第六章 第23話「天才」
前回のファントムブレイヴ
ヤマトは自分より遥かに強い側近と呼ばれる人間がいると告げる。ダイチはそれを聞き1人、戦々恐々とするのだった。
サブサイド本部では、主様側近・青木ヨシタカが現れ、たった1人で本部をほぼ壊滅させていた。ヨシタカはまた次の場所へと姿を消す。
場面は変わり、第1支部で1人、敵を待っていた雷殿リョウ。そこに、主様側近の田淵ソーマが現れる。2人は互いの力を確かめ合うように技をぶつける。「止めてみろ」と雷殿リョウが大技を放つ…
空から落ちてくる巨大な氷の塊、ソーマはそれを見て一時驚愕したが、カッと笑う。
「良いっ!!俺が求めていた強さだ!!」
ソーマは両手で気力を濃縮していく。
「気砲!」
放たれた気力の大砲はその氷を貫いた、そして、その氷の塊は貫かれたところから粉々になっていく。
「最強はこんなもんか!?もっとだ!もっと俺を押し上げてくれ!」
「戦闘狂が…」
「気拳!」
ソーマは拳に気力を纏い、雷殿リョウへ突っ込んでいく。
「近接はどうする!?」
雷殿リョウは星の気力の綻びを掴みながら、姿勢を低くし、右手を下、左手を上に掲げる。
「神颪」
上空、風が塊となり降りてくる。
「これを見て人はこれを風だと思わない。なぜなら人の目にその動きが見えるからだ」
「!!?」
風とソーマがぶつかる、ゴッとおおよそ風と人がぶつかって出る音ではない鈍い音とともにソーマは地面へ叩きつけられる。
「これしきっ…!」
ソーマは体の気力を弾けさせ風を消し去る。
「おい!お前!」
雷殿リョウはビシッとソーマを指差す。
「さっきから聞いていれば“気槍”だの“気砲”だのと…センスが無い!!」
「あぁ??」
「漢なら…カッコをつけろ…!!」
「…くだらねぇ、それでどうなる?それで何かの役に立つのか?救えるのか?」
ソーマは急に冷めた顔になり、巨大な気弾を作り出す。
「必要なのは強さだ、圧倒的ななぁ…!」
巨大な気弾はどんどんと大きくなりまるで太陽のようになっていく
「役に立たねぇだと?何を見当違いなことを抜かしてんだ。カッコつけるのは自分の為だ、俺は己が為にカッコをつける、そして、カッコをつけるからこそ戦える。人の為じゃない、まずは自分のために俺は力を使う。」
「何意味の分からないことを抜かしてんだぁ!!」
巨大な気弾が小さくなっていきおおよそバスケットボールほどになる。
「破球」
極限まで濃縮され今にも弾け飛びそうなその気弾、着弾すればどれほどの威力持っているか計り知れないそれをソーマは濃縮が崩れないようゆっくりと放つ。
「俺は守れなかった、家族も仲間も…もう誰も失わないために俺は最強になる、お前を倒し、まずこの世界での最強を証明する…!」
それを聞き、雷殿リョウは腕を組み深く息を吸う。
「喝ッッッッ!!!!」
その雄叫びと同時に視界が一瞬真っ白になるほどの雷が気弾に落ち、轟音とともに消し去った。
「ッ!?」
「お前は何をしたいんだ?大切なものを守りたいのか?最強になりたいのか?」
「あぁ?」
「“守りたいから最強になる”これは辻褄が合わない!なぜなら“最強になる”と豪語する者は守りたいものを守れようが守れまいが最強を目指すからだ!そして最強とは、終わりがない!“守りたい”という目的に到達できない!過去何があったかなど知らないが、つまりお前は“ただ最強になりたい”だけの独り善がりなんだよ…!」
「なんだと…!!」
「そしてさらに言うならば“最強”とは自分が決めるものではない、他からの評価だ!最強だのなんだのと他人に自分の機嫌を取ってもらおうとするな!自分の機嫌は自分で取るんだよ、そのためにカッコをつけろ!」
「べらべらと喋ったと思えば!何も知らないお前が俺を否定するな!!」
「確かに、方便を垂れすぎたかもしれないな…お前は若い頃の俺に似ている、出会って数分だが懐かしさすら感じたよ。お前はこの先俺の言った言葉の意味が分かるようになる、“最強”にはなれないこともな…」
「俺に説教を垂れるな…!」
ゴポゴポとソーマの体から気力が溢れ出してくる。そしてその気力を体に纏う。
「“麒麟”…これでお前を殺す…!!」
「上には上がいる、どうしようもなくな…ここで教えてやる。そしてもう一度言う、俺は最強じゃない、最強にはなれない…故に俺は“天才”なんだ…!」
ソーマが一瞬、雷殿リョウの視界から消える。次に現れたかと思えばすでに拳を振るっていた。
雷殿リョウは腕でそれを受ける、がそのまま吹き飛ばされる。
「全身が気力の塊か」
雷殿リョウはチラリと後ろを見て、街が近い…と吹き飛ぶ体を無理矢理制止させる。追ってくるソーマを引きつけ、風を吹かせた。
「疾風」
風に乗る、さっきとは逆方向へ流れるように移動して行った。
「破球・粉塵」
米粒ほどに濃縮された気弾が雷殿リョウの向かう方向に撒かれていた。近くを通った瞬間にそれらが小爆発を起こす。
「くっ!?」
「オラァ!!」
止まらない爆発、その中へソーマは関係なく突っ込み拳を放った。
雷殿リョウは叩き落とされながらも、風をクッションにしそのまま風に乗り移動する。
「もうここは俺のテリトリー、どこへ行こうが何をしようが気力の餌食になる」
風に乗り移動するが、行く先行く先で爆発が起こる。
「バカみてぇな気力の割にやることはセコイんだな」
「言ってくれる…ではお前と同じことをしよう」
雲に覆われた空、その奥に大きな影が見える。
「おいおいおい…」
隙間からチラリとその一部が覗く。
「星落とし・太陽…!!」
「ふっ…」と雷殿リョウは笑う。
「いい趣味をしてる、俺の技を真似るか…そして自ら最悪の敗北のステージを用意していることに気付いてねぇのか?」
“太陽が落ちてきた”…街の人々は皆そう思った。呆然と立ち尽くす人、逃げ始める人、事態に気付かずまた眠ったままの人…街が混沌と化していく中、雷殿リョウはその太陽の下で1人ビシッとポーズを決めていた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