第五章 第9話「託された剣」
前回のファントムブレイヴ
農業都市アグリシオンへ到着し森へと向かうヒロト達。その途中月永ケンスケは市長へ会いに行くと姿を消してしまう。
森へ到着後、森の中の市民を避難させるべくヒロト含む6人が森へ入る。ヒロトとアオイがそこにいた魔導士の子を持つ家族を避難させようとするが…
ダイチからの連絡に一瞬固まる俺とアオイ。
「どうする?ヒロト」
「…とりあえずアオイは外の両断さんと合流して動いてくれ」
「オッケー」
俺は郷田隊長のインカムへ繋げ、話す。
「郷田隊長、聞いてましたか?こちら避難は難しいです。指示を」
〈もう時間がない、その家を死守する作戦でいくぞ。私も森へ入り家の護衛へ着く〉
「了解」
俺はレンジとマミさんに真剣な眼差しを向けて話す。
「いいですか、この森にホダカちゃんを狙っている奴らが入ってきました。この家はうちのサブサイドでトップの実力のある2人が守ってくれます。絶対に家から出ないでください」
「…!わ、わかりました」
俺は最後に気になっていた事を聞いた。
「ちなみに父親は今どこいるんですか?」
2人がすぐに返事をしない、俺はまずい事を聞いたと後悔する。
「父さんはいないよ、少し前に死んだ…母さんの医療費とか生活費とかいろいろお金が足りなくて、めちゃくちゃ働いてたんだ…でも職場で事故にあって…だから俺がこの家を守るんだ…!」
マミさんが顔を伏せる。
俺は膝をつきレンジの肩に手を乗せる。
「レンジ、お前歳は」
「8歳だ」
「そうか…いいか?お前はまだ気術も使えない子供だ…だけどその眼は大人に負けねぇ覚悟のある眼だ」
俺は肩に乗せた手を、レンジの胸の前に持っていき手のひらを上に向ける。そして、その場でレンジの背丈に合った剣を造り出した。
「え…?」
「お前が守れ、レンジ」
レンジはそっと柄を握り、ゆっくりと持ち上げた。
「お前に合わせて造った、重くはねぇはずだ」
「うん…!」
俺は立ち上がり玄関へ向かう。
「じゃあ、俺は行くからな。頼んだぜ!」
そうして、家を飛び出した。
「ダイチ!状況は?」
〈僕と霧ヶ峰さんは森の奥の方まで来ていたから南からの2人に、西からの2人は比較的そこから近いから麗未さんと両断さんに〉
「じゃあ、東の3人に俺は行けばいいんだな?」
〈でも3人だよ!?誰か呼ばないと〉
「バカ言え、俺を舐めてんな?3人なら最悪足止めだけでもできる」
〈…信用するよ?〉
「あぁ!」
〈じゃあ月永くん頼んだ!〉
「あっ!ちょっと待て!1年経って忘れたのか!?」
〈え?何?〉
「東ってどっちだ」
◇◇◇
俺はダイチに言われた方向へ走る。
「しかし、どこも同じような風景で真っ直ぐ進んでるかも不安になるな」
立ち止まり木の間から見える太陽の位置を確認する。
「俺も流石に成長してんだ、方角は分からんが太陽の位置で真っ直ぐ進んでるかどうかぐらいは判別できる」
よしっと確認しまた走り出す。
というかここまで広いのにダイチの索敵範囲も随分広くなったな、霧ヶ峰さんもいるからか…?とその時気配を感じる。
「っ!!」
と同時に3方向から人影が飛び出す。そして、その3人が持っていた巨大な武器のようなモノが振り下ろされた、飛び退きそれらをかわす。
「お出ましか」
土煙を1人が持っていたそれを振り、払い除ける。煙の中から現れたのはなんと3人とも少女だった。
そして3人ともがその背丈の倍はあろうかという武器を手にしていた、1人は大剣、1人は斧、1人はハンマー…あんな華奢な体のどこにあれを振り回す力が…それが気術か?
「「「みぃーつけたぁー」」」
「それはこっちのセリフだ」
◇◇◇
僕と霧ヶ峰さんは森の南、つまりアグリシオンから見れば奥へと進む。
「霧ヶ峰さん!もうすぐです、向こうも移動してます!」
「オッケー了解っす!」
「っ!?待ってください!霧ヶ峰さん!突然敵の移動速度が変わりました!」
「え?」
なんだ…?突然この2人の移動速度が速くなった…木に当たりながら移動してる?
「霧ヶ峰さん!…来ます!」
耳を澄ますとその音が聞こえてき始めた。
「「ヒャッハーー!!」」
同時に2つの球体のようなものが通過する。それらは僕らの周りを木に当たりバウンドしながら移動し、そして僕らの前で衝突した。
「兄さぁん…こいつらが今日の獲物かーい?」
「あぁ、久しぶりだから腕がなるなぁ弟よぉ」
その2つの球体は衝突した後その場で回転し、そして人の姿となる。
「こいつらが俺たち兄弟の新しい人殺し人生幕開けのページに名前を書く奴らだぜぇ!」
◇◇◇
「おやおやおや…女性が2人ですか」
あたしとアズサさんの前に白い服を着た男、そして木の上にもう1人男がいる。
「いい悲鳴が聞けそうだなぁ…」
そう言いながら木の上の男が降りてくる。
「あなたの殺しは美しくありません、なのであなたと組むのは心底嫌だったんですが…」
「俺もだぜ…だがそれよりも…」
2人はまるで狂ったかのような笑みを見せる。
「白いスラッとした手足…」
「生き生きとした血管…」
「バラしがいがありますねぇ…!」
「血抜きのしがいがあるなぁ…!」
2人がこちらへ歩き出す。
「構えろ麗未」
「はいっ!」
◇◇◇
「いいか発花、お前はここ担当だ勝手に動くなよ」
「なんでだよ、俺も行く」
郷田隊長は怪訝そうな顔をする。
「ここはアグリシオンだ、お前の炎は目立ちすぎる。森の中で炎が上がっているのを見たら農業をしている人達はどう思う」
「ここでやっても同じだろ、というか俺は森を燃やしたりしねぇ」
「それをアグリシオンの人達は知らないだろ」
「ぐ…」
郷田隊長は俺に背を向け森へ向かう。
「発花」
背を向けたまま俺へ言葉を投げかける。
「背中を預けられるほどの男になったって事だ、後ろの2人とともに絶対にここを通すな…頼んだぞ」
「っ!…了解」
そうして郷田隊長は森の中へと消えていった。
「ったく…まぁ少しだけ調子に乗ってやるか」
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ではまた次回でお会いしましょう〜