第五章 第13話「本命は」
前回のファントムブレイヴ
兄弟の殺し屋・バウンディに囲まれるダイチと霧ヶ峰。だが、兄弟を切り離し1対1で戦うことで難なく2人を倒し捕らえる。
そして同時刻、アオイと両断アズサは…
あたしとアズサさんへ向かって、奴らが歩き出す。
「麗未、油断するなよ。奴らは殺人鬼だ今までの敵と同じだと思うな」
「はい!」
「俺は鎧の女をもらうぜ?」
「いいでしょう」
アズサさんに狙いを付けた男は腕から刃を生やし、あたしへ向かってくる男は手袋をはめ、腰の刀を抜いた。
「いい悲鳴で鳴かせてやるよ」
「いい悲鳴で鳴いてくださいね」
2人はあたし達に飛びかかる。
「失った気憶!ドラゴン・ソウル!」
「千の剣発動」
あたしとアズサさんは2人の攻撃を受け止め、飛び退く。
「麗未、任せたぞ」
「はい!」
◇◇◇
腕から刃を生やした男はニタァと笑いながら両断アズサに迫る。
「気色の悪い男だ」
「褒め言葉だぜぇ!」
剣と腕の刃のぶつかり合い、男は執拗に手首や足を狙う。それを両断は無数の剣で受け止め押し返す。
「人がよぉ、斬られて一番血を吹き出すのは首なんだわなぁ!だけどよぉそれだと一撃で死んじまうだろぉ?だから手首や足を斬って何回も楽しみたいんだぁ俺はよぉ!」
「血抜きのジャック、一部ではヴァンパイアとも呼ばれていたゲスが。私の血一滴でも見られると思うな」
周囲を舞う剣達がジャックを弾き上げ、木に叩きつける。
「ぐぅっ!」
だが、ジャックはまだ笑う。
「人間ってよぉ切れ味の良い刃物より悪い刃物の方が血が出るんだわなぁ…経験論だけどよぉ。だが、その鎧や骨を断つ時は“これ”がいいんだわなぁ!」
すると、ジャックの腕から生えた刃がチェーンソーのように変わりそのまま同じくチェーンソーのように動き出す。そしてそれを自分を押さえつけている剣に振り下ろし、容易く折った。
「まずはその邪魔な剣と鎧をぐちゃぐちゃにしてやろうかなぁ!」
ジャックは両腕のチェーンソーを振り回しながら真っ直ぐに両断へと走る。
「物は試しだ、千剣ノック…受けてみろ」
両断の背後から無数の剣が現れ次々にジャックへ飛んでいく。ジャックはそれを両腕のチェーンソーで薙ぎ払う、剣達はやはりいとも容易く折られていく。
「張り合いがねえなぁ!もう…死ぬか?」
「 Thousand…意味知ってるか?私の剣はまだ900はあるぞ?」
10…20…30…と両断の背後に剣が現れる、それらが一斉にジャックへと加速する。
「ぐっ!何本でも…ぐ…叩き折ってやるぁ!!」
その威勢虚しくジャックは剣の山に埋もれてしまった。が直後、剣を払い退けジャックが飛び出す。
「血ぃ見せろぉ!!」
両断は冷ややかな目つきでジャックを見る。
ジャックは両断へチェーンソーを振り下ろした…しかしそれは余裕の表情で躱されてしまう。地面を虚しく抉る刃、両断は左足に体重を乗せ右足をジャックの顎目掛け蹴り上げた。
「ぐぎ!ぐあああ!!」
ジャックは顎を蹴り上げられながらも地面を抉っていたチェーンソーを振り上げにかかる。
「右足!もらったぁぁ!」
「…他愛もない。そして、しょうもない…」
両断は後ろへバク転しながらそれを躱し、手に一本の剣を出現させる。
「私の剣は時間経過で復活するが…今まで折られた剣の分、お返ししなくてはな…“ 千の剣・頂の剣”…」
その剣はスラリと長く、白く輝く。
「天頂千裁!」
一振り…にも関わらずジャックを無数の斬撃が襲う。腕のチェーンソーは砕け、斬られた衝撃で吹き飛んでいく、そしてその先には…
◇◇◇
男は軽快に刀を振り、スタスタとこちらへ歩いてくる。
「特徴からして、バラバラ連続殺人の…確か通り名は解体屋ディモー」
「ご明察、もともと精肉屋をやってましてねぇ?ディモーテミートって店名だったんですけどご存知ですか?」
「知らないね、殺人鬼の店なんて」
「そうですか、まぁどうでもいいんですけど」
あたしは拳に水を纏いディモーへ飛びかかる。
「秒で終わらせてあげる」
「だといいですね…はぐぁ!!」
拳は命中した、けど何故か威力が出てない…それに腕が勝手に後ろに…!
