第一章 第5話「ウィルスマーカー」
俺たちは食堂で昼食をとっていた。
「朝、隊員は任務で全員出払ってるって言ってたけどほんとに誰もいないね」
ハヅキの言うとおり今、食堂には俺たち5人と食堂のおばちゃんしかいない。
「一応、第3支部は“最前線”だから人がいないのは日常なんじゃない?」
ダイチの言うように第3支部は最前線と呼ばれている。“サブサイド”は主に世界狂騒の発生件数が多い所に支部を構えているのだが、その中で週5回以上発生しているところが“最前線”、週4〜2が“前線”、週1回以下が“銃後”と呼ばれている。
今は、第1〜4支部の4支部が最前線となっている。最近、第5支部での発生件数が増加傾向にあり、前線から最前線になりそうならしい。
そして、最前線に近づけば近づくほど少数精鋭の形をとっている。
その1つの理由として、「人が増えすぎると連携が取りづらくなり死者がでるから」らしい。
しかし、最近は世界狂騒の発生件数が増え“サブサイド”全体の人数の底上げを図っているようだが。
「ここの隊員は俺たち含め18人って言ってたな。」
「「そうだっけ?」」
と話を聞いてなかった2人が声を揃える。
「お前らもうちょっと人の話を聞けよ…」
そんな話をしていると、食堂のドアが開いた。
「あら?見ない顔ね。あっそういえば今日、新人配属だっけ。」
その女性は薄紫色の髪にポニーテール、メガネをかけていて体型はスラッとしている。
見た感じは優しそうなお姉さんだ。
「いっしょに昼食いいかしら?」
「ぜひ!隣どうぞ」
とハヅキが隣の椅子を引く。
「ありがとう、えっと…光丘ハヅキさん?」
「そっそうです!なんで知ってるんですか?」
「あなたたち新人の資料は隊員全員に配られてるもの、隊員の数を少ないし、それに私記憶力いい方だしね。
あなたが麗未アオイさん、その隣が発花ショウスケくん、で向かいのあなたが月永ヒロトくんでしょ?」
と残りの4人の名前も当ててみせた。
俺たちの名前、しかもフルネームを覚えてくれてるのは素直に嬉しい。
「さすがです」
「そんな褒められるようなことじゃないわよ。じゃあ私も名乗りましょうか、私は“清水メグミ”一応隊員だけど隊には属してなくて1人で世界狂騒の調査を主にしてるわ。気術は“ウィルスマーカー”、聞いたことあると思うけど能力は植物に溜まっている気力のコントロールができるわ。」
“ウィルスマーカー”、もちろん聞いたことはある。最前線の支部には必ず1人は所属している気術者だ。植物に溜まっている気力のコントロール、つまり解消して自然の怒りの発生を抑えたり、逆に自然の怒りを発生させるまで気力を付与することもできる。
その気力を付与する技術はそうとう高度な技術らしく使える人間はごく少数らしいが。
ハヅキが会話を続ける。
「任務から帰ってきたんですか?」
「そうよ、今回は東にある森に泊りがけで調査に行ってきたの。そしてなんと、世界狂騒の謎に迫れるかもしれないような収穫があったの。」
「え!?」
「なにがあったんですか!?」
「どうせ、みんなに展開するでしょうしあなたたちには先に話しましょうか。」
もしかしたら世界を救うカギになるかもしれないものを聞くのだ、楽しみでしょうがない。
「“世界渡航者”は知ってるわね、森を通ってる川の河原でそれが通ったかもしれないゲートらしきものを見つけたの。」
「な!?!?」
「まぁ…私が見つけた時にはそのゲートは閉じかけていて、調べる前に閉じちゃったんだけどね…それでもほんの少しだけ映像が撮れたから分析すれば何かわかるはずよ。」
メグミさんが話してくれたものは思っていたより衝撃の内容だった。
“世界渡航者”、別の世界からやってきたと言う彼らは5年前から世間に認知されはじめた。
