第六章 第25話「駒」
前回のファントムブレイヴ
田淵ソーマの放った太陽のような気弾に対し雷殿リョウは巨大な龍巻を起こす。それを止めようとするソーマだったが簡単に龍巻に呑み込まれてしまう。龍巻は気弾を削り切りソーマは倒れる。雷殿リョウは倒れたその姿に「馬鹿野郎」と吐き捨て勝利を宣言した。
一方、主様は待機させていたリョウマをハヅキのいる場所へ送り込む。そして「内側からも動いてもらうか」と言葉を漏らす…
麗未アオイは気がつくとサブサイド第2支部の前に立っていた。
「ここは…第2支部?飛ばされたの?…」
あたしは周りを確認しながらとりあえず中へ入ろうとする。
「あら…気配がすると思えばアオイじゃない」
建物の上、岩の蛇の上に立っている少女が話しかけてくる。
「リサ、それにメデューサ」
「どうやってここへ?私とメデューサちゃん、それにタロースちゃんの監視があったのに気付けないなんて…というか何しにここへ?各支部に厳戒態勢の令が出てるはずでしょ?」
「それが…」
「待って、話すなら中で支部長達として、連絡は今しておくから」
「わかった、ありがと」
あたしは第2支部建物内に入る。すると奥から1人の男性が現れた。
「どうも、初めましてだね。僕は第2支部第2隊隊長の金澤ケント、お見知り置きを」
「初めまして!第3支部第4隊麗未アオイです」
「こっちへ」と案内され廊下を歩く。
「知ってるよ、失った気憶保持者だけの隊でしょ?有名だよ、ただでさえ少ないのに一気に5人、うちのリサを入れたら6人同世代にいるわけだもんね」
「たまたまですよ…」
「羨ましい限りだ…僕にもそんな力があったらなって思うよ…」
「そう…ですか?」
見た目は普通の人、少し前を歩いていることもあるかもしれないけど全くこちらを向かずに喋るところにほんの少しの不気味さを覚える。
「ここだよ」
と扉を開けるとそこにはベットに腰掛ける第2支部支部長“来栖カズサ”がいた。
「お久しぶりです!来栖支部長!」
「久しぶりだね…さっそくだが話を聞かせてほしい…ゴホッ!」
「支部長、緊急時以外は横になっててくださいと言ったでしょう。それが支部長がここにいられる条件なんですから」
知っている、この人はそういう人だ…“避難したほうが”と言葉が出そうになったが、恐らくこの人はここが焼け野原だろうと動かない…
「先刻、主様が第3支部に現れました…」
事の経緯を2人に話す。
だがその途中…聞き覚えのあるサイレンが支部内に響き渡る。
「これは…!!」
「自然の怒りか!こんな時に!」
〈金澤隊長!〉
金澤隊長の待つ無線からリサの声が聞こえる。
「どうした!」
〈3時の方向!あの丘の上に巨大な自然の怒りらしき影を確認!こちらを向いているように見えます!〉
「…対処するしかあるまい」
来栖支部長が静かにそういう。
「はい…リサ、対象はその影だけか?」
〈いや…タロースとメデューサが街側の方に無数の反応を感知…通常級のものが大量に発生している可能性があります〉
「わかった、そっちは第1、第2で確認しよう、丘の上の自然の怒りを一旦頼めるか?街側の状況を見てすぐに応援を出す」
〈了解!〉
あたしはすぐさま金澤さんに申し出る。
「金澤さんあたしを使ってください!丘の上の自然の怒り、あたしも向かいます」
「しかし…」
「いいだろう…私が許可する。こんな時だ、できるだけ被害を抑える可能性が高い方法を取りたい」
「ありがとうございます!」
あたしはバッと礼をして部屋から飛び出し、すでに向かったであろうリサを追いかけた。
◇◇◇
「では、僕も街へ向かいます。支部長はご安静に」
「あぁ、頼んだ」
金澤ケントは棚から点滴のパックを取り出し、取り替える。
「点滴だけ替えていきます、何かあればすぐにご連絡を」
そう言って部屋を後にする。
「…第3支部の小娘が現れて少し焦ったが、任務完了…来栖カズサ、ほぼ虫の息だったが持っている力はとんでもないからな、ここで死んでもらうよ…あの点滴でゆっくりと永遠の眠りへ」
金澤ケントは、第2支部第2隊隊長でありながら主様がサブサイド内に作った手下の1人だった。
「これで、僕にも力が…」
金澤ケントは強さや頭脳で隊長になったタイプではなかった、20代から10年近く隊員として仕事をし、可もなく不可もなく過ごし、結果人手も少なかったこともあり年功序列で隊長になった。
そんな凡人である自分に力をくれると主様に言われた金澤ケントはすがるように手を伸ばした…
「さて、今向かった小娘を追ってもいいが、あっちはあっちがなんとかするだろう。主様から内側からも動く指示がもうすぐ出るはず、このまま待つか…」
金澤ケントはそのまま第2支部を出る。
「自然の怒りを放ったやつがいるはず、そいつを探して指示を仰ごう」
「その必要はないよ」
「!?」
金澤ケントの真後ろに降り立つ人影。
「任務ご苦労、そして」
「……っ!!」
「ようこそ…僕」
その人影は有無を言わさず、刃で心臓を貫いた。
「な…んで…その……声…」
「君は僕で僕は君だからね、金澤ケント。全く、君がサブサイドに入ってた上にほいほいサブサイドを裏切るもんだから僕の淘汰が遅れてずっとヒヤヒヤしてたよ」
刺された金澤ケントはドサリと倒れる。
「あぐ……」
「いいか?主様は“裏切り”が一番嫌いなんだ。裏切ってほいほい付いてきた君はただの駒なんだ…ただ、これで本当に来栖カズサが死ぬのなら良い働きだよ、流石僕だ」
「…くそ……」
金澤ケントは徐々に光の粒子になり、吸収されていく。薄れていく意識の中、褒められたのはいつぶりだろうと走馬灯が脳内を走る…久しぶりに褒められたと思ったら自分にかよ…それは声に出せぬまま意識がプツリと切れた…
「僕は遺産が発現するといいけど…とりあえず放った“次元獣”の様子を見に戻るか」
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ではまた次回でお会いしましょう〜