第六章 第9話「レイコとカスミ」
前回のファントムブレイヴ
声を聞く円環への中で別世界の妹であるイデアルと会話を始めるカスミ。意外にもイデアルはカスミを“お姉様”と呼び、まるで子供が甘えるように抱きついて、この世界のホノカがどういう状況なのか、そして自分が主様に着いていく理由をカスミに話す。
だが、攻撃を止めてという願いは聞き入れず、カスミの気力切れで結界が無くなっていく中、イデアルは自分の願い・欲・使命が叶う行動をすると呟いた…
北潟カスミがイデアルと共に声を 聞く 円環への結界の中に入り、斎條レイコは2人が出てくるのをただ待っていた。いや、待つしかなかった。外からも中からも攻撃を全て受け付けないその結界になす術がないからだ。
レイコもまたあの結界に入ったことがあった…
◆◆◆
約十年前
パタパタと背後から足音が近づいてくる。
「レイコちゃん!」
振り返るとカスミがにこにこしながらこちらに駆け寄ってきていた。
「いよいよ明日から支部長だね!」
「あぁ…大変面倒だ」
「ふふっしょうがないよ支部長はもう定年で続ける気も無いみたいだし、それに本部長からの直々の指名なんだから」
「全く、迷惑な話だ」
「なんだかんだ言ってなんでもやれちゃうんだもんねレイコちゃんは。大丈夫、司令長の私もサポートするから!」
「…あぁ、頼むよ」
◇◇◇
翌日、私の支部長着任式が行われ、正式にサブサイド第3支部支部長となった。
それからしばらく経ち支部長の仕事を把握しこなしていた私だったが、疲労が限界まで来ていることに薄っすら気付いていた。
その日、大量の書類に目を通していたが全くに頭に入っていなかった。
「本当にこの量をやっていたのかあの前支部長は…」
その時、ドアがノックされる。
「レイコちゃん、入っていい?」
「あぁ」
カスミは部屋に入ってくると、そのままカチャリと鍵をかけた。
「…?なぜ鍵を閉めた?」
「レイコちゃん、最近すごく無理してるでしょ?私の力でちょっとでも役に立てないかなって…」
カスミは質問には答えないままこちらへ歩いてくる。
「カスミの力?」
「声を 聞く 円環へ…」
その瞬間、カスミから溢れ出た気力が私を包む。
そう、これが初めて“声を聞く円環へ”を体験した日だった。
「これは!?」
「これは神の聴力のもう一つの能力、“声を聞く円環へ”…外、内全ての攻撃を受け付けずゼロに戻す力」
「そんな力が…!」
「要は、誰にも邪魔されずにお話ができる空間ってこと」
「……」
私はあまりに突然の事に呆気に取られてしまう。
「本当に外からは何も見えない、この空間には2人だけ、なんでも話してくれていいの…それで発散できることもあるでしょ?言ったでしょ?サポートするって」
私はその言葉にとてつもない安心感を覚え、その場に座り込み口を開いた…
◆◆◆
その日は何を話しただろう、主に愚痴だっただろうか…カスミの気力が続くまでの少しの時間だったがとてもスッキリできた事を覚えている。
そうして起こったこの状況…今まで返しきれていないカスミへの恩を返す時だと私は勝手に奮起していた。
そして、考えていた。2人が出てきた時の最善の行動を、いかにしてカスミを守るべきかを。
カスミはイデアルが嘘をついていると言った…つまりはホノカは生きているのか?そうだとしても、リスクを犯してまでイデアルが淘汰をしない理由はなんだ?本当に生きているならイデアルの死=ホノカの死の可能性が高い…
その時、結界が揺らめく。
それを見たレイコはすぐさま全操作を発動させる。
結界が無くなった時の状況は、いくつかあるが可能性が高いのは…
・カスミがイデアルを説得しイデアルが改心
・説得は失敗したが両者無事
・カスミの気力切れで結界が解除
一番最悪なのは…気力切れのカスミを人質に取られる事。そうなれば、私は最悪の選択をしなければならない…!
レイコは覚悟と共に結界を見守る、結界は上部から蒸発するように段々と消えていく。そして、イデアルが立っていれば見えるはずのところまで結界が消える、だがイデアルは見えない。
そこから徐々に結界が消えていき、一番最初に見えたのはイデアルの頭だった。
カスミは立っていない、つまり気力切れで倒れた可能性が高い…!
レイコはカスミの姿が見えた瞬間こちらに引き寄せられるように構える。
そして結界が消え、イデアルが気力切れで倒れたカスミを抱きかかえている姿がレイコの目に飛び込む。
「…っ!」
レイコはその状況に一瞬戸惑う。
どういう状況だ…?なぜそんなにも愛おしそうにカスミを抱いている?改心したのか?いや…どうであれ、カスミを引き離さなければ!
全操作でカスミをイデアルから引き剥がし、腕に抱える。
「お姉様…こんな妹をお許しください…」
そう言いその場から動かないイデアルを見る、すると胸の辺りがまるで星のように輝いていた。
「まさかっ!」
瞬時にそれが爆発の予兆であり、その魔力量からとんでもない爆発が起こると察知する。その場から即座に離れようとするが…
「っ!!!!」
今抱えているカスミの胸も同じく輝いていた。
「貴様ァ!!」
すぐさま重力でそれを落とそうとするがビクともしない。
「無駄よ…それは生体リンク…お姉様の中に爆弾があるんじゃなくてお姉様自身が爆弾なの…」
「なん…だと!!?」
「それも…私も全魔力を持って仕掛けた一世一代の大爆弾…死なば諸共…私はここで一旦お姉様と共に散るわ…あなたも一緒にね…!」
こいつ…!知っている!淘汰が始まった人間は自殺では死なないことを…!つまり、このままでは全員無事は有り得ない!!
私が逃げればカスミが、あいつを殺せばホノカが、このままいけば私とカスミが…死ぬ!
生体リンクの解除方法は知っている、だがそんなこと間に合うはずがない…
「ならば、手は一つ…」
イデアルはバタリと倒れ、天を仰ぐ。
「これで私の、“お姉様にもう一度会う”願いも、“この世界のお姉様も渡したくない”欲も、“敵を排除する”使命も叶う……粉々になった人間ってどうやって死なずに元に戻るのかしら…楽しみ…」
刹那、大きな輝きと共に巨大な爆発が“2つ”起こる…その爆炎はまるでドームのようになり周囲を巻き込んでいく。当然近くにある第3支部は建物のほとんどが吹き飛んでしまう。
その衝撃と熱波は空を割り、地を駆け、近くで戦っていたヒロトとショウスケの元へも届く…
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ではまた次回でお会いしましょう〜