第五章 第25話「決着」
前回のファントムブレイヴ
突如現れた月永ケンスケ、なんとケンスケは月永シュウジ側に付きシュウジに気力を分け与えてしまう。限界の近かったショウスケはヒロトに気力を渡し親と子の一対一に賭けた。ヒロトは制限解除フェイズ3“毘沙門”を発動させシュウジと死闘を繰り広げ、最後に渾身の一撃を食らわせた…
ーサブサイド第1支部ー
「うぐぁ…」
最後の敵が倒れる。
「これでこっちは片付いたな…お前ら、全員確保しておけ」
「「「「了解!」」」」
第1支部支部長・雷殿リョウは第1隊のメンバーに指示した後、未だ暴れ回る2匹の犬を見つめる。
「後はお前が決着つけろ、我妻」
「“狂犬”はまだ健在のようで安心したぜ我妻」
「お前も捕まってた割には衰えてないみたいだな駕西」
駕西が踏み込み牙を剥き出しにしながら突進する。我妻はそれを飛び越えながら暴君の角に噛み付く。
「グルァア!!」
駕西はそれを振り落とそうと大きく首を振るが、我妻は更に噛み付く力を強めそのまま角を噛み砕いた。
「ぎゃんっ!!」
駕西は悲鳴を上げ転がる。そこへ我妻が首へ噛み付く追撃、そして持ち上げたかと思うとそのまま投げ飛ばした。
「ガア!?」
「気付いてないか?駕西、俺達の力の差に」
「何…だと…?」
「確かにお前のチカラは衰えてないが、成長もない」
「ふざけるな!俺がお前より下だって言うのか!!」
駕西はそう言いながら立ち上がり、突進していく。我妻はギリギリまで引き付けぐるんと体を回転させ重い尻尾の一撃を喰らわせた。
「ゴガァ!」
駕西は顔面にそれを喰らい、地面に叩きつけられる。すると体を光が包み人間の姿に戻ってしまった。
「俺には、守るものと信頼できるものができた…そのために、それがあったから俺は成長した。お前にはそれがあるか?」
「俺には何もねぇよ…!だからせめて自由を掴むためにやってんだ!」
「自由を掴む?何をふざけた事を言ってるんだ」
「あ?」
「お前は!殺人を犯して他人の自由を奪っただろうが!それを償い切らずにタルタロスを出た、そんなお前が“せめて自由を掴む”だと?ふざけるな!!」
我妻は人の姿に戻り、倒れている駕西の胸ぐらに掴みかかる。
「見損なったよ、心底な…」
我妻がそういうと、駕西は「うぐぁああああ!」と雄叫びを上げながら我妻を跳ね除け立ち上がると、拳を振りかぶり突進する。
我妻はそれを避けず、その拳を顔面に受けた…だがその衝撃をものともせず、避けなかったことに驚く駕西へフルスイングの拳を叩き込んだ。
「ごばぁっ!!?」
「もう一度やり直すんだな、駕西」
◇◇◇
森の前、私とアオイちゃんに速坂…いや、雷殿くん、第1隊の両断さん霧ヶ峰さんイズミさんが集まっていた。
そこへ浮いている黒い繭のようなものがふよふよと向かってくる。
「何?これ?」
私がそれに触れると繭が解け中から眠っている赤子が現れる。
「赤ちゃん!?」
「ホダカちゃん!?」
とアオイちゃんが驚き、こちらに駆け寄る。
「ハヅキ、この子どこから?」
「分からない…けど多分月永くんだと思う。黒い繭みたいなのに包まれてて…月永くんの影だと思う」
「よかった…じゃあヒロトは今、父親と戦ってるんだ…」
「かもしれないね…」
「加勢に行く?」
「…いや、待とう。私達じゃ邪魔になっちゃう」
◇◇◇
「ハァ…ハァ…ハァ…ッ」
俺はフラフラと立ち上がり、倒れている父さんを一瞥するとショウスケの下へ向かった。
「生きてるか…ショウスケ」
見ると息はしており気絶しているようだった。
「おい、気力制御リングあるか?…俺のは戦闘でぶっ壊れちまってるんだ…」
俺はショウスケを揺さぶりながらショウスケのポケットを探す。
「あった…壊れてねぇよな?」
と父さんへ取り付けようと振り向く。
「っ!?…おい、嘘だろ」
俺は目を疑った、父さんは…立っていた。
「ううぅ…うううう」
だがその目は白目を剥いており、体は常にフラフラと揺れていた。
「バケモンすぎるぞ」
その時、ふわりと俺の横に何かが降り立つ。
「?」
「おい、小僧。あれを倒せるだけの力は残っているか?」
「チョコ…」
それは、チョコ…つまり犬神だった。
「お前はいつになったら我を犬神と呼ぶんだ」
チョコは「チッ」と舌打ちをする。
「それでどうなんだ」
「あの父さんにどれだけの力が残ってるかわからねぇがどっちにしろ残ってねぇよ…ちょっとでも気を抜けばぶっ倒れる自信がある」
「そうか、では課題の合格祝いだ。少しだけ神力を貸してやる」
「合格祝い?」
「小僧は残っていた精神の扉を開き乗り越えた、そこの発花ショウスケの助けもあったがな。晴れて神力を使えるようになった訳だ」
「本当か!?」
「まだ、ひよっこだがな、体が神力を受け入れられるようになっている…ほれ来るぞ」
見ると父さんは分解の気力を纏い今まさに駆け出そうとしていた。
「うぐおああああああ!!」
「まだ気力が残ってんのかよ」
「とうに気力限界は迎えている、無意識下で脳のリミッターが外れ生命維持に使う気力をも使用している」
「止めねえとっ!」
「今から技のイメージとその技に使う分の神力を渡す。それで奴を捻じ伏せろ」
光がまるで体を包み込むように舞い、頭の中にそのイメージが流れ込んでくる。
父さんは腕を広げ、まるで獣のように突っ込んでくる。
「犬神神術…」
両手の指先を曲げ、右手の指先を下に左手の指先を上に向け牙のように見立てる。黒い影のような神力がその手に重なるように犬の顔を作り出す。そして、俺は走り出した。
「餓狼!」
両手をバッと上下に広げ父さんに噛み付くようにそれを閉じる。犬の顔がそれに応じ、大きな口を開け父さんに噛み付いた。
「ゴガァッ!!!」
父さんは餓狼を食らうと数歩歩いた後にバタリと倒れる。すると、神力もスゥ…っと俺の体から抜けていく。その脱力感に俺は思わず膝をついた。
「これが神力…」
「そうだ、全ての力の上に存在する力、いくら強い分解の気術でもそれを犯すことはできん」
父さんはうつ伏せに倒れ、起き上がる気配はもうなかった。
「明らかに他の力とは毛色が違う…“冷たい”そんな感じがした…」
「冷たい…か、確かにこれは神の力、人間の“温かさ”とはかけ離れているかもしれないな。だがそれは小僧が温かさを知っているからこそ感じる事、その冷たさに呑み込まれるなよ」
犬神にとって神力を体験してこんな事を言う人間は初めてだった…月永ヒロトを神の器に選んだ事は間違いではなかったと思うと同時に、この先確実に月永ヒロトに起こる事象に憂鬱で堪らなかった。
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ではまた次回でお会いしましょう〜