第六章 第8話「姉に会うため」
前回のファントムブレイヴ
イデアルと斎條レイコの戦いに現れた北潟カスミ、2人の戦いを止め別世界の妹であるイデアルと話をすると言い、神の聴力の能力である、声を聞く円環へ(go to hear ring)を発動する。攻撃行動全てを元に戻す空間でカスミは言う、「お話ししましょう」と
北潟カスミは魔導士イデアル…いや、北潟ホノカへ優しく語りかける。
「大丈夫、安心して…今、ホノカを見ているのは私だけ…あなたを縛っているものは何も無いわ」
カスミは手を伸ばす、それを見たホノカは少し動揺した表情でカスミのを顔を見る。
カランッと杖がホノカの手から落ち、頬を一筋の雫が走る。
「お姉…様…」
ホノカは崩れ落ちるように駆け寄る。カスミはそれを受け止めその場に座り込む。
「別の世界のホノカとはいえ、やっぱりホノカはホノカですね…」
「だって…私はお姉様にまた会いたくてっ…」
ホノカは力強くカスミを抱きしめる。
「聞かせてくれる?」
ホノカは涙を拭いながら話し始める。
「この世界の私は…生きてるわ…」
◆◆◆
ー約1年前、王都研究室ー
夜、研究室に残り作業をしていた北潟ホノカ。月明かりが入り込む窓が突然開く。
「!?」
そこには1人の女性が立っていた。
「誰!?」
「どうも、北潟ホノカさん…」
イデアルは不敵に笑いホノカに近づく。ホノカは視線は外さないまま出口の方へ後退る。
イデアルは帽子のつばを持ち上げ顔を見せる。
「えっ!??」
「どう?よーくご存知の顔でしょ?」
「何の能力…?」
「能力じゃないわ、私も…北潟ホノカなの」
「どういうこと!?」
「まぁ驚くのも無理ないわね、私はね…別の世界のあなたなの、この世界で言う世界渡航者ね」
「世界渡航者…別の世界の私…」
突然の出来事に頭を整理しているホノカを見ながらイデアルは続ける。
「私があなたに会いに来たのは…あなたを隠すためよ」
「隠す…?」
イデアルはそこで“淘汰”をホノカに説明する。それを聞いてさらに後退る。
「心配しないで?言ったでしょう?あなたを隠すと」
「信用に値するものがない、それにその淘汰もそんな現象を簡単にそうですかと理解できるはずがない」
それを聞き、イデアルは自分、姉、両親の生年月日、名前、その4人の好物、身体的特徴などを次々と喋っていく。
「えっちょっ…待って!」
「どう?恐らくほぼ合ってると思うけど?話ぐらいは聞いてくれるかしら?」
「……わかった、一度話だけなら」
「よかったわ」
イデアルは椅子に座り説明し始める。
「まずあなたには顔と名前を変えてしばらくの間王都の郊外に用意してある家でひっそりと暮らしてほしいの、監禁したりするわけじゃないから外出は自由にしていいわ。ただ条件としてお姉様とは会わないで、私とあなた以外の人にはあなたは死んだということにするから」
「目的はなんなの?私が生きてるとそんなにまずいの?」
「ひとつはさっき言った淘汰、そのリスクを無くすため。ふたつ目は私は主様に最初で最後のウソを付く。それはバレてはならないわ。みっつ目はお姉様を悲しませないため…死んだとは伝えるけど戦いの後、あなたが本当に死んでいたらお姉様はどれだけ悲しむか…」
「いろいろ聞きたい事が…」
「それは移動中に答えるわ、さぁどうかしら?」
「いや、それじゃ私に何のメリットがあるの?」
「メリット?そうね、仕事せずゆっくりと暮らせる事かしら?」
「そんなことで…」
言いかけたところでイデアルは睨む。
「状況分かってないのかしら?私とあなたは今対等にやり取りしてないの、言ってしまえば脅してるのよ」
「っ!!」
「そうね、じゃあもっと脅してる風に言いましょうか?」
イデアルは立ち上がり魔力を纏いながら迫る。
「今ここで死ぬか、監視下に置かれた状態で生かされるか選びなさい…?」
「くっ…!!」
「生か死か、迷う必要あるかしら?」
◆◆◆
「じゃあ、本当にホノカは…」
「えぇ、生きてるわ」
カスミは心底安心する、ホノカの癖で嘘は見抜けても事実を知るまで内心は不安でいっぱいだった。
「それで、あなた…ホノカは私に会いたくて別世界から来たの?」
「そう、私は死んだお姉様とまた会うことをそれだけを目的にここまで来たの」
死んだ…カスミは別の世界の自分の状況に一瞬ドキッとする。
「じゃあ、もう戦いはやめてくれる?」
「いいえ…」
「え?」
「確かに今お姉様に会えてとても嬉しいし温かい気持ちになってるわ、でも私が本当に会いたいのは私の世界の私だけのお姉様…だから主様に付いて世界を渡って来たの…」
「生き返らせられるってこと…?」
「…正しくは違うけれど、でも主様と共に行けばまた私だけのお姉様に会えるの」
カスミはそれがどういう事かを頭をフル回転して考える、だがそれは中断せざるを得なくなる。突如、カスミを強い眩暈が襲う。
「ホノカ…どうかここを出たら戦いを辞めて欲しいの…お願い」
「…ごめんなさい…いくらお姉様でもそのお願いは聞くことができないの」
「どうして?」
「主様は何より裏切りを嫌う人…私がここで辞めたらそれは主様への裏切りになる。そうすれば私は殺され、淘汰が始まっているこの世界の私も一緒に死ぬわ」
「…!!」
「だからごめんなさい…私は斎條レイコと戦わないといけないの」
カスミはギリギリで耐えていた。次の瞬間バタリと倒れる。
「そうよね…私の魔法すら抑え込むこの結界、そんな長く保つはずないわ」
今度は逆にホノカがカスミを抱える。
「…お…ねが…い…」
カスミが消え入りそうな声で言い、そのまま意識を失う。
「この世界のお姉様もとても優しいのね…この世界の私にすごく嫉妬しちゃうわ…」
周りの結界が徐々に消えていく中、ホノカは呟く。
「じゃあ…私の願い・欲・使命すべてが達成される可能性のある行動をするわ…」
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ではまた次回でお会いしましょう〜