第六章 第12話「悪ではない」
前回のファントムブレイヴ
激しくぶつかり合うヒロトとヒロト。神力と神力のぶつかり合い、神以外が干渉できない戦いが繰り広げられる。だが、別世界のヒロトの神力の練度は高く、ヒロトは重い一撃を食らい気絶してしまう。そこへアイ、ミミ、フゥ、セリカ、セレナが駆けつけギリギリでその場を撤退する。なんとかその場を逃れた5人と犬神はヒロトを安全な場所で休ませるため移動し始める。一方…
サブサイド第3支部前、それぞれ戦いを終えた者達が一堂に会する。
「支部長はどうなったんだ!?」
辺りは先程の爆発でまるで荒野のようになっており、未だ熱気が漂っていた。
ショウスケは、一度飛び上がり辺りを見渡す。その時、視界の端で土煙を上げながら岩が崩れる。ショウスケはすぐにそこへ向かった。
「支部長…!!!」
そこにいたのは北潟カスミを抱えた斎條レイコだった。ショウスケはその変わり果てた姿に息を呑む。ショウスケがここまでボロボロの支部長を見るのは初めてのことだった。そして、ある部分に気付き顔がさらに険しくなる。
「腕が!!!」
「発花か…すまないがカスミを足場の安定した所へ連れていってくれないか…」
ショウスケのその言葉など気にすることもなく北潟カスミの安全を優先する…
「支部長もだ!」
ショウスケはカスミを抱え、レイコを背負い平らな場所に移動する。そして、カスミを寝かせながら問う。
「その腕どうしたんだ…!」
そう、斎條レイコは左腕を失っていた…
◆◆◆
「手はひとつ…」
レイコはカスミと生体リンクで繋がれた爆弾の魔法を自分の左腕に移す。
「解除は間に合わないが、リンク対象を移動させることはできる…!」
レイコは服の袖をぐっと集めそれを噛む。
「これで助かるのなら腕の一本や二本…安いものだ…!!」
左腕を掲げると自分の重力の気術を一気に左腕にかける…
「グッッッ!!!!」
生涯であまり聞くことはないであろう不快な音がレイコの中を走る…自分の身体から離れる左腕…しかし、痛みに悶える時間は無く、腕を即座に上空へ落下させた。朦朧とする意識の中、自分達に爆発の火炎や岩が降り掛からぬよう反発の重力を目一杯かける。
その瞬間、巨大な爆発が起こりレイコ達を覆った…
◆◆◆
「すまないが…詳しく話す余裕はない…今にも意識が飛びそうなんだ」
レイコは全身に汗をかき、眉間に皺を寄せ、肩で息をしながら傷口に治療の術式をかけている。
本来なら出血多量で死んでいてもおかしくない状況だが、レイコはあまり血を流してはいなかった。少し前にあった王都での襲撃事件、その時重傷を負ったエクレール達の応急処置に思い付いた体内の血を外に出さないように重力でコントロールする荒技、それを自身に使用していた。
「私は止血だけでもしないと死にそうだからな…今日はここまでだ…お前はアレの相手をしてくれ…」
「アレ…?」
ショウスケは背後上空に異様な雰囲気を感じ振り返る。
「別世界のヒロト…!」
ヒロトは徐々に降下する。
「なるほど、ある程度状況は把握した…」
ヒロトは手首に着けていた丸い宝石のような物を見る。
「やってくれたな、発花イツキの弟」
「こっちのヒロトはどうした!!」
「逃げたよ、惜しいとこまで行ったんだがな…それよりもだ、ウチのメーターを倒してくれたみたいだな」
「メーター?」
「あの変身できる子だよ、肉体が消失してる…これはこの戦い中に復帰は無理だな」
やはりあいつは人間では無かったのだとショウスケはなんとなくのニュアンスで理解する。
「あぁ、ぶっ飛ばしてやったよ!それで?ヒロトが逃げただと?んな訳ねぇだろ!」
「全く、発花ショウスケという人間はどの世界でもこうなのか」
「あぁ?」
「俺はお前に聞きたいことがある、だからここに残したんだ」
「奇遇だな、俺もだ」
「そうか、ならまず聞いてやろう。その代わり俺の質問にも答えてもらう」
ショウスケは、こいつが聞きたいのは遺産の事だろうと、それを承諾した。
「お前が兄貴を、発花イツキを殺したのか?」
ショウスケはメーターとの戦闘でほぼ確信していたが直接この問いを投げかける。
「そうだ」
「!!!」
たった一言、しかも即答で答えられ、ショウスケは逆に冷静になる。
「それだけか?理由は聞かずとも分かるだろ、俺達の情報を持ちそれを外に流す可能性が大いにあったからだ」
ヒロトは淡々と、当たり前のように語る。
「あぁ…でもよかったぜ、これでお前がヒロトとは別人で絶対にぶっ倒さないといけない奴だってことを確信した…!」
ショウスケは自分の中に沸々と湧き上がる憎悪を押し込める。しかし、ヒロトはそんな事などどうでも良いかのようにそのまま続ける。
「さて、俺の質問だが…その遺産、どうやって発現させた?」
「これだろ?」
ショウスケは一瞬だけ白炎を出す。
「質問に答えてもらったんだ、何も隠さず言うが…わからねぇ」
「は?」
「お前も発花ショウスケって人間を別の世界の俺を見て知ってんだろ、俺は頭が悪いんだ。修行してたらできたとしか言えねぇ、詳しく何をどうしたらなんて分からねぇよ」
ヒロトは一瞬考える素振りを見せた後、小さくため息をついた。
「そうか…じゃあお前を観察して答えに至るとしよう…正直お前は俺達にとって脅威だ、ここで殺しておきたいが遺産を使える者としての価値は大きい。発花ショウスケ、この戦い俺達が勝つ…その後俺達と共に来い」
ショウスケはその意外な誘いに驚くが、拳を突き出し親指を立てそのまま手首を回し親指を下に向ける。
「てめぇになんざついて行く訳ねぇだろ、クソ野郎!」
「ふんっ終わった後にまた決めれば良い、じゃあな」
「おい!闘るなら今ここでだ!」
もうショウスケに背を向け立ち去ろうとしていたヒロトは少しだけ振り返る。
「俺は無闇に殺しはしないんだ、後ろの斎條レイコもその怪我じゃあもうまともに戦えないだろ…俺は神だ、殺人鬼でも“悪”でもない…」
そう言ってパッと消える。
その言葉にショウスケはさっきまでヒロトがいた空間に向かって呟く。
「てめぇは“悪”だろ…!」
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ではまた次回でお会いしましょう〜