第六章 第13話「ドラゴン」
前回のファントムブレイヴ
戦いを終え、斎條レイコの下へ戻るショウスケ。そこには北潟カスミを抱え、左腕を失ったレイコの姿があった。
そこへ別世界のヒロトが現れ、ショウスケへ質問を投げかける、同じくショウスケもヒロトへ兄を殺したのはお前かと質問を投げかけるが即答でそうだと答えられ、憎悪を抑えながらもヒロトへ戦いをけしかけるがヒロトは背を向け立ち去ってしまう。そして場面は変わり、ハヅキは…
ダズ村のある山の中腹、光丘ハヅキはチップに連れられ山を登って行く。
「チップさん、私はなんでここに?」
私は目の前を走る小型犬に話しかける、側から見れば犬と会話する愛犬家のように見えるだろう。
「あなたにはやってもらわなきゃいけないことがある、あなたじゃなきゃできないことよ」
「私じゃなきゃできないこと…」
それ以上チップさんは何も言わず、気づけば頂上に到着していた。
「さて…」
チップさんはそういうと歩みを止める。
「やぁやぁ!」
その時聞き覚えのある声が聞こえる。そうだ、ここには…
「やっぱり、また会ったね…ハヅキ」
「チハル」
物陰から以前ここに来た時に会った、冒険家だというチハルが現れる。
「その犬っころは犬神の使いだね、なぁんだ思ったより力を持ってないんだぁ…それよりもそれが君を連れてきたということは、やっぱり君が“特異点”なんだね」
「私が…?」
チラリとチップさんを見る。
「詳しい説明はあれを排除してからよ、お願いできる?」
私は少し困惑しながらチハルを見る。
「特異点は主様がかねてより探していた力…必ず君と特異点の力を主様の下へ連れて行く!」
「主様…!」
この子、別世界の月永くんの手下!
「なら、どっちみち倒さなきゃいけない相手…!」
「倒す?僕を?確かに君は強いけど、僕ほどじゃないかなぁ…それに、今すっごい調子良いんだ♪」
よく見るとチハルの背後にあるクレーター、あれはチハルが破壊衝動を抑えきれずに地面へ発散した跡…そのクレーターは周りのどのクレーターよりも大きかった。
「確かに君の気術は厄介だ…僕らレベルでも視界を奪われればかなり不利になる。でも残念、僕と戦うことになったのはハズレだったね」
能力がバレてる…あっちはイデアルやいろんなところからこちらの情報を集めてて、私達が思ってるよりずっと情報を持ってるのかも…
「ハズレって?チハルなら対応できるの?」
「やってみなよ」
チハルはニヤリと笑う、私は即座に失った気憶を発動させる。
「略奪の光姫!」
チハルに向かう光を全て屈折させ、自分に集める。チハルは逃げもせず、ただこちらを見ていた。
「すごいね!本当に何も見えないんだ!」
屈折がいじられている訳でもなく、確実にチハルの視界は真っ暗なはず…どう来る…?
すると、チハルは目を閉じて話し始めた。
「…僕らは特異な能力を持った人が多いんだ、それ故に元いた世界では虐げられてきた人生だった…でも主様はそんな僕らを助けてくれた、手を差し伸べてくれた、居場所をくれた…だから忠誠を誓った、だからこの能力に誇りを持てた…!」
チハルから今まで感じたことのない気力が溢れてくるのを感じる…さながら人間ではないような…
チハルをその気力が包んでいく、それはどんどんと大きくなり次第に形を成していく。
「これって…」
もうチハルと呼んでよいのかも分からない“それ”は人間の大きさから何十倍も大きくなり、じわじわと消えていく気力の間から屈強な巨躯を露わにする。
「ド…ドラゴン!?」
赤黒く血のような鱗に大きな翼、私の身長ほどある手のひら、鋭い爪、そして角を生やした大きな頭を首がもたげている。
「どうだい?これが僕の能力だよ、こうなったら僕の感覚は本物のドラゴンと同等になる、視界を奪うくらいじゃ君を見失わないよ。でもね、これのせいで親も友達もみんな僕をバケモノ扱いさ、一時期はこの能力を死ぬほど恨んだけど今は主様のためにこの能力を使えることが嬉しいんだ…ハヅキ、君はどう思う?」
声とその姿とのギャップに脳が追いついていない。
「素敵だと思うよ。私も初めてこんな気術を見た、本心でもっと知りたいと思ったところだよ」
「本当にそう思うかい?今まで遊んでいた友達が、可愛がっていた娘が、愛していた人が、突然この存在するだけで災害となるような姿になってもかい?」
「私はあなたを否定しない」
「本当なら嬉しいけどどうだろうね、当事者にならないと分からないもんだよ」
その時、突然チハルが腕を動かし私へビンタするような動きをみせる。
「っ!光球!」
咄嗟に光球を展開しガードしようとする。
「ほら、どうだい?今僕は手を寄せただけだよ?でも君はガードした」
「状況が違うでしょ?今、私とチハルは敵同士、私はあなたの視界を奪ってるし、あなたからいつ何時どんな攻撃がくるか警戒してるの、ガードして当然でしょ?」
「…そうだったね…少しお喋りし過ぎたみたいだ…僕は特異点の君を連れて帰る、主様の下へ」
「っ!!」
視界が揺れる、今度は手にグッと力が入ったように見えたと思ったらそのまま私を光球ごと手で弾き飛ばしてきた。光球が地面を抉りながら止まる。
「うん、大丈夫そうだね!今のが大体20%ぐらいかな、いやもう少し低いかも!まぁなんにせよ今のでそれなら結構本気出しても大丈夫だね、ミスって殺しちゃったら困るからさ」
「私は絶対負けない」
チハルの目が開き、目玉がまるで私が見えているかのようにこちらをギロリと睨む。
私は光球を展開したまま戦闘態勢になる。
「スター・クロスバレッズ!」
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ではまた次回でお会いしましょう〜