第六章 第7話「go to hear ring」
前回のファントムブレイヴ
対峙するイデアルと斎條レイコ。イデアルの魔法と斎條レイコの重力の気術がぶつかる。しかし、イデアルの爆発の魔法も斎條レイコは全て重力でねじ伏せていく。まさかの力の差に動揺するイデアル、早々の決着となるかと思ったがそこへ避難したはずの北潟カスミが姿を現し、2人を止める…
「避難しろと言ったはずだ、カスミ」
ここにいないはずだった北潟カスミが突然現れた驚きで斎條レイコはイデアルにかけていた重力を解いてしまう。
イデアルにとって絶好のチャンスであったが、イデアルもまた北潟カスミに気を取られる。
「もしかして…?」
イデアルが何かに気付く。
「チッ…」
イデアルが気付いた事に斎條レイコが思わず舌打ちをする。
「お姉様?」
「やっぱり…あなた、ホノカですね?別の世界の」
◆◆◆
ー数週間前ー
「魔導士イデアルの特徴はこれだけですか?」
北潟カスミが斎條レイコに問う。
「あぁ」
「女性、ロングヘア、つばの広いとんがり帽子、爆発の魔法…失礼ですが麗未さんは実際に戦闘してたったこれだけの特徴しか掴めてないのですか?」
「そのようだな、顔は…布で覆われていたようだが」
「レイコちゃん、何故私の目を見て話さないのですか?」
「目を逸らしている訳ではないが」
斎條レイコは1度目を合わせた後すぐに書類に目線を落とす。
北潟カスミは少し考えた後、書類を畳みファイルに挟む。
「分かりました、あなたは支部長ですし、私もあなたの判断を疑いません。だけど、嘘をつくならもう少し練習して下さい。昔からレイコちゃんは嘘が下手なんですから」
「いや…」
何か言いかけた斎條レイコに被せるように「失礼します」とだけ言い北潟カスミは支部長室を出た。
「…念のため、自分で調べましょう」
数時間後、任務から帰ってきた麗未アオイを呼び止める。
「少しいいですか」
「なんでしょう?司令長」
「魔導士イデアルについてですが…」
と言いかけたところで麗未アオイは少し目を逸らした。
「それならもう支部長に報告書も出しましたし、それ以上のことはあたしは知らないですよ?」
さすがに口止め済か…と北潟カスミは感じるが、それでも引かず一枚の写真を取り出す。
「これを見て下さい」
「え?」
その写真を見て、麗未アオイは思わず声が出る。
「これは麗未さんの情報を元に作らせたイデアルの顔写真です。どうですか?似てますか?」
「…はい、結構似てると思います。帽子とか服装を除けばですけど…」
「そうですか、分かりました」
北潟カスミはそれを聞くと写真を戻し麗未アオイに礼を言うとそそくさと司令室へ戻っていく。
麗未アオイは不思議そうにしながらも特に大きな疑問を持たずに第4隊のもとへ戻った。
「私の予想に間違いはなさそうですね…」
司令室に戻り自分の席に座ると写真を見ながら呟く。
その写真の裏には“ホノカ”と書かれていた…
◆◆◆
イデアルは立ち上がる。
「こちらのお姉様も小さいのね」
「ホノカ、あなたに聞きたいことがあります」
そういいながら北潟カスミは2人の方へ歩き始める
「カスミ、それ以上近づくな」
斎條レイコが制止するが北潟カスミは止まらない。
「この世界のホノカをどうしたのですか?」
「どうした?そんなの淘汰したに決まってるじゃない」
イデアルは目を瞑り呆れたように手を広げながら言う。
「…」
「聞いたなカスミ、妹の仇は私が…」
「いいえ」
北潟カスミはイデアルを見つめたまま歩みを止めない。
「あなたは今嘘をついた」
「私が?」
イデアルが怪訝そうな顔で北潟カスミを見る。
「驚きました。報告には聞いていましたが実際に対峙してみると本当に癖も仕草もそっくりです。いや、そっくりと言うより同じなんでしょう」
「何が言いたいの…」
「ホノカは嘘をつく時必ず“目を瞑る”んです」
「…!!」
明らかにイデアルの表情が変わる。
「レイコちゃん、アレを使います。後の事は任せました」
「カスミ…!」
北潟カスミはイデアルへどんどん近づいていく。
「お姉ちゃんとお話しましょう、ホノカ」
「何…!?」
イデアルが杖を構える。それもお構いなしに北潟カスミから相当量の気力が溢れ出す。
「声を 聞く 円環へ…」
その瞬間、イデアルと北潟カスミを気力が包み込んでいく。やがてそれは丸く白い大きな球のようになり2人は見えなくなる。
「声を 聞く 円環へ、普段カスミが使わない神の聴力のもう一つの力…」
◇◇◇
「何っこれは!?」
イデアルは周囲を見渡し自分が真っ白な世界の中にいる事を認識する。
「ここには私とホノカの2人だけ、外からも中からも何も影響を受けない」
イデアルが杖を振り魔法陣を展開するが、それはすぐに消える。
「!?」
「ここは会話するためだけの空間、ここでの攻撃は全て元に戻る…つまり今ホノカが出した魔法陣はホノカの魔力へ戻った」
「魔法にすらも影響するなんて…」
「安心して?私もここでできるのは会話のみ、言ったでしょ?お話しましょうって」
イデアルは徐々にこの空間を理解する。
「この世界のホノカの話だけじゃない、あなたがずっと抱えているものも全部お姉ちゃんが聞いてあげる…」
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ではまた次回でお会いしましょう〜