第六章 第1話「戻りつつある日常」
曇り空、その中に紛れるようにヘリが飛ぶ。
「目標を補足、報告通り大型5体です」
〈了解。各個撃破をお願いします〉
「手前の3体をショウスケ、ダイチ、アオイで頼む。俺とハヅキで奥の2体に向かう。運転手さんは上空で待機をお願いします」
それを聞くや否やショウスケがヘリの扉を開く。
「じゃあお先!」
そう言うとヘリから飛び出して行った。
「迷わずに一番デカいやつに行ったね」
「じゃああたしは手前のに行くから」
次いでダイチとアオイもヘリから飛び出す。
「俺達も行くぞ」
「うん!」
◇◇◇
「ふぅ〜大した事なかったな」
ショウスケが足を伸ばしながら少し退屈そうにしている。
「とは言え最近多いよね、自然の怒り…複数体出現も当たり前みたいになっちゃった」
ハヅキが消えていく自然の怒りをヘリの窓から見下ろしながら言う。
父さんの事件から数週間、俺達はサブサイドの隊員としての本来の仕事に戻っていた。
「そういえばこの前七賢者の人が来て外向派の3人がいなくなったって言ってたよね…関係あったりしないといいけど」
ダイチがメモを捲りながら不安そうな顔をする。
「でも、外向派がフラッといなくなって気づいたら帰ってくる事は過去によくあったって言ってたじゃない?3人同時ってのはあんまりないみたいだけど。あたしらが今心配することじゃないよ」
最近この話のように王都からの情報開示が頻繁に行われるようになった。乗っ取られていた王都の奪還、王都管轄のタルタロスからの脱獄犯の確保…深く考えなくても理由はその2つだろう。とは言え、最前線のサブサイドだけらしいから支部長の力もあるのかもしれないが…
俺はふと思い出す。
「そうだ、帰ったら俺あの3人の付き添いがあるから報告書頼んだ」
◇◇◇
ーサブサイド第3支部ー
「兄貴達!おかえりなさい!」
ミミが帰るや否や玄関に走ってくる。
「おう、ただいま」
「ミミ!あんたまだ洗濯終わってないでしょ!」
廊下の奥からアイが顔を出しミミを呼び戻す。
フゥがその後ろから洗濯カゴを運びながらこちらに近づいてくる。
「おかえりなさいませ、丁度今洗濯中なので洗濯する物あれば先に出しちゃってください」
ニコッとしながらそう言うとまた戻っていった。
「あの子達すっかり馴染んだね」
「あぁ俺が連れてきた手前心配だったけど、良かったよ」
アイ、フゥ、ミミ…過去に実験体として収容され結果無意識に脳のリミッターが外れてしまうようになった、保護された後タルタロスの施設内で監視下に置かれていた。
「じゃあ報告書頼んだ」
「今日は発花くんの番だね」
「は?この前やったろ」
俺はみんなにそう言うと、いつもの報告書のなすり付け合いを背に3人の下へ向かった。
「洗濯はそろそろ終わりそうか?」
「兄貴、もうすぐ終わるよ」
洗濯物を仕分けながらアイが言う。この3人は何故か俺を兄貴と呼ぶようになってしまった。
その奥にはメグミさんもいる。
「やぁ月永くん、3人の定期検診かい?本当にもうすぐ終わるから連れて行って構わないよ。後は残りの当番でやっておくから」
「メグミさん、ありがとうございます。アイ、フゥとミミは?」
「外に洗濯干しにいってる、そろそろ帰ってくると思うけど」
すると、2人が空のカゴを持って現れた。
「帰ってきたな、じゃあ行くぞ」
◇◇◇
「異常ありません、ですが脳の状態は回復していません…」
3人の検診が終わり、外に3人を待たせ医療部の人から結果を聞く。
「回復の気術でどうこうできる問題でもないですか?」
「脳というのは非常にデリケートでそもそも外からアクションをかけること自体がタブー、一応過去に事例はありますが成功例は軽症のもののみ…リスクしかないと思っていただいて構いません」
「…わかりました。やっぱ俺と同じようにコントロールできるようにするしかないか」
「それに関しては期待してますよ。実際月永さんが成功例ですし、彼女たちも力の抜き方は徐々にできるようになっています」
「はい、今日はありがとうございました」
医務室から出ると3人は座って談笑していた。
「兄貴どうだった?」
アイが心配そうな顔をする。
「問題無かったよ、次からは月一でいいってさ」
俺はアイの頭をわしゃわしゃっと撫でる。
「心配すんな、本当に問題ねぇよ。今日は夕方特訓するから準備しとけな」
「うん…!」
「じゃあ俺は戻るから、あんまりサブサイド内を走り回るなよ〜」
自分達の部屋の方へ歩いていく3人を見送った後、俺は第4隊のところへ戻った。
◇◇◇
「月永くん!」
夕方、3人の特訓も終わり自室へ帰ろうとしているところへハヅキが駆け寄ってくる。
「どうした?」
「支部長にはもう言ってあるんだけど明後日の全隊出勤してる日に休みが欲しくて」
「支部長の許可出てるなら俺は全然構わないけど、珍しいな」
「ちょっとね、1日かけてやりたいことがあって…」
「わかった、みんなに伝えとくよ」
「じゃあ、よろしくねー!」といいながらハヅキは女子寮の方へ向かって行った。
薄っすら何かを期待している自分に恥ずかしくなりそそくさと自室へ戻るのだった。
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ではまた次回でお会いしましょう〜