる内に一週間が過ぎました。
持っていくものは最低限の服だけ出そうな。
あーーあ。
何されるのかなぁ、一番のべっぴんを要求されてる辺り…やっぱりそういう…??
けど美人だったらこんないもくさい田舎じゃなくてもっと他にあっただろうに。
ボーッと考えていたら、村長さんから声をかけられた。
「メアリちゃん、無理しないようにね」
無理させてるのはどっちだよ、と心のなかで悪態をつく。
「…はい、ありがとうございます…」
掠れそうな声で、それでもなんとか笑顔を見せる。
メアリ、というのは私の名前。
幼い頃に亡くなった母親がつけてくれた名前。
母親にメアリ、と笑顔で呼ばれるのが好きだった。
…そういえば、幼いとき…4、5歳くらいのときに年上の男の子に…メアリちゃんって呼ばれてたのも好きだったな。
顔も、名前も、全然覚えてないけど…
この村に住んでて、遊んでもらって…
懐かしい。
いつのまにか、村をでていってたんだよね。
しばらく悲しくて、悲しくて大変だったな
「メアリちゃん、そろそろ…行くよ」
「…はい」
用意されていた馬車に乗り込む。
私は少しでも、とキラッキラのドレスを着ている。
ちらり、と村を見ると涙してる人がいた。
私のために涙を流してくれているの…?
そう思うとなぜだか嬉しくて、笑みがこぼれる。
おかしいよね、こんなときに笑っちゃうなんて…
「今までありがとうございました。行ってきますね」
一番の笑顔でそう言った。
「!!!?メアリちゃんはあんなに素敵な笑顔だったのか!!?」「ああああ…惚れました。行かないで…」「魔王様に可愛がってもらうんだよ…」「メ、メ、メ、メアリちゃん…ッッッ!!!!!!」
ガタガタ、ガタガタと馬車が私をゆらす。
「あの、その魔王様…のお城?ってどれくらいでつくんですか…?」
「この山を登らにゃならんから…あと二時間くらいかねぇ」
に、にじかん!!
しんどいぞぉ………
「…メアリちゃん」
「っ、はい?なんでしょう…?」
「……………ッ、うっ」
え、なに村長さんどうしちゃったの…!?
怖い怖い怖い…
「え、っと?」
「っぐ、ごめ…んね、っ…ほんとに…」
見ると村長さんは泣いていた。
「だ、大丈夫ですよ!!!?気にしないでください…!」
罪悪感でいっぱいなのかな。
そんなの言ったら私だってドレスひるがえして走って帰りたいよ。
「ほんとかい…?あんたのお母さんからメアリちゃんを守るよう言われてたのに…情けない…。ほんとにごめんな…。」
私が言いって言ったらいいんだよ!!!!!!
まぁそんなこと言えるわけもなく。
けどお母さんがそんなことを…?
なんだか嬉しい。
「その気持ちがあるんだったらいいですよ。これからも村長さんはいつもの生活を送ってください。けど……たまには、私のことを思い出してくれると…嬉しい、です」
私ちょー優等生じゃんか…。
「ッッッ!!!!!!メアリちゃん!!!!!!」
うおおおおおおおーーーーん、と村長さん号泣しちゃったよ…
落ち着いてくださいーーーーー!!!
そんなこんなでいつのまにか山のてっぺん。
「メアリちゃん、気を付けてね…」
「はい。今までありがとうございました…。皆さんに、よろしく伝えていてください…」
正直怖い。
震えが止まらない。
どんな人なの、なにされるの。
底知れない恐怖が私を襲う。
でも、行かなきゃ始まらないから…
私はお城のドアを叩くよ。
「では、いってまいります。さようなら、村長さん」
皆さん、私は今、生け贄となります。