第六章 第17話「特例」
前回のファントムブレイヴ
“特異点”とはなんなのかチップが話し始める、その中でハヅキは世界の理の一端を知ることとなる。ハヅキは覚悟を決め遺跡の扉の奥へ入ろうとするが、扉は開かなかった…
その理由としてチップはハヅキが妊娠しているのではないかと疑いをかける…
突然の発覚、だんだんと心臓の音が早くなる。
「あなたが妊娠しているのなら説明はつく、1つの体に2つの魂、だから扉は開かない」
「そっそんな…」
「予想外ね…どうすれば…」
チップさんは焦った顔でそう言って黙り込む。
どうすればいいか…単純に想像できるのは1つ…だがそれは私もチップさんも言わない、いや言えない。
「…まず、本当に私は妊娠してるの?その可能性が高いだけで他に何かあるんじゃ」
「そっそうね、どうにか私の力だけで調べられるかしら…」
「調べずとも結果は出ているだろう、チップ」
突然聞こえたその声にピタリとチップさんの動きが止まる。
「犬神様…!」
「いくらお前でも別の人間の魂が取り憑いていたら感知できるだろう?お前が感知できない微弱な魂の波動、それは確実にこの娘の中にある」
「ほんとに…私…」
「これから酷なことを言うが許せ娘よ」
そう言いながらふよふよと浮いている犬神様がこちらの顔を覗き込む。
「お前の特異点の力は必ず必要になる、故にこの奥には入ってもらわなければならない。そこでそのお腹の子の魂を我が預かる」
「魂を預かる…?」
「人間には魂のエネルギーが必要不可欠、魂を抜けば成長途中のその子の肉体は通常、崩壊する」
「!!」
全身に鳥肌が立つ、肉体が崩壊する…私は感じたことのない不安感を覚える。
「だが、母の子宮の中という最も適切な環境に置き、かつ我が術をかければ、成長は一度止まるが崩壊もせずただ魂が戻るのを待つ肉体の状態を作り出せる。娘よこれを許容できるか?」
「…最終的に…この子はどうなるの?」
「我が魂を戻せばまた成長を始める、異常やましてや死ぬことはないと、この犬神が保証しよう」
「分かった、じゃあ…」
と言いかけたところでチップさんが割って入る。
「ちょっと待って、犬神様…なぜそこまでその子どもを生かそうとするんですか?神の器以外の人間の生死に直接関わるようなことは禁忌のはずじゃあ…」
「特例だ、この状況の上この子は“特異点と神の器の子”…世界的に見ても生かすべき人間と判断した。問題があるか?チップよ」
「特異点と神の器の…?」
「えっなんで知って…」
思わず私は犬神様を怪訝そうな顔で見てしまう。
「逆に聞くがなぜ知らぬと思ったのだ」
犬神様は呆れたような顔をする。
「待って!?その子どもって月永ヒロトとの子なの!?」
チップさんが驚いて私と私のお腹を交互に見ながら言う。
「…だって、それ以外の人と…し、してない…し」
「おい、無駄話をしている時間はない。我もあまりここにらいられぬ、気絶している小僧のもとへ戻らなければならんからな」
「え?気絶?」
私は気絶というワードに少しざわつく。
「確かに犬神様がここにいるのはどうして?月永ヒロトと一緒のはずでは」
「今お前達が心配する話ではない、それよりも術を終わらせ娘が特異点の力を得ることの方が先だ」
私は思わずお腹に手を当てる。
「娘よ、先ほど言いかけていたが許容できるということで良いな?」
「…うん、犬神様が保証してくれるなら…それにこれ以上赤ちゃんがいる、その実感が強まる前にやらないと…私が許容できなくなると思う」
犬神様が私のお腹に顔を近づけ、ふっと息をかける。その瞬間少し違和感を覚えたかと思うとお腹からろうそくの火ほどの光が出てきた。
「これが魂…?」
「そうだ、間違っても触れるな。不安定な魂はたとえ母ともいえど外的刺激ですぐに崩壊する」
思わず手を伸ばしそうになっていた私は少し開いた手をグッと握る。
すると犬神様は出てきた魂をスゥっと吸い込んだ。
「えっ!食べ…!」
「人聞きの悪いことを言うな、我の魂内…それがこの世界で最も安全な場所だ」
そう言うと犬神様は背を向け飛んでいこうとする。
「あ、もう…」
「言っただろう我には悠長にしている時間は無い、それは小僧にも、お前にもな」
「…っ」
そう言い残し、犬神様は消えてしまう。
「…チップさん、言ってくるね」
「あなた…強いわね、私なら到底受け入れられない…」
私は扉の方へ歩いていき両手を扉に当てる
「正直さっきまではこの扉の向こうに行くのは、行けって言われたから行くって気持ちが半分くらいあった…でも今は100%自分の意思でこの扉を開ける。母性なのかなんなのか分からないけど、私は世界がどうこうよりこの子を守れるなら特異点の力が欲しい…!」
グッと両手に力を込める、さっきまでピクリともしなかった扉がさも当たり前かのように開く。
中は真っ暗でこちらからは何も見えない、一度深呼吸をして中へ一歩踏み出した。
◇◇◇
犬神は保護した子の魂を感じながら、ヒロトの下へ戻っていく。
「特異点と神の器の子…全世界でも報告例は無い。実際に見て驚いたが本当に他の人間とは違う波動を感じる…」
移動を終えヒロトの体が視界に入る。
「しかし、結果この人間が産まれることはあの娘に良い効果をもたらすだろうが…なぜ人間は100%回避できる術があるにも関わらずその方法を取るのか、理解しかねる」
犬神は「戻った」とヒロトを守る5人に声をかけヒロトの中へスゥっと戻っていった。
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