第五章 第26話「背負い、継いで」
前回のファントムブレイヴ
サブサイド第1支部での我妻vs駕西の戦いは我妻に軍配が上がり、第1支部に現れた囚人その他は全員確保された。
そして、ヒロトとシュウジの親子対決ではヒロトに軍配が上がったかに見えたが、シュウジが意識を失いながらも立ち上がる。だがそこに犬神が現れ、神力が使える肉体となったヒロトに一撃分の神力を貸し与え、シュウジを完全に倒したのだった…
父さんを神力を使って倒した後、第4隊と第1隊のみんなに助けてもらい俺達は帰投した。
脱獄者を全員確保したものの、俺達は数人の死者を出してしまった…ましてや一般人の死者を。
「皆さん、お疲れのところすみませんが状況が状況のため確認しておかないといけない事があります」
北潟司令長が皆を集め、今回起こったことの整理をし始める。
俺とショウスケは全身に包帯を巻いており、郷田隊長も包帯に車椅子と大きな負傷を負っていた。
「今日は手短にいきます。まず、目的のひとつだった脱獄者の確保。これは達成されました、第1支部に現れた脱獄者とサブサイドで保護することとなった3人を含めタルタロス側のリストと一致したそうです」
アイフゥミミの三姉妹は本人達の希望と犯罪は犯していないこと、サブサイドの厳重な管理下に置くこと、さらに俺からの要望もあり第3支部で保護するという形になった。
「…そしてもうひとつの目的、魔力を持った子供の保護ですが…これは、失敗と言っていいでしょう。なにせその子の親と兄を死亡させてしまったのですから」
その場に重い空気が漂う。
「俺が、もっと強ければ…っ!西園寺もっ!!」
郷田隊長が声を振るわせる。
「郷田隊長のせいではありません…」
「…月永、お前なら皆を守れたのか…?」
「…いや、正直無理だった可能性の方が高いです…俺も最後、神力が使えるようにならなければ負けてました。それだけ父さんの分解の気術は強かった」
「起きてしまった事はもうしょうがありません、亡くなった者の意志を残った者が継いでいかなくてはなりません…それにホダカちゃんは生きています。いかに彼女を守っていくかを考えましょう」
司令長は強くそう言った、見た目とは裏腹にその名に恥じぬ迫力があった。
「今回の作戦での死者は4名、折原家の2名、隊員の西園寺ケイウン、取締組織“月光”のメンバーの1人です」
じいちゃんの組織の人間が殺されてるのか?まさかじいちゃんが…
「今回の件は、主に王都とタルタロスに責任があります。皆さんはあまり重く責任を感じすぎないようにしてください。もちろん我々にも責任はあります、ですが世界狂慌は変わりなく襲ってきます。精神状態が不安定なまま作戦に出られては、また死者を出しかねません。皆さんの気持ちは痛いほど分かります、私が厳しい事を言っていることも理解しています。私もこれまで様々な経験をしました…それでも我々は戦わなくてはいけません、残酷かもしれませんがそれがサブサイドの使命です」
司令長は深呼吸した後、先程よりも少し優しい顔になる。
「では、少し業務連絡をして今日は終わります。また支部長が戻れば各自報告が必要になると思いますのでよろしくお願いしますね」
◇◇◇
俺は、サブサイド中庭のベンチに腰掛けていた。
「チョコ、いるか」
「なんだ」
空気を察してか俺がチョコと呼んだ事に対しては何も言わずその姿を現す。
「俺の精神の扉が開いたのは、あの記憶が飛んだ時か?」
「あぁそうだ」
「じゃあそれは間に合わなかったとして、皆殺される前にチョコは手助け出来なかったのか?」
「我々守護神が手を貸すことが許されているのは神の器と神の使いのみだ、それ以外の者に守護神が直接介入する事はできない」
「なんで」
「それが我々が生み出された時に定められた決まりだからだ」
「破るとどうなるんだ」
「さぁな、破った前例が無い……小僧、お前には話しておこうか。月永シュウジの事を」
「え?」
「月永シュウジは小僧の前の神の器候補だった」
「なっ!そうなのか!?」
「だが、性格は最悪、殺人まで犯した。今回神力を少し貸したのはやつに我からお灸を据える意味もあったのだ」
俺はその事実に驚きを隠せなかった。だからじいちゃんとも関わりがあったのか…
「罪を犯した時に我が罰を与えても良かったが、そこは人間に任せる事にした。結果やつは分解の気術を何かに利用できないかと求刑されていた死刑とはならず終身刑となった…やつはそういう因果にあるのだと我は諦めたよ」
「その末がこれか…」
「…背負って生きていくしかあるまい、想いを背負い成長し生きていく姿、そういう人間の姿に我は惹かれたのだ。守護神の中には人間をただの器や道具としてしか見ない者もいる、もとも我はそうだった。だが、様々な事を乗り越え背負い、他者を思いやる心を持った人間に惹かれ、この世界に住む友として共にこの世界を守ろうと決めたのだ」
チョコはフワリと浮き上がる。
「小僧、お前はよくやった」
そう言うとそのまま消えてしまった。
「…まさか神様に慰められるとはな」
俺は立ち上がる、その時腰に下げた機械柄・鬼丸がカチャリと音を立てる。
「じいちゃん…」
じいちゃんは父さん側に着くと決めたのは最近だと言っていた…それ以前に貰ったこいつは大丈夫なはずだが…じいちゃんは今昏睡状態、会話できる状況じゃない。
“家族のために”…じいちゃんはそう言った、その家族に俺は含まれていなかったのか…?
俺は色んな考えを巡らせながら自室へと戻った。
◇◇◇
ー某所ー
「主様、全員揃いました」
「あぁ…」
主様と呼ばれた男は立ち上がり、その場に揃った部下達を見る。
「脱獄させた囚人共のおかげで我々がこの世界に留まる大きな理由のひとつが解消された、だがもうひとつの理由は犬神が巧みに隠している、我々も探し続けて来たが見つけることは出来なかった、しかしそれもこの世界が崩壊するとなれば出ざるを得ないだろう…よって、我々がこの世界に留まる理由が無くなる、長かったこの薄暗い場所での生活ともおさらばだ…」
主様は光の剣を造り出し、それを掲げる。
「この世界を取るぞ」
第五章「大罪人の逆襲」fin…
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ファントムブレイヴを読んでいただきありがとうございます!
第五章はこれにて完になります、いつものおまけを挟んで次は第六章…最終章となります!不定期連載でしたが遂に最終章です、読んでいただている方は本当にありがとうございます!最終章もよろしくお願いします!
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ではまた次回でお会いしましょう〜