第六章 第11話「撤退」
前回のファントムブレイヴ
変身する黒ずくめの男と戦うショウスケ、戦いの中で自分に変身した敵の動きを見て、自分の動きの弱点を理解し、師匠の教えを思い出す。衝炎の上位互換である龍炎を生み出し男を撃ち倒す。だがその男はまるで自然の怒りのように消えてしまう…
サブサイド第3支部より数km離れた上空。影と光の剣がぶつかり合う。
「確かに、剣の腕はお前の方が上だと認めよう。だがあまりに神力の差がありすぎる」
剣を大きく弾かれる。
(小僧、大丈夫か?)
「あぁ、問題ない」
(体の話ではない、残りの気力の把握ができているかと聞いている)
「当たり前だろ、そんな初歩的な事できてないわけないだろ?」
(分かってるならいいが、どうするつもりだ?このままいけば確実にこちらが気力・神力切れで負けだ)
「ツクヨミを使う…」
(だめだ、完璧に使えないツクヨミは使わせない)
「はぁ!?じゃあどうしろって?」
(一時撤退だ、相手の手の内がある程度知れた。もう一度万全の状態で戦うべきだ)
「撤退?そうだな、できるならな…!」
「おしゃべりは終わったか?」
「縮地!」
剣と剣が火花を散らしながら激しくぶつかる。一手一手が重く、ぶつかり合う度に辺りに衝撃が走る。
小細工をする隙がない、少しでも甘えればやられる…羅刹で神力を使っても速さは同等かそれ以下、隙をつける一手…タイミングを誤ればやられるが、賭けだ…!
相手が、こちらにななめ上からの斬り下ろしを打ち込んでくる瞬間、俺は大きく踏み込む、と同時に影で足を置ける床を造り出す。ここは空中…踏み込むことは予想外のはず、突然体勢が大きく変わった俺にその攻撃は当たらない…!
「!?」
俺の耳元で奴の剣が空を切る音が聞こえる。
「犬神神術・虎狼!」
神力を色濃く纏った刃で奴を薙ぎ払った。その攻撃は見事に命中し、今までで一番大きなダメージになったはずだ。
「ぐっ!!」
奴を大きく弾き飛ばす。
追い討ちをかけるか撤退するべきか…どちらにしても今この瞬間しかない気がする…どっちが最善だ?
(小僧…!)
「迷ったな」
「!!」
「猿神神術・猿武」
奴は一瞬で俺の真上を取る。振り下ろされる刃、神力を纏わせた夜天で防ぐ。だがその一撃は凄まじく、一度の攻撃で5回分の衝撃が俺を襲う。反撃する間もなく次の一撃…腕が悲鳴を上げる、腕を侵食していた影に亀裂が入った。さらに次の一撃で夜天を弾かれ、体へまともに攻撃を食らう、そのまま地面に叩きつけられた。
「がっ…!!」
夜天は無事だが、身体に纏っていた影が蒸発するように消えていく。その瞬間、身体中に激痛が走った。制限解除の代償…それは今の俺を気絶させるのに十分だった…
「終わりか?」
◇◇◇
ヒロトが気絶し、犬神は絶体絶命とも言える状況に立たされた。
(まずい、こいつの目の前でそう簡単には逃げ切れないぞ)
その時、遠くから何かが物凄い勢いでこちらへ近づいて来る。それはあの月永ヒロトの視界にも入る。
「兄貴のニセモノめ!それ以上兄貴に何もするなぁ!!」
(あれは、最近小僧とよく一緒にいる小娘達!なぜここに!)
「なんだガキか」
「お姉ちゃん!」
ミミがパッと手にハンマーを出現させアイに渡す。それを受け取ったアイはとても子供とは思えない跳躍力で飛び上がる。
「ギガント!」
フゥがそう叫ぶとアイの持っていたハンマーがどんどんと大きくなり、元の大きさの何十、何百倍もの大きさになる。
「気力増幅!!」
アイが気術を発動させ、ハンマーに乗せた気力を膨らませていく。
「これが私たち姉妹の力!」
そのとてつもなく大きなハンマーはとてつもない気力を纏い、別世界の月永ヒロトへ振り下ろされる。
「ザ・ミョルニル!!」
まるでこの星ごと吹っ飛ばしそうな勢いで襲いかかる。
「どれだけデカくとも結局は気力、神力の前には無意味……!?」
それを弾き返そうとしていた月永ヒロトの顔に少し驚きの表情が出る。月永ヒロトはそのハンマーを弾き返さず神力の盾で受け止めた。
「何故だ、何故このガキが神力を使っている?」
その時、月永ヒロトの背後の空間から突如2人の人影が現れる。
「そりゃあ」
「セリカ達姉妹の力も乗せてるからよ!」
「なるほど、神の使いか」
「封じの鎖!」
月永ヒロトに光の鎖が巻き付く。
「神力の鎖か」
「犬神様!撤退を!」
その瞬間、犬神とその場にいた別世界のヒロト以外の6人が消える。
「…まさか、俺が油断にやられるとはな。まだ修行の余地がある証拠か」
ヒロトはぐっと力を込め鎖を砕く。
「まぁいい、一度こちらの状況の把握が先だ」
◇◇◇
この世界のどこか
「ふぅ…間一髪か…」
セレナが肩を撫で下ろす。
「いい活躍だったよ!3人に頼んでよかった!」
セリカがアイ、ミミ、フゥを褒める。
「アイ達、実戦で気術使うのが初めてで心配だったけど、なんとかなったね」
「え!?初めてだったの!それ知ってたら頼まなかったよぉ」
「でも兄貴を助けられてよかった…!」
5人は気絶したままのヒロトを見る。
「犬神様、月永くんは大丈夫なの?」
セリカの軽い口振りにセレナが「おい」と釘を刺す。
「あぁ、激しい気力消費と痛みでただ気絶しているだけだ…しばらく起きそうには無いが…しかし、助かった。お前達には礼を言わねばなるまい」
「いえ、とんでもありません。我ら神の使いは犬神様、器である月永ヒロトに仕える身。当然の事です」
犬神は少し考えた後、5人に伝える。
「我は小僧と意識の中でツクヨミを完成させる。その間小僧は起きぬ、よってお前達に護衛を頼みたい」
「「「「「はい!」」」」」
返事を聞いた後犬神はヒロトの中へと消える。
「身を置く場所を決めて移動していこう、私たちの神力は限りがあるし、使えば気付かれる可能性がある、できるだけ静かに移動しよう」
こうして月永ヒロト護衛組が結成され、6人は移動を始めた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