第五章 第15話「手」
前回のファントムブレイヴ
大きな武器を持った3姉妹、アイ、フゥ、ミミと対峙するヒロト。3人との戦いの中で違和感を感じ、その違和感が自分と似たように脳のリミッターが外れる事だとアイの手を見て言い当てる。
ヒロトは3人にしてやれる事は分かったと制限解除のフェイズ2“羅刹”を発動させる。
影が体の大部分を覆う、特に腕・脚・胴の部分は更に硬質化する。顔の右半分が影に侵食され黒くなり額からは黒い影のツノが現れる。
アイ、フゥ、ミミの3人は圧倒されたまま動かない。
「これがフェイズ2“羅刹”…こうなりゃ2本も剣はいらねぇな」
俺は機械柄・鬼丸の氷天を解除し、腰元にしまった。
3人が強張っているのが分かる。
「その迷惑な力も制御しちまえば有能な力になるって訳だ」
「っ!それが何!?人数有利は変わってない!」
「人数有利ね…1年前の俺なら困ってたかもな」
「フゥ!ミミ!」
3人が俺を囲み、飛びかかる。それぞれがタイミングをずらし連撃を浴びせようとする。
俺は、最初に動いたフゥの斧を夜天で受け止め、ミミのハンマーをすんでのところで躱す。受け止めた斧を弾き返すと、アイの大剣を受け止め、それを刃を絡ませてねじ伏せる。次の一撃に動いていたミミのハンマーを突きで突き飛ばすと、振りかぶろうとしたフゥの斧を下から掬い上げ空中へ弾き上げる。アイの横からの大剣を夜天を振り下ろし地面に叩きつけた。
「きゃあっ!」
「うわっ!」
「ぐっ!」
3人共が地面に倒れ込む。だが、それでも立ち上がり武器を構える。
「どうしても、戦うんだな」
「言ったでしょアイ達は自由を…」
「人の道を外れても手にしたい自由なのか?」
「っ!そ、そうよ!」
俺はアイの眼を見た後、影を纏い空中へ飛び上がる。
「武器、しっかり握っとけ…」
夜天を両手でしっかりと握り、切っ先を彼女達に向ける。
「刹那落とし」
空中に造った影の壁を蹴る。次の瞬間には俺は既に着地し夜天を手の鞘に納めた。背後には影が雷のように尾を引いて残り、俺の動いた軌跡を描く。
俺が振り向く頃にやっと3人もこちらに気付き振り返る。
「いつの間に…っ!」
その瞬間、3人の武器が砕け落ちる。
「「「えっ!?」」」
「武器も無い、勝ち目も無い、もう戦うな」
「ぐっ…!じゃあ行き場の無くなったアイ達に死ねって言うの!?」
「いいや、行き場はある。…サブサイドへ来い、俺が面倒見てやる」
「はあ!?何言って…」
「その力の制御の仕方も教える、あるはずの自分の気術も思い出させる…3人の生きる場所を俺が作るよ」
「ふざけないでっ!」
「お前ら人を殺したことなんて無いだろ?戦い方が人を殺しにくるそれじゃなかった」
「っ!」
「勝手に身体を変えられて、勝手に戦わされて、勝手に自由を奪われて…アイは更に2人の妹を守るために戦ってんだよな?」
「…いいの?」
「フゥ!?」
フゥが口を開く。
「フゥ達、サブサイドに行ってもいいの…?」
「あぁ」
ミミが顔を上げる。
「お姉ちゃん…もういいんじゃない?この人なら助けてくれるって思うよ…」
アイは歯を食いしばり震えている。
「なんで…なんでアイ達にそんなに優しくできるの?殺そうとしたのにっ」
俺は笑う。
「じゃあ驚くだろうな、俺より優しいやつなんて困るぐらいこの世界にはいるぞ?」
俺はアイに手を差し伸べる。
◆◆◆
気付いた時には私達3人はある実験施設にいた。そこに来る前の記憶は無く、そこの大人達に自分達が姉妹であることを教えてもらった。
けど、名前は教えてもらえず1番2番3番と番号で呼ばれた。だから自分達で名前を付けた、1番の私がアイ、2番がフゥ、3番がミミ…記憶はなかったけどすぐ打ち解けて仲良くなった。
大人達は毎日何かを実験しているようだった、アイ達は自分達の部屋からそれを覗いていた。ある日、3人が順番に連れて行かれ眠らされた…
目が覚めるといつもの自分達の部屋だった、ただひとつ違うのは手に取ったおもちゃが粉々になってしまう事だった。でも大人達は喜んでいるようだった。
部屋のどのおもちゃを持っても壊れてしまう、アイ達は何かに触れる事が怖くなった、震えている妹の手でさえも壊してしまいそうで握ってやれなかった。
その後、護身用にという名目で戦闘訓練を受けた。厳しい訳ではなかったけど、明らかに護身用ではない事はすぐ分かった。この技術はどこで使う事になるのだろうと不安が募った。
ある日、この施設に沢山の人がやってきて大人達を連れて行った、どうやら捕まったみたいだった。アイ達はそのままタルタロスの病院施設に連れて行かれ、それからただ観察されるだけの生活が始まった。
そして気付いた、身体中が痛い、骨が軋む、今までは無かったのに。タルタロスの人が言うには今までは鎮痛剤を入れられていたらしい、アイ達はもっと自分の身体が怖くなった。
そんなある時、タルタロス中に警報が鳴り響いた。大人達がいなくなると部屋のドアが開いた。そこには黒い人のようなものが立っていた。
「自由が欲しいか?欲しいならついてこい」
そいつはそう言った。アイ達はこの環境から抜け出せる、それだけでもついていく価値があると思った。
ついて行った先で武器を渡され、邪魔者を消せば自由を与えると言われ、アイ達は自分達で自由を掴むしか無いんだと思った。このチャンスを絶対掴んで離さないと、なによりあの生活に戻るのが嫌だった…妹達を守るんだと私は武器をしっかり握り締め、覚悟を決めた。
◆◆◆
そんなアイ達にこの男は手を差し伸べている。
「この手を取れば、お前達は俺の仲間だ。絶対に見捨てたりしない」
私は握り締めたままの手を少し解く。だけど、こいつの目は見れない。
「俺は自由っていうのはいろんな道を選べる事だと思う。今までお前達は選ばされてきた、こっからは選ぶ番だ。俺が、サブサイドが、お前達の選ぶ道を少しでも多く見えるようにするよ」
私は顔を上げる…その手を見た瞬間何故か涙が溢れた。
光…影の気術を使うはずのこいつがまるで光を纏っているように見える。
「フゥ…ミミ…いいのかなぁ…」
フゥとミミが私を抱きしめる。私は手を開き、その手へ伸ばす。
「握ってみな」
私は恐る恐るこの人の手を握る、いつぶりに人の手を握っただろう…その時にはもう涙が止まらなくなっていた。
「優しい手だな、武器を握るような手じゃねぇ」
この人はニッと笑う。
「俺の名前は月永ヒロトだ。アイ、フゥ、ミミ、よろしくな」
アイ達は頷くとそのまま崩れ落ち、3人で思いっきり泣いた…そういえばこんなに泣いたこともなかったかもしれない。
私は2人の手をそっと握り、胸に当て、感情のまま泣きじゃくった…
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ではまた次回でお会いしましょう〜