その時、自分の腕に何かが付いていることに気づく。
「なにこれ!?」
あたしはそのまま背後の木にビタッと磔にされる。知らぬ間に両足と左腕にもそれは付いていた。
「なにこのスライムみたいなキモいの!」
剥がそうとしても何故か力が入らない。
「イタタタ…まさか当てられるとは、見くびっていました」
「あんたの気術なの?」
「そうです。それは“バインドガム”、気配ゼロ・膨張収縮自在・触れた部位への脱力効果…いくら強いとはいえ僅か1mmの気配のない物体を察知し避けることは相当難しいでしょう」
ディモーは服についた汚れを払い、あたしの前に立つ。
「ふーむ、まずは四肢からいきましょうか」
「何勝手に始めようとしてんだゲス野郎!リヴァイア!」
あたしの体からリヴァイアが飛び出し、ディモーへ襲いかかる。
「何!?」
リヴァイアはディモーへ噛み付き、木の幹へ叩きつける。ディモーは刀を振るが体が水であるリヴァイアにそんなもの効く筈もなかった。
「バインドガム!」
「っ!」
段々とリヴァイアがディモーから剥がれていく、そしてリヴァイアも同じように木に張り付けられる。
「ビーストに使用したのは初めてですが…どうやら効果ありのようですね」
「リヴァイア!」
「ふぅ、これで攻撃手段は無くなりましたね」
ディモーはどこから取り出したのかマジックペンを持っていた。
それを開け、あたしの前でしゃがむとおもむろにあたしの膝にペンで点線を描き始めた。
「何やってんの!?」
「目印ですよ、流石にこの刀では関節に入れないと切り落とせませんからね」
ディモーは描き終わると、刀の刃を見る。
「刃こぼれなし…」
とあたしの膝へ狙いを定める。
「久し振りなので手元が狂わないとイイですが」
そしてそのまま振り上げた刀を勢よく振り下した。
キィンッと高い音が響く、振り切った刀は半分刀身が無くなり、折れた半分は隣の木に刺さる。
「え?」
「龍の鱗…そんななまくらであたしのこの綺麗な足を切れる訳ないでしょ?」
あたしは軽く水のブレスを吐く。ディモーはよろめき尻餅をつく。
「ドラゴン…?」
「あんたのこの気術、確かに力は入らないし厄介ではあるけど、気術は使えるのよね」
あたしは腕と足に龍の鱗を纏いその鱗を逆立てる。するとバインドガムはいとも簡単に裂けあたしは解放される。リヴァイアも同じくバインドガムを抜け、あたしの下へ戻る。
「ではもっと大量に…」
「リヴァイア」
リヴァイアがあたしを中心に水の球体になるそして、パンッと弾けた。
「今ので細かくなったバインドガムはあたしの周りから無くなった。今からあたしがあんたをぶっ飛ばすのと飛び散ったバインドガムがあたしを捕まえるのどっちが速いかしらね」
「ぐぅ…!」
拳に水となったリヴァイアを纏う、その時ふと自分の足に書かれた点線が目に入る。
「あんたこれ…油性マジックで書いてんじゃん!…なかなか落ちないでしょうがぁあ!!」
獣拳・青海波!!
拳から放たれた水の衝撃波がディモーに直撃する、それは盛大にぶっ飛んだ。
ぶっ飛んだ先、反対側からも何かが現れそして衝突する。あたしは駆け寄るとそれはもう一人の男だった。そいつが飛んできた方からアズサさんが現れる。
「アズサさん!グッドタイミング!」
「あぁ……それにしても骨のない奴だった」
「確かに…これなら王都の気術者でもどうにかなりそうだけど…やっぱり本命は…」
「月永の父親か…」
あたしは少しヒロトが心配になる。
「ひとまずこいつらを縛り上げておくか」
「ですね」
とあたしは気力制御リングを取り出し2人に取り付けた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