はじめは10年前、俺は別の世界から来たなどと発狂している人だった。その人は警察に保護されて、頭のおかしいやつもいるもんだ、程度であまり話題にはならなかったが、ある事件で昔話のように本当に別世界があるんじゃないかと世界的に話題となった。
その事件、それが5年前にあったテレビの生中継中に通行人が車に轢かれるという事件だったのだが、なんと轢かれた人が光の粒子のようになって消えたのだ、皆の見ているまさに目の前で。さらに調査により、その被害者は他の通行人に「ここはどこですか?」や聞いたことのない地名の場所を聞いて回っていたらしいということが分かった。
そして、古い文献や伝承、事件の映像などから研究者達は別世界がある可能性を説き、世界中に発信した。
そして1年後、国は別世界はあるものとし、そしてその別世界からやってきた人間を世界を渡り歩く者という意味で“世界渡航者”と名付け、自然の怒りとともに世界狂騒と呼んだ。
そして、その世界渡航者が通ったとおぼしきゲートを見つけたとあっては世界渡航者の発生する原因を掴めるかもしれない。いくら年に1人確認されるかされないかぐらいの発生件数だとしても、世界の問題がひとつ解決するのだ、お祭り騒ぎどころの騒ぎじゃない。
「そ、それはかなりやばいことなのでは?」
声が震える。
「そうよ、かなりすごいことよ…けどそれについて少し気になることがあるの…そのゲートらしきものから人が出てきた形跡がなかったのよ、足跡、落し物、気配、何もなかったの、だから“かもしれない”って言ったのよ。」
なるほど、そのゲートは異変であることに間違いないが世界渡航者が通ったゲートかどうかは分からないのか。だが、それでも可能性は大いにあるだろう。
「さて、昼食も食べたし、世紀の大発見になるかもしれないこの成果を報告してくるわ!」
「はい!結果待ってます!」
彼女を見送った後俺たちも食堂を後にした。
◇◇◇
昼食から30分後、俺たちは第1訓練所に集まっていた。
「昼からは何するんだろ?」
「また戦闘訓練みたいなのするのかな、今度は私もできればいいんだけど。」
そんな会話を聞きながらふと窓の外に見える第3訓練所の方を見た俺は目を疑う。
「…自然の怒り?」
そう、今まさに第3訓練所と都市の間で自然の怒りが発生していたのだ、大きな体を青とも緑とも言い難い色の気力が形成していく。その瞬間、第3支部にサイレンが鳴り響く。
「え!?」「何!?」「どうした!」「なっなんのサイレン!?」
スピーカーから北潟司令長の声が響く。
〈緊急事態発生!南方の都市から1km付近に大型の自然の怒りが2体発生!支部内にいる隊員は至急向かわれたし!〉
「自然の怒り…こんな都市の近くに発生したんですか!?」
「しかも大型が2体だそうだ」
「それっておかしくない?普通こんなところに発生しないよ?」
「ああ、変だね」
そう、自然の怒りがこんなところに発生するのは超極稀だ、なぜなら都市の周囲5kmは森林がなく、都市内の植物には気力を溜め込まない特殊な品種しか植えておらず、今のように都市近くに大型がしかも2体も発生するのはありえないに近い。
訓練所の扉が勢いよく開き郷田隊長が現れた。
「全員いるな!今出動できるのは俺たちしかいない、出るぞ!」
「はい!」
そして俺たちは初任務へと出動した。
ファントムブレイヴを見ていただきありがとうございます!
少し忙しい日が続いて投稿が空いてしまいました。もう少しこういう趣味に時間を割きたいのですが…
そんな話はさておき今回は世界渡航者に触れましたね、自分で考えておいてあれなのですが、世界渡航者は設定全般かなりややこしいのです。
上手く伝わるように努力はしているつもりなのですが…
世界渡航者は大事な要素なので、またしっかり触れる機会に…
あとメグミちゃんは特徴的な性格にしようと思ってましたが気づいたら優しいお姉さんになっちゃってました、こういうのは作者の性格が出るんでしょうね…
ではではまた次回でお会いしましょ〜