第六章 第2話「遺跡を守る村」
前回のファントムブレイヴ
普段の日常に戻りつつあったヒロト達第4隊、ヒロトが連れてきたアイ、フゥ、ミミもサブサイドに馴染み久しぶりの日常を取り戻していた。
3姉妹の脳のことや七賢者の外向派が居なくなるなど少しの不安要素はあるものの大きな事件もなく日々を過ごしていた。
早朝、皆がまだサブサイドへ出勤する前に私は準備を終え少し大きめのリュックを背負い部屋の鍵を閉めた。
「よし」
私はタルタロスを出てから調べていた事があった、それが…バーバラが犯した罪について。その事はバーバラ本人も何も教えてくれず、ずっと気になっていた。犯罪者の罪を休みを取ってまで調べるなんて…と私も思ったがバーバラのあの女性囚人達をまとめ上げる優しさ、気量、そして特異な気術…私はバーバラに何があったのかどうしても知りたかった、もしかしたらバーバラは何も罪を犯していないんじゃないかとまで思っていた。
◇◇◇
ー王都図書館ー
残念ながらサブサイドの書庫にはその書類は見当たらなかった、恐らくサブサイドが関与していないからだろう。だからまずはここへ来た。
「過去の新聞、それを見つけられれば…」
囚人達の話だとバーバラはもう10年近く収容されているようだった。私は丁度10年前の新聞をごっそり棚から持ち出し机に積み上げる。
数十分後、ある新聞に目が止まる。
「目覚めの儀式…」
そうだこの年、私達がウルファルスで気術に目覚めた年だ…その新聞を捲っていく。そして、一つの記事が目に入る。
「光ヶ丘で村同士が戦争…」
決して大きくはない記事、だが自分の名前と似ている光ヶ丘という地名もあってその記事を読む。
「長らく対立関係にあったダズ村とクーネ村がついに戦争とも言える事件を巻き起こした…現場は惨状と化し生き残ったのはダズ村の村民数名…きっかけはクーネ村からの攻撃だと言う。この事件によりクーネ村を全滅させたダズ村の“バーバラ・ダズ・エリコ”を逮捕し、事件の終幕となった…今後の裁判などでは、明らかに過剰防衛ではあるが村を攻撃されたという事実から、どれほどの情状酌量が適用されるかが判決の焦点になるだろう…」
その記事を読みながら私の頭にはいろんな事がぐるぐると巡っていた。
「バーバラ…でもバーバラは村を守るために…?」
その記事を写真に残し、新聞を戻して私は図書館を出た。
「行ってみよう…ダズ村に」
◇◇◇
ー数時間後ー
「この山の上かぁ…気術使っちゃお」
私は点ワープを使いながらダズ村を目指す。
「この辺りあんまり来たことないなぁ、第2支部の管轄だよね」
頂上付近、森林限界ほど高くないけど木が少なくなりパッと視界が開ける。そこには異様な景色が広がっていた…
「何…これ…」
まず目に入ったのが数軒の半壊状態の家、そして小さなクレーターのような跡がこの辺り一面に点在していた。
「これが、戦いの跡…?」
ただ、どう見てもいくつかのクレーターは新しく、とても10年前にできたものには見えなかった。
「やぁやぁ!」
「!?」
半壊した家屋を通り過ぎる時頭上から声をかけられる。
「…誰?」
「僕はチハル、冒険家だよ」
ポニーテールにキャップを被り作業着のような服を着ているその人は軽快に屋根の上から駆け降り私の前に着地する、その時その人の胸の確かな膨らみが上下に揺れる、遠目では分からなかったが女の子だ。
「君はどうしてこんなところに?それも女の子1人で」
「それはあなたも同じでしょ?冒険家っていったけど」
「そう!僕は少し探し物をしててね、ここに辿り着いた訳だよ!君は?」
「私は…知り合いがここの村の出身でそれを調べに」
「そうなんだ…君さぁ、“特異点”って知ってる?」
チハルと名乗ったこの子は私に急に探るような口調で聞いてくる。
「特異点?分からないけど…それを探してるの?」
「ふぅん…」
チハルは私を舐め回すように見る。
「まっいいや、君さぁこの村で何があったのか知りたいんでしょ?見せてあげる、着いてきなよ」
「え?」
言われるがままチハルに着いていく。
「君名前は?」
「…ハヅキ」
「ハヅキ、どうやら強そうだから覚えとくよ」
チハルはあるところで止まると足下を指差す。
「ここ、見てみなよ」
指差す地面を見ると地下へと続く階段がそこにあった。
「この下に、村同士でなぜ争いが起きたのか…その原因が眠ってる」
「この下…」
私は恐る恐るその階段を降りる、だがチハルは着いてこない。
「あなたは来ないの?」
「僕は何度も見たしね、好きなだけ見てきなよ」
手に光の球を出し先を照らしながら進む、下まで降りるとそこには広い空間が広がっていた。
「遺跡?」
壁画が壁一面に描かれ、燭台が均一に並び、一番奥には大きな扉の壁画が描かれていた。
「これが争いの原因?この扉、開くの…?」
扉に触れ少し押してみるがピクリともせず壁を押している感覚でしかなかった。その時…
ドォオン!!
