第五章 第11話「狂暴」
前回のファントムブレイヴ
アグリシオンで第3支部の面々が戦う中、第1支部にも刺客が迫っていた。我妻マコト率いる第1支部第1隊は雷殿支部長からの指示で戦闘準備に切り替え、警戒体制に入っていた。
そこへ無数のバイクの集団が現れる、それを率いていたのは駕西という我妻と同じ読み方の名前の男だった。どうやら我妻と駕西は知り合いのようで…
第1支部第1隊隊長の我妻とバイク群を引き連れ現れた駕西という男が対峙する。
「マコっちゃん、戦う前にそいつをなんで知ってるのか教えてほしいんだけど…」
蛛雲アリサが眉間にシワを寄せ問う。
「それは後…」
「いいや、聞かせてやろうぜ?我妻、俺達の過去を!素晴らしいあの時代を…!」
「…」
「隊長…?」
我妻は覚悟を決めたように握り締めていた拳を解いた。
「あれは俺がまだ学生の頃の話だ」
我妻は駕西を睨みつけたまま話し始める。
「俺とこいつは界隈じゃあ名の知れた不良だった…東の“狂犬”我妻、西の“暴君”駕西とお互いその名を轟かせ、気付けば2大巨塔なんて呼ばれていた」
「そしてある日、徐々に対立関係になっていた俺と我妻のチームが遂にぶつかったぁ…それはそれは凄い抗争だった…今思い出したも鳥肌が立つ…!」
「俺とこいつのチームはほぼ互角、互いの兵隊がどんどんと倒れていき遂には…」
「俺とお前だけになった…!」
駕西は天を仰ぎ、ニイッと口角を上げた。
「何十人も人が倒れるその中央で俺達は限界まで戦った…結果、俺と駕西は引き分けた」
「その後、俺と我妻のチームは互いの強さを認め合い、更に高みを目指すために俺達をトップに据えた新チームを結成した!」
「お互いの気術から一文字ずつ取って俺達は“狂暴”と名乗り、不良界のトップに上り詰めていった…」
「狂暴…当時じゃ知らない人はいないくらい有名な名前ね…まさかマコっちゃんがリーダーだったなんて…でも、じゃあなんで2人は…?」
蛛雲アリサは問う。何故決別したのか…当然の疑問だ。
そして2人が同時に口を開く。
「「こいつは俺を裏切った」」
「え?」
「我妻は卒業すると同時に俺にこう言った、サブサイドに入ると、俺との悪のトップを目指す約束を蹴ってだ!」
「約束通り、不良界のトップになっただろう。お前はいきすぎたんだ…これだけは止めようと言っていた犯罪にまで手を染めるようになるとはな…!」
「俺は悪のトップになる男だ、犯罪だろうがなんだろうが関係ねぇ、邪魔なもんは蹴散らして行くんだよ。お前もそうだったろ?」
「お前と一緒にするなクズ野郎」
「ふっ…まあいい、お前を引き抜きたかったがお前ももう俺の邪魔者だ。かつての狂暴のメンバーにタルタロスから出てきた奴らもいる。たった数人で止められるかなぁ?」
「「止める」」
その時上空に人影が現れ、我妻と同時に止める宣言をする。
「っ!支部長!」
「我妻…そいつは頼んだぞ。後ろの雑魚は俺と4人でどうにかする」
「はい!」
雷殿支部長と第1隊のメンバーは2人のガサイを背に100人以上の群衆へ向かう。
「あーあーあー、すっかり犬になっちまってよぉ」
「俺は俺の正しいと思う道を進んでいるだけだ。あの人について行く、それが俺の道だ」
「俺もこの道が間違いだなんて思ってねぇ、てめぇをぶっ倒してトップへ登り詰める!どっちが正しいか決めようじゃねぇか!」
2人は睨み合う。
「駕西ぃ!!」
「我妻ぃ!!」
そして、2人の体が変化し始める。
我妻は、四つん這いになると体は大きくなり筋肉が隆起していく。顔は犬のようになり大きな牙が生え、さらに棘の生えた尻尾が伸びる。
駕西も、四つん這いになると体が大きくなり、全身から黒い毛が伸びる。顔は犬のようになり大きな尾が生え、本来耳がある場所からは大きな湾曲したツノが伸びる。
「お互い、この姿は久しぶりに見るなぁ狂犬よ」
「あぁ、お前の暴君も衰えてないみたいだな」
2頭は睨み合いながらお互い背を見せぬよう円を描くように歩く。そして、同時に飛びかかった。
「「グルアァァァア!!!」」
◇◇◇
田園を抜け、少し建物が多くなってきた辺りを歩く月永ケンスケ。ふと、細い路地に入る。
「コードネーム・ジャガー、来ておるな」
そう言うと、屋根の上から1人の男が瞬時に降りてくる。
「月永さん、ジャガー参りました。して要件とは?此度の作戦と関係が?」
彼はジャガーというコードネームを持つ、犯罪取締組織“月光”のメンバーである。
「あぁそうじゃ、耳を貸せ」
と言われるままにジャガーは体を近付ける。その時、月永ケンスケはジャガーの胸に機械を付ける。
「!?月永さん、これは?」
カチャカチャと音を立てながら小さな機械はみるみる変形していく。
「う…腕が…!足まで!もごっ!」
あっという間にジャガーは腕と足を拘束され、倒れ込む。そしてそれは顔まで伸び口も覆われていく。それを月永ケンスケは静観していた。
「んん!!ぐぅんん!!?」
「気術が使えんじゃろ、気力制御装置も付いておるからな」
ジャガーは必死に動き回るが思うように動けない。月永ケンスケが手をかざすと完全に全身が覆われてしまった。
「残念じゃが、新しい機械の実験でも試用でもない…お前にはただ“補給用の気力”を取るためだけに呼んだんじゃ」
ジャガーの胸元に付いた本体が赤く光る。その光りが点滅しその点滅が速くなるにつれてジャガーの動きは少なくなっていく。やがて、赤い光りが緑色に変わる。
それを確認すると月永ケンスケは本体のボタンを押す。すると、機械は変形を解いていきジャガーを解放する。だが、ジャガーは横たわったままだった…
「すまんな、それは無気力状態じゃ。お前の気力を根こそぎ吸い取った…死ぬ前に誰かに見つけてもらうんじゃな……聞こえとらんか」
月永ケンスケはその機械を懐にしまい森の方へと戻っていった。
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