第六章 第10話「遺産」
前回のファントムブレイヴ
結界の中へ入ったカスミとイデアルを待つ斎條レイコ。カスミがイデアルを説得する可能性も考えていたが、結界が解けた後に現れたのは気力切れのカスミを抱えたイデアルだった。すぐさまイデアルからカスミを引き剥がしたが、カスミには爆弾が仕掛けられていた…手は一つしか無いとレイコは何が手を施したようだが爆発自体は止まらず巨大な爆発が辺りを包んだ…
俺は俺の姿になったこいつを蹴り飛ばし、イデアルと支部長からできるだけ離れる。
「まだ離れるぞ、思う存分やろうぜ」
特に反応はなかったが、賛同したのかそのまま一定の距離を保ったまま移動する。
「案外素直じゃねえか」
こいつはもぞもぞと黒い何かを纏いながら俺の姿から元の姿に戻っていく。
「主様がお前の力について聞きたがっている、我がどれほどか試してやろうと思ってな」
「俺の力?」
「淘汰した者の力を完全に自分のものとしたその力“遺産”…それを発現させるのには今尚謎が多い」
「遺産…白炎のことか」
「主様は一つ前の世界で淘汰を行ったが遺産の発現には至っていない、今後主様を超えるような人間が現れることは無いだろうが主様は“神”を目指すお方…神をも超える力を手に入れなければならない」
「神を目指してるだと?残念だがそれはこの世界で終わりだ」
「お前は何も分かっていない、主様があの神の器に負ける可能性は…0だ」
俺は白炎を纏う。
「分かってねぇのはてめぇだ、まず俺に勝てると思ってる時点でなっ!」
俺は地を蹴り距離を詰める、奴はもぞもぞと姿を変え始めた。
「白炎・連翹!」
手に纏った白炎を回転させまるで弾丸のような一撃を放つ。
だがそれは奴から現れた光の剣に阻まれる。黒いオーラの中からその顔が覗く。
「ヒロト…いや主様か」
「…」
俺は剣を弾き、一旦距離を取る。
「一瞬ドキッとしたが、そりゃ神力じゃねぇな。まぁそこまでコピーされちゃ困るが」
奴はもう一本剣を造り出しこちらへ向かって走り出した。俺は白炎を厚く腕に纏う。
二本の剣の連撃、それらを全ていなしていく。
「ヒロトと比べりゃ大した事ねぇな、それに…」
剣を大きく弾く。
「その光の剣…見覚えがある訳だ」
「何…?」
脳内に最悪な記憶が蘇り、怒りが沸々と湧き上がるのを感じる。
「やっぱり兄貴にトドメをさしたのは主様かっ!俄然、てめぇらには負けられねえ!」
剣を構え直す隙に鋭い蹴りを放つ。
「ぐっ…!」
ガードはされたが奴はふっ飛ぶ。そしてまた、姿を変え始めた。
「モード白炎、からの衝炎」
発砲音のような音と共に奴の目の前まで一瞬で距離を詰める。
「螺旋・向火葵!!」
黒いオーラの中から炎を纏った拳が放たれる。
「連翹!?」
俺の放った螺旋・向火葵と奴から放たれた連翹がぶつかる。
「また俺になりやがったな?」
「…」
オーラの中から俺の顔が覗く。俺はすぐに次の手に移る、パンッと音を立てながら奴の上を取る。
「崩れ牡丹!!」
火球を纏ったかかと落とし、だが奴はパンッという音と共に消える。
「…っ!衝炎か!」
奴は俺の周りを音を立てながら飛び回る。
「…連翹」
背後からの声に即座に反応するが、反撃はできず連翹を防ぐ。
「ぐっ!!」
防いだものの、俺は回転しながらぶっ飛ばされた。
「さすが俺の技!痺れるぜ!」
着地しながら自分の技の威力に感動する。そして、あることに気付きニヤリと笑う。
「お前はひとつ失敗を犯している」
「何だと?」
「それは俺に化けて俺の技を使った事だ」
「…?」
「分からねえか?お前が俺の動きを丸々コピーしてくれたことで、俺は俺の欠点に気付いた…お前は俺に成長の機会を与えちまったんだよ」
「だからなんだ、またそれをコピーすればいい…」
「やってみな、そんな暇があればな…こっから俺は加速するぜ?」
衝炎は確かに速く移動できるが、気力効率が悪いし攻撃時には全身に発火ポイントを分散してるから一時的に衝炎モードを解除しなくちゃ火力が出にくい…それにさっき奴が衝炎で周りを飛び回ったが…なんだありゃうるさすぎる!あんなの自分の位置を教えてるようなもんじゃねぇか
俺はリョウスケさんの言葉を思い出す。
◆◆◆
「ほう、炎の扱いがだいぶマシになってきたじゃないか」
「炎を使う時だけ出す!だいぶ慣れてきたし新しいモードもできたぜ!」
「だが、まだ上はある!今はそれで事足りるかもしれないがいずれ限界がくる、その時が来ればまた教えるがこれだけ覚えとけ」
リョウスケさんが全身に薄く煙を纏う。
「流動性…お前で言えば常に炎を纏い必要な時、必要な場所に必要な量の炎を集める」
「常に炎を纏う??必要な時だけ炎を出せって言ってなかったか?」
「それは、お前が無駄な炎を出しすぎてたからだ。まぁまだこれは早ぇよ、特にお前みたいな火力バカにはな」
「誰が火力バカだ!!」
◆◆◆
今ならあれが出来る…リョウスケさん…やっとあんたのレベルまで来れたかもしれねぇ。
炎を常に纏う、薄く…だが熱く…!
「俺の考えが合ってるならこれは加速する衝炎…名付けるならそうだな…師匠リスペクトで“龍炎”だ!」
フッ…とほぼ無音で奴の視界から消える。
「何が龍炎…追えない速度ではない」
俺は奴の周りを飛び回る。
「…!!?」
「驚いてるな?言ったろ?加速するってな」
もうすでに奴は俺を追えていない、距離を詰めボディへ力強く蹴りを放つ。
「がっ!?」
地面を転がりながらも立ち上がろうとするがそこへ連翹を叩き込む。とんでもない勢いで吹っ飛んでいき岩山へ突っ込む。
だが、すぐに岩を蹴飛ばしながら奴はこちらへ向かってくる。
「許さん…!!」
見ると奴も龍炎を纏っていた。簡単にコピーされたことにすこぶる頭に来る。
「そりゃこっちのセリフだっ!」
炎を纏った拳で奴を地面に叩きつける。
「っ!!!」
「龍炎をコピーしたところで遅ぇんだ、龍炎はだんだん加速するモード。てめぇは俺に追いつけねぇ」
フラフラと奴は立ち上がる。俺は連翹を放つ構えを取る。すると、奴も連翹の構えを取った。
「なんでもかんでも真似しやがって、その連翹も俺がどんだけ苦労してたどり着いたと思ってやがる」
「連翹…!」
俺は向こうの数倍の炎を拳に乗せる。
「大・連翹!!!」
凄まじい激突、だが俺の連翹が奴の連翹を呑みこむ。
「ぶっ飛べ!!!」
そのまま拳を振り切る、奴はまるでレーザービームのように吹っ飛んで行き岩山に突っ込んだ。
俺はそれを追い、土煙が立ちこめる辺りを見渡す。すると、倒れている奴を見つけた。
「まさか…我が…」
「タフなやつだ、まだ意識があったか」
「主様…申し訳ありません……」
俺はこいつを捕まえ連れて行こうとする、が…
「!?」
突如、こいつの体がキラキラと粒子のようになり消え始める。まるで、自然の怒りが消え行くように…
「お前…!人間じゃねぇのか!?」
俺は服を掴もうと手を伸ばすが、透明になり始めたその体を触れることはできなかった。
「自我を持った自然の怒り…?」
その時、強い風が駆け抜ける。俺はハッと振り返ると第3支部の方向で巨大な爆発が起きているのが見えた。
俺は奴が完全に消えたことを確認するとすぐに支部長たちの元へ向かった。
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ではまた次回でお会いしましょう〜