と大きな音が響き振動が遺跡を駆け巡る。
「何!?」
慌てて私は外に出る。するとそこにはチハルが砂煙の中に佇み、そしてチハルを中心にあの小さなクレーターができていた。
「やぁやぁ!どうだった?この遺跡を見て何か感じたかい?」
「いやっそれどころじゃないでしょ!何してるの!?」
「あぁ、これ?いや〜僕って破壊衝動っていうのが抑えられなくて定期的にこうやって地面にでも発散しないとやってられないんだよ」
破壊衝動…!?まさかこのクレーター全部この子の!だから遺跡に入らなかったんだ
「君みたいに強い人が相手してくれればしばらく衝動は起きないんだけど…どう?」
「どう?って…」
「ははっ!冗談だよ!それより遺跡はどうだった?」
「何もなかったけど…本当にあれが争いの原因なの?」
「本当だよ、あの遺跡にはさっき言った特異点の力が眠ってる…それを欲しがったクーネ村がダズ村に攻撃を仕掛けたんだ」
特異点…一体どんな力なの…?
「でもさすがは特異点を守る村、最後までこの遺跡を守り切ったのさ…でももう誰もいないけどね」
「特異点って何なの…?」
「それは秘密…言ったでしょそれで戦争が起こったんだ誰も彼もが知っていいものじゃないよ」
「じゃああなたはなんで知ってるの?一体何者?」
「僕はただの冒険家さ、あの破壊衝動で普通には暮らせなくなったね…冒険家してると色んな情報が入ってくるもんだよ」
「…とりあえずそういうことにしておくね」
時間がもうない、そろそろ帰り始めなければ。
「私は目的もほぼ達成できたし帰るけどあなたは?」
「僕はここでキャンプだよ、衝動が落ち着いてる時は街に降りたりするけどね」
「そう…なんだ」
「うん!じゃあね!君とはまた会えそうな気がするよ」
私はチハルに別れを告げ山を降りる。
当初の知りたかったことは知れた…バーバラはあの遺跡、村を守るために攻めてきたクーネ村を全滅させちゃった…恐らくいくらかの情状酌量があったのだろう、タルタロスの下層には収容されなかった。
でも、ひとつ謎が増えた…
「特異点…」
戦争を引き起こしてでも手に入れようとするその力…一体何なの?チハルのようにバーバラも教えてはくれないだろう
「調べるしかないのかな…」
私は考えを巡らせながら山を降り帰路に着いた。
◇◇◇
山を降りていくハヅキをチハルは見下ろす。
「うーん、あの子が特異点なのかなぁ…まぁだとしてもここの守護神が分からないようにしてるんだけど」
チハルは屋根から飛び降りテントへ戻る。
「手当たり次第にここに来る人を捕まえてもいいんだけど、あの子強そうだったしなぁ」
テントの前の薪に火を灯す。
「でも、僕がここを任されたからには必ず特異点を連れて行くよ…主様…」
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ではまた次回でお会いしましょう〜